3
すると、目の前のユーレンは悲し気に眉を寄せた。
いやいやいや。そんな表情する場面ではないのよ!
というよる、そんな表情するキャラクターではないでしょう!
あんたの腹の中真っ黒なの、私知ってるんだからね!
「ミリーには、そう見えてたんだね」
愛称でなんて呼ばないで!
溜め息を吐くのと同時に吐き出された言葉は小さく、どうにか聞き取れるくらいだった。
ユフィーがもう一度ユーレンの手をとろうした。…あ、また振り払われた。
しかし、ユフィーは強い。これくらいで乙女ゲームのヒロインはめげない。
「ミリアリア様!私とレン殿下は、そんな関係では…」
なんだか、最後の方を濁して怪しい雰囲気をだしている。レン殿下、とはユーレンの愛称だ。
私はいつも学校ではない場所では、レンと呼んでいる。
「本当に、その通りだよ」
「…え?」
ユーレンの言葉に、ユフィーが驚いた。
私を覗きこんでいたユーレンが、後ろを振り向いてユフィーの方を見た。私からはユーレンの表情も見えなくなる。
「僕がウーレル男爵令嬢に近付いたのは、王命があったからだよ。多くの高位貴族の子息に声をかけている女性がいると。それと、5年前謀反の罪で王都を追われた罪人と繋がりがあると」
「ー…は?」
表情は見えないが、ユーレンは淡々とその言葉をつむいでいく。
ユフィーの顔色がみるみる蒼白くなっているのがよく見える。この場は、私の断罪の場のはずだ。
なのに、どうしてヒロインであるユフィーが断罪されているの?
たしかに、乙女ゲームの攻略対象には、謀反罪で王都を追われたかつての公爵もいたような気がする。彼を攻略するのは、とてつもなく大変だった気もする。それに、攻略対象は伯爵子息以上で、確かに高位貴族しかいない。
言われてみれば、その面々は男爵令嬢が話しかけるのもおかしい立場の人々だ。
同じ貴族といえど、伯爵位以上は高位貴族。子爵、男爵、騎子爵は低位貴族であり、自分から声をかけることすら無礼と言われている。
それなのに、男爵令嬢であるユフィーが様々な高位貴族男性と繋がりがあるのはおかしいのだ。
乙女ゲームの世界だから、と気にしてもいなかった。
「僕だって、この男爵令嬢と出掛けるよりも、ミリーと一緒にいたかったんだ。でも、父上からの命令だからね」
「…レン?」
あ、間違った。驚きすぎて、つい愛称で呼んでしまった。
ユフィーの顔色がなくなっている。今にも倒れそうだ。後ろの貴族子息たちが、オロオロと見守っているが、王子から言われているせいか、手は出せないよう。
ユーレンが、私の方を見た。
エメラルドの瞳が、先程までとうってかわって楽しげに細められた。




