表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

Side004_名前とスキル

「で? いつになったら名前を頂けるんでしょうか? さっさとしないと役目放棄して一人で行きますけど?」

「ちょ、ちょっとタンマ! 分かってるよ。これからつけるトコだから!」

「……なら早くしてくれませんかね? この駄神が」

 もはや神としての威厳が皆無なその呼び方に若干イラッとしつつも、決めなければ自分の抱えている問題は解決しないと諦めた男は眉間に皺を寄せつつ名前の候補を列挙していった。

「えっと、それじゃあポチってのは――」

「そんな犬みてぇな名前付けられて喜ぶと思ってんですか? この駄神」

「わーったよ。それじゃミケは――」

「猫か? そーかそーか、猫耳でもつけて『お兄ちゃ~ん☆』とでも呼んでほしいんですね。この変態駄神」

 その後もいくつか候補を挙げるも、全て「却下」となってしまう。ついには男の方が音を上げ、「どうしろってんだよ……」とがっくり腰を落として両手を地に付けた。

「……てんでお話になりませんね。ネーミングセンスが欠片もない」

「それじゃあ自分で付ければいいだろ!」

 やれやれ、と肩を竦めて見せる女の子に、半ばヤケになった男が告げると彼女はキョトンとした顔で「いいの?」と訊ねる。

「もうどうしようもないからな。俺が決めるより遥かにマシだろ」

 ため息を吐いて口を開く男に、女の子は「だったら――」と口元に手を当てながら呟く。

「リンネ」

「リンネ?」

 確認のために聞こえてきた言葉を呟いた男に対し、女の子はこくりと首を縦に振る。

「……分かった。それでいいのなら、俺も異存はない。宜しく頼むよ、リンネ」

 すっと差し出した右手に、女の子も同じように右手を出して握手を交わす。これでようやく、と思っていた矢先――

「……で? 御主人様マスターの名前は?」

 どうやら、まだ先には進めそうもないと、苦笑いを浮かべつつ心の底で嘆息する男だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「名前……名前かぁ……」

 告げられたリンネからの問いに、男はふとこれまでの事を脳裏に思い描きながら呟いた。

(どうしよう……ここに来ることに焦点を置いていたから、正直何も考えてない)

 内心冷や汗を掻きながら、男は脳内に次々と候補を挙げていく。だが、「呼びやすい名前」「違和感を覚えないもの」などと条件をつけて候補を絞るうちに時間が過ぎ去っていく。

「……まだですか? いい加減にしてくれ―」

 待っているのも飽きたと言わんばかりにげんなりとした表情で訴えるリンネ。しかしながら男はそんな訴えに耳を傾けることもなく、自分の世界にどっぷり浸っている。ブツブツと「これがいいか……いやでも――」などと口ずさみながら、口元に手を当てて考え込むその仕草は端から見るとヤバい奴としか言いようがない。

 時折ニンマリとだらしない笑みを浮かべては「これから世界中の奴らが俺のことを……」と呟いていることからもその気持ち悪さがなんとなく伝わるほどだ。

「よし! 待たせたな」

「ふぇ? あぁ、もう終わったのか」

 それからしばらくの後、ようやく名前を決めた男はこっくりこっくりと舟をこいでいたリンネを起こす。

「あぁ、俺の名は……ホルストイヴィル・アウストラングル・リゲルヴァヘイト・カリバヒャラ・ロングルニヒト「長いわ!」――ぐべらっ!?」

 自らの名を告げている最中の男の左頬に、リンネの右ストレートがいい感じでヒットする。

「痛ったいな! 何すんだ! 折角熟慮に熟慮を重ね、響きと荘厳さと重厚感ある名前を付けたってのに」

「盛り過ぎだっつーんだよ! この駄神が! 第一、そんな長ったらしい名前覚えられるワケねーだろ! ちったぁ呼ぶ方も考えろ、この駄神がっ!」

「失敬な! 俺はちゃんと覚えてるぞ! ホルストライヴィル・アウグストインクト「さっきと違うじゃねーか!」――がはっ!?」

 耳にした名前が違うことに、リンネは再度右ストレートを放ち、同じく左頬にクリーンヒットする。倒れる男に、リンネは荒い息を吐きながら「もういい、メンドクセー」と言い放つ。

「だったら私が名付けます」

「はぁっ!? ちょ、ちょっと待――」

「ホルスト。ホルスト=アルクライン。これが我が御主人様(マイ・マスター)の名前とします」

 男の、いやホルストの抵抗も虚しくリンネは手早く登録手続きを終えるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「それで、これからどうするのですか? マイ・マスター」

「あー、うん。そうだねぇ……」

 もはや抗議しても一向に「無駄です。既に登録してしまったので」と引かないリンネに諦めたホルストは断腸の思いでリンネの登録した「ホルスト=アルクライン」という名を受け入れるのだった。

「とりあえず、現在位置と近くの街までの距離とかを知りたいんだよなぁ。ここがどこかが分からなきゃこれからの方針は立てられないから」

 どうしたものかと悩むホルストに対し、リンネはわずかに口を閉じると次には驚きの言葉を告げる。

「ここは『アシアナの森』と呼ばれるところですね。近くの街はメフィストバル帝国のオイネルズという比較的大きな街があるみたいです。距離にしておよそ5キルメラほどといったところでしょうか。徒歩だと3時間半ほどで到着見込みですね」

「……うそーん」

「こんな状況で嘘言ってどうするんですか? 頭湧いてんですか?」

 ため息交じりにさらりと毒舌を吐くリンネに一瞬言葉を詰まらせるホルストだったが、最終的には「いや、そんなの分かるわけねーじゃん!」と駄々っ子のように喚いた。

「分かんねーって……『ステータス』で確認すればいいでしょうに」

「どうやんの?」

 小首を傾げて訊ねる主人に呆れつつ、リンネは「ステータスと唱えればできますけど」と教える。

「なら、ステータスっと……」

 そうして唱えたホルストの目の前に画面が出現する。その画面に記された文字に目を走らせるや否や、ホルストの表情が曇ったものに変化した。


【ステータス】

  名前:ホルスト=アルクライン

  性別:男

  レベル:14(っぽい)

  年齢:21(歳程度)

  種族:人族(元神ですが一応種族的にはこんな感じ)

  職種:――(見登録ですので)

  HP 600(現在値)/600(最大値)(現在指輪効果により制限中)  

  MP 684(現在値)/684(最大値)(現在指輪効果により制限中)  

  筋力(STR) 42        (現在指輪効果により制限中)

  耐久(VIT) 38        (現在指輪効果により制限中)

  敏捷(AGI) 55        (現在指輪効果により制限中)

  精神(MID) 60        (現在指輪効果により制限中)

  器用(DEX) 66        (現在指輪効果により制限中)


  スキル

   森羅万象 Lv.1

    (全系統の魔法を使用可能。ただし、レベル制限により効果は10秒。頑張れ)


   匠ノ技  Lv.1

    (製作したものが最高品質となる。ただし、レベル制限により一度製作物を使用すると壊れる使い切り仕様)



  固有スキル

   全知全能(指輪効果により現在使用不可)


  称号

   なし(元神だけどね)


「クズスキルじゃん!」

「……」

 一緒にホルストのステータスを見ていたリンネは、眉を八の字に曲げて同情の視線を向ける。横から向けられる視線に耐えきれなくなったホルストは、ついでにリンネのステータスも見せてもらうよう頼んだ。


【ステータス】

  名前:リンネ

  性別:女

  レベル:1

  年齢:10(歳程度)

  種族:神造生命体

  職種:――(見登録)

  HP 1000(現在値)/1000(最大値)  

  MP 1500(現在値)/1500(最大値)  

  筋力(STR) 150

  耐久(VIT) 150

  敏捷(AGI) 150

  精神(MID) 150

  器用(DEX) 150


  スキル

   全系統魔法 Lv.5

    (全系統の魔法を使用可能)

   癒しの雫  Lv.4

    (対象のMAXHP・MPの4割を一瞬で回復可能)

   万能地図

   礼儀作法

   万物鑑定


  固有スキル

   眷族生成 Lv.2

    (怪物モンスターと契約し、眷族として従わせることが可能。ただし、レベル制限により2体まで可能)

   眷族召喚 Lv.2

     (眷族生成により自身の眷族としたものを召喚する。ただし、レベル制限により1体まで)

  称号

   なし


「俺よりハイスペック!?」

「まぁもともと私は神によって造り出されたものですから」

 控えめに言いつつも、その言葉の裏では「にもかかわらず貴方は……」というリンネの非難めいた思いがあることをホルストは正確に読み取る。

 そうして自らのステータスと付き従うリンネのステータスに隔絶たる差を見せつけられたホルストは、がっくりとうなだれる他なかった。

「……」

 そんな彼を見かね、ぱんぽんと肩を軽く叩いたリンネは、

「完全に私におんぶにだっこですね。主人としては恥ずかしいでしょうが……まぁ元気出せ」

 容赦のない一言をかけるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ