知らないところ
目が覚めた。
「おはようございます」
周りには誰もいないが、ぼくは自分が目を覚ますためにそう言った。そして、起き上がろうとした時に、異変に気が付いた。
まず、身体が動かない。動かないどころか、力を込めることも難しかった。
次に、見たことのない景色が広がっていた。起きたら目の前には土の天井がある。ぼくの中の常識はそうだったのだが、どうやら目の前にあるのは木の天井のようだ。
最後に、ここがどこで、自分が誰であるかが思い出せない。ただ、頭の中で
ははーん、これが記憶喪失って奴か
と思う程度の余裕はあった。
寝起きだから身体に力が入らないのかと思い、ぼくはそんな事を考えながら、ぼーっと天井を見上げていた。しかし、いつまで経っても身体は動きそうにない。
辛うじて頭を動かして、天井以外のところを見回してみた。まず目に入ったのは、ぼくが寝ているベッドの横には薬の入った吊るされた袋だった。そこから伸びるチューブはどうやらぼくの布団の中へと続いているらしい。
なるほどぼくは怪我か病気でもしたのか、だから見覚えの無い場所なんだな。と、ひとりで納得して、さらに首を回した。
窓が見えた。窓の外には満開の花々。上から下へと勢い良く流れる水。そして、ぼんやりと霧がかかったような様々な色。
色。そういえばさっきから、ところどころに変な色が見える。花に集まる蝶は黄色を発している。花はそれに対して、赤色や水色、紫色を発している。あの色は一体なんなんだろう。
そう思いながら、首を窓のない方に向けた。そこには扉があった。こちらは見ていても楽しそうな事はないな。と思い、もう一度首を動かし、窓を見ようとした。
しかし、動かしかけた視界の端に、色が見えた。水色と黄土色。それがゆっくりと扉に近付いてくるように感じた。
どうやら、ふたり組が話しながらこちらに近付いて来ているらしい。会話の内容はわからないが、片方は不安を感じていて、もう片方はそれを励まそうと必死になっているようだ。
「あれ、いま」
なんでどのような会話をしているかわかったのか。そう言いかけて飲み込んだ。本能的に、何故かそんな雰囲気を感じたのだ。恐らくぼくはもともとものすごく勘が働くのだろう。そう考えたら、もしかしたらぼくはすごい存在なんじゃないかと思えた。
そして、愉悦の表情を浮かべていたら、扉が開いた。
急に開いたので、ぼくは対応に困った。身体は動かない。もしかしたら、ぼくがここに寝ている理由を知っている人かもしれないとも思ったし、もし怖い人だったらどうしようかとも思った。
そうこう考えていると、視界を上に戻す前に、扉を開けたふたりと目があってしまった。
ぼくは敵意が無いと示すために、散々悩んだ結果、何故か挨拶をしようと思いついた。
「あ、おはようございみゃっ」
噛んだ。それも盛大に、ごまかしようがないほどに噛んでしまった。最初目が覚めた時のナチュラルな口調はどこに言ったのだろう。まったく、滑舌というやつは大切な時に限って働いてくれない。




