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さよならの代わりに

作者: 秋月

久しぶりの投稿。

人気抜群のイケメンアイドルな彼氏は年下23歳。気付けば交際5年目。自分は29歳…人気声優とは言っても顔だしはほとんどしてないし、オンとオフで声も変えてるから周りにバレて騒がれるようなこともない。人並みに結婚願望もある。…潮時かな。


優しい彼はなにを間違えたか6つも年上の自分に愛を囁いてくれるけど、私は好きの言葉だけを鵜呑みにしてずっと待てるほど若くも世間知らずでもない。いつか彼は自分に相応しい可愛くて若い女の子を選ぶんだろう。

その前にこっちから別れを…。付き合いだした時から考えてはいたけど、こんなに彼を好きになって、こんなに続くとは思っていなかったから…。さよなら、の一言が言えない。



「あみさん、これ。」


彼のこんなに冷たい声は初めて聞いた。


「この写真、この前の打ち上げだよね?」


彼の手元には一冊の週刊誌。そこには2人の男女が抱き合っている写真がデカデカと主張している。その横にはイケメン歌手ソウマ熱愛発覚⁈お相手は人気声優七海あみ!なんて文字が踊っている。

私は浮気なんてしてないし、つまり熱愛の事実はない。写真もソウマ君が特別出演しているアニメ映画がクランクアップした時の打ち上げでのものだ。抱き合っているわけじゃなくて、フラついた所を助けてもらったのを上手く撮られただけで、横には他のキャストやスタッフもいる。


それでもこの写真が事務所の権力ってやつで差し止めになってないのは、互いの事務所が映画の話題作りになるって判断したからで。

…わたしが言い訳しないのは、これで春人が私を振ってくれると思ったから。

まさか、明日発売の雑誌を今日持ってこられるとは思わなかったけど。


「あみさん…何にも言わないなら、俺も勝手にするから」


言うなりすぐに部屋を出ていく春人。

…望んでいたことなのに、涙が溢れてきた。




携帯の電子音が響く。時計を見れば10時を少しすぎている。気付けば泣きながら寝ていたみたいで瞼が重い。

まだ鳴り響く携帯を見れば母さんの名前。…一瞬違う名前を期待してしまった自分がイヤになる。


「もしも、「あみ!どうして教えてくれなかったの!結婚なんて…ママ聞いてないよ!」


まくし立てるように話す母さんの声に、思わず携帯を耳から離す。


「…母さん、違うから。ゴシップ記事なんて芸能人にはよくある事でしょ?何にもないの」


「記事?ああ、そういえばそんなのあったわね」


「え?」


「ママが言ってるのは、春人くん!イケメンアイドルの春人よ!ママ、彼なら大賛成♥︎」


「…っは?」


「もう!隠さなくていーわよー!朝のテレビ録画してる人いないかしら?あ、でも何回も放送されてるし大丈夫かしらねー♥︎」


働かない頭を賢明に動かす。

春人…?結婚?

ソウマ君の事じゃなく?


とりあえず母さんの言葉を思い出しつつ、テレビを付ける。

昼前のいつもの情報番組では、おせっかいな司会者が笑顔とは言い難いニヤニヤ顏で軽快に言葉を紡いでいる。


『いやー!しかし驚きましたね!人気アイドルoneの春人、初スキャンダルが公開結婚宣言!』

『お相手は人気声優の七海あみさんだそうで…。5年間お2人は密かに愛を育んでいたんですねー』

『では、皆さんにももう一度ご覧いただきましょう!これが話題のシーンですね、』


司会者がスタジオのモニターに注目を促し、朝の情報番組が映し出される。


『えー、今日はゲストに人気アイドル、春人さんに来ていただいてます。今回は新ドラマとoneのニューシングルの告知もしてくださるとか…』

『はい、よろしくお願いします』

『oneはいまやアイドル界の頂点と言われますが、いま何かと話題のソウマのニューアルバムも同日発売と言うのはプレッシャーじゃないですか?』

『話題…。あぁ、今日発売のどこかの雑誌に載ったソウマ君のスキャンダルですか?』

『あら!春人さんも興味あります?同世代の恋愛スキャンダル!』

『そうですね…。まぁ、あれデマですけど』

『えー!そんなあっさり!ソウマさんと親しいんですか?本人情報?!』

『いやいや、相手の方は僕の奥さんになる人で。』

『…え?』

『ソウマ君には申し訳ないですね、あんな勘違いさせるような撮られ方しちゃって。彼女も恐縮してました。フラついた所を助けてもらったのに、って』

『そ、それは!…す、スクープ!詳しく聞かせてください‼︎』



その後はひたすら2人の馴れ初めとか、デートの場所とか…。

ドラマもCDもソウマの話さえ忘れ去られたかのように、春人は笑顔で話していた。


「あみー?聞いてるのー?」

「え、…ぁあ。うん…」

母さんの言葉は聞こえてるけど、目の前の映像に頭が付いていかない。


「全く…!とりあえず、近いうちに2人で会いにいらっしゃいよ?忙しいとはいえ、籍だけなんて寂しい事許さないからね!」

言うだけいって、母さんは電話をきる。でも私は暫く動けずに停止していた。


なにがどうなって…?



よくよく携帯を見れば、事務所からの着信が大量に入っている。その中に一件、春人からの留守電。時間的には、あの朝の番組の直前だ。


「…あみさんは仕事を続けたいだろうし、無理強いしてやっぱり年下なんてガキだって離れていかれちゃ意味ないから言わなかったけど。こんなことになるなら、最初からあみさんは俺のって示すんだった…。今回のこと、あみさんに非がないのは分かってるけど。あみさんの隣は譲れない。もう我慢しない、…勝手にする。」


「結婚しよう」



実は、あの写真はソウマ君と事務所側が話題作りに撮らせたもので、私と春人の関係を知っている社長は私には秘密にしていたとか、それを知った春人が社長を脅して結婚許可をもぎとったとか…。春人の結婚宣言で、私とソウマ君のスキャンダルもどきはすっかり忘れさられて件の週刊誌社は結構なダメージを受けたとか、私の映画も春人の新ドラマも大好評だったとか…。社長が「…結局、春人の考えた通りになってんだろ?」って苦笑いした事なんて私はまだ知らない。


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