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「貴方のことなんて、なんとも思っていませんわ。貴方のようなお洒落でなく、社交性もなくって、気のきくプレゼントも送れないような男性、誰にも必要とされていませんわ!」


貴族の紳士淑女の集まる王立学校。

その教室で、私は目の前の金髪碧眼男にそう言い放った。

目の前の男はひどい侮辱をされたにも関わらず、唇に薄い笑みを張り付けたままその場に立っている。


私に侮辱されたその男の名は、ユーレン・リー・シャロン。このシャロン王国の王子にして、王太子でもある。

そして、侮辱した当の本人であるわたしは、そのユーレン王子の婚約者、ミリアリア・ルモンド。宰相をつとめるルモンド侯爵の娘である。


幼い頃より婚約者として過ごしてきた王子に、いつしか友情ではなく愛情が芽生えたのは最近の話だ。



さて。

何故、冒頭から愛する婚約者を罵倒しなければならないのか。

それは、この罵倒することが一番私にとっての最善の結果になるからである。


この世界は、乙女ゲームの世界だ。それも、身分の低い女の子が、王太子や侯爵、伯爵子息等と恋をする、よくある乙女ゲームの世界そのままなのだ。


前世のことは詳しくは思い出せないものの、その乙女ゲームの内容だけはよく思い出せる。…前世の私、どれだけ乙女ゲームが好きだったんだ…。


そんな乙女ゲームの世界の、王太子の婚約者。それが、私の今のポジションだ。それは、つまりもちろん悪役令嬢、と呼ばれるキャラクター。一番ひどいエンドは、公開処刑。それから、太ったおじさんとの結婚、流刑、社交界への出入り禁止、と幅広いエンドがあるが、もちろん悪役令嬢にハッピーエンドは存在しない。

だから、せめてバッドエンドでも良い方を選んだ。それが、冒頭の罵倒へとつながる。


ここで罵倒しておけば、選ばれるのは社交界への出入り禁止エンドのはずだ。

愛する王太子は、ぽっと出の男爵家養女にとられてしまうが、公開処刑やおじさんに嫁がされるよりは良い。



…良いはずだ。

良いはずなのだ…。


王太子の後ろには、高位貴族に囲まれた男爵家養女ユフィーが不安そうな顔で立っている。

ユーレン王子の腕をそっと掴んで、気遣うように見上げる。気の弱そうな細い線の彼女に、そのように見上げられて落ちない男なんていないだろう。


他人が触れることを嫌がるユーレン王子も、ユフィーの手は振り払わない。…つまり、そういうことなんだろう。


私の見ない間に、ふたりは乙女ゲーム通り仲を深めてきたのだ。これが、最後のイベントになる。王太子の嫌う婚約者を皆で断罪し、私はどれかのエンドに進む。だから、先手をうってあげた。ここで愚弄すれば、王族への不敬罪だけを問われ、社交界追放だけですむはず。



次にくるであろう、ユーレン王子からの婚約破棄宣言を待つ。

目を閉じて、感情を悟られないようにして。



「ミリアリア様、ひどい…」


ユフィーの声が聞こえた。あなたは良いから。

最後になるであろうユーレンの声だけに意識を向ける。


フ、とユーレンが息を吐いたのが分かった。

くる…!


軽く閉じていた目に力が入る。覚悟はしていたが、恐いものは怖い。好きな人からの拒絶の声は、想像するだけで吐きそうになるくらい泣けた。



「ミリー」



静かに、わたしの愛称が呼ばれた。前世で大好きだった声優さんの声そのものである。



「ミリー、ごめんね。僕が全部悪かった。これからは気を付けるから、許してくれない?」



え、と閉じていた目をつい、開いてしまった。

ユーレンの腕をつかんでいたユフィーも予想外だったらしく、目を見開いている。それを見ていたものだから、ユフィーとばっちり目があってしまった。


彼女のことは、別に嫌いではない。大好きなユーレン王子の心を奪ったことは許せないけれど、それはユーレン王子の選択だ。仕方がない。


それよりも、ユーレン王子は今。

なんて言った?




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