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第八三話 ラダナイヤ会戦――第一〇巡空艦戦隊の奮闘

「第二斉射!」


 駆逐艦が次の鳥雷射点に向かうよりも早く、『ディオーネ』の使用可能な全主砲が吼える。


 濃縮竜血を使うために重武装・高速に設計され、通常竜血を使うべくパドルを大型化され速度を妥協した後も健在の五基一〇門の四〇リーム主砲。


 そのうち六門の砲門から主砲弾放たれた主砲弾は、音速に達する寸前の速度で白んだ空を飛翔し、純白の駆逐艦を襲う。


 鳥雷の攻撃範囲と言う事は砲撃の命中精度と威力が増す至近距離でもあると言うことだ。


 砲弾は駆逐艦の外板を瞬時に食い破り、爆裂する。それが何かに引火してより一層大きな爆発が艦全体を襲い、真っ二つに折れて爆沈して行くのを俺は双眼鏡越しに見た。


 そして、それと重なるように別の方向からも爆裂音が響いた。


「『セレナ』、被雷!」


 やはりか。俺は肘掛けを強く掴む。


 雷撃位置にいた艦を仕留め切れずに雷撃されたか、或いは伏兵か。どちらにせよ被害状況が入ってこなければその実体はわからない。


 ただ唯一わかることは、この戦闘でもはやディオーネ級の快速と重武装を生かし、圧倒することはできないと言う事だ。


 被雷のダメージは余程当たり所が良くない限りは機関部か武装のどれかを確実に巻き込む。最悪艦橋に被雷したならば艦長以下主要な人員が全滅しかねないし、艦の制御も失いかねない。


 どうか余り悪くない状況であってくれと俺は祈りながら、最後の一隻の駆逐艦を探すよう命じるのだった。


「『セレナ』の被害状況入ります!」


 通信室からの知らせを受けた通信兵が声を張り上げる。


「左舷補助エンジン二基破損、後部ボイラー室と右舷機械室が中破、左舷燃焼函出力減! この戦闘中には復旧不能とのことです! また四番、五番主砲塔も延焼防止のため注水し使用不能!」


 通信兵の言葉に、艦橋は途端にどよめく。


『セレナ』の損害は思ったよりも重大だった。これでは快速を生かして爆撃艀を攻撃できず、砲撃力で護衛の駆逐艦を倒すこともできない。


 だが、自艦のものではない砲の斉射音を聞くと、『セレナ』はそれでも諦めて居ないのも、まだ駆逐艦相手に応戦中なのもわかった。


「本艦も後部砲塔で射撃せよ! 『セレナ』の仇を取れ!」


「目標! 七時方向の駆逐艦! 『セレナ』への鳥雷発射煙を目印に斉射しろ!」


 戦艦級の主砲には威力は劣るが、四〇リーム砲の速射力は侮れない。次々と斉射を

加える。


 砲弾の雨に惑う駆逐艦はやがて姿を現し、鳥雷発射位置に付こうと前進して主砲で応戦するが、二五リーム半の駆逐艦の主砲ではいくら傷ついているとは言え大型軽巡空艦である『ディオーネ』や『セレナ』に致命傷は与えられない。


 やがて駆逐艦の竜血力場を突き破った砲弾が駆逐艦のパドルを折り、駆逐艦は濃縮竜血を撒き散らし、炎上しながら眼下に墜落して行く。


「『リャナンシー』の報告が正しければ、残る駆逐艦は一隻か」


 そして恐らく見つかっていないのもこの一隻だ。


 他の駆逐艦が連携して攻撃艦を狙っていたので爆撃艀の直援に当たっているとは考えにくく、恐らく姿を消して猟犬のように我々を狙っているのだろう。


 竜血機関の出力を最小限まで下げ、プロペラ音を爆撃艀に紛れ込ませ、こちらの出方を伺って射点を伺っているに違いない。


 竜騎兵隊に見つからぬように潜んでいるのは確実で、だからこそ竜騎兵隊も見つけられず困っているのだろう。


 温度を見る竜の眼がどれほどの距離で効くのかはわからないが、飛空艦の戦場は広い。


 よほど竜騎士の哨戒の腕が良くなければ、十数パーム先で息を潜める飛空艦の姿を捉えるのは難しいだろう。


 そう思った矢先に、前方で信号弾が上がる。


 赤・赤。敵艦発見。


 燃えさかり、爆発を繰り返しながら高度を落とす爆撃艀の側から上がった信号弾は、間違いなくもう一隻の駆逐艦を発見したと言う合図だった。


「……どうやらこちらの竜騎兵隊には相当目が良い竜と竜騎兵がいるようだ」


 ひとしきり感心すると、俺は号令を飛ばす。


「目標、前方の駆逐艦! 『ディオーネ』『セレナ』、残存砲塔で攻撃せよ! 敵の鳥雷発射を恐れずに全火力を集中!」


 我ながら滅茶苦茶な号令だと思いながら、これ以外に今飛ばせる号令は無い。


 そして『ディオーネ』もその号令に続くように横腹を見せる。


 一、四、五番主砲塔が吼え、ぱらぱらと白んだ空に爆裂する。『セレナ』の残された砲塔も吼え、主砲弾の雨が飛竜の飛ぶ真下の空で破裂した。


 そして、明らかに主砲弾のものと違う巨大な爆発と共に、二つに折れ、墜ちて行く駆逐艦の艦体が目に映る。


 恐らく鳥雷発射管か弾薬庫に当たって爆発したのだろう。燃えさかって墜ちて行く駆逐艦に艦橋は静まりかえり、俺もまたかぶりを振った。


「残りの爆撃艀を沈めるぞ!」


 俺の号令に「了解アイ・アイ!」と艦橋の全員が答え、艦長が進路を変えるように声を張り上げる。今度はこちらの鳥雷を爆撃艀に見舞うつもりだ。


 後方では『スカアハ』とバチカル級の遠雷のような砲撃音が響いている。


 機動性に勝る『スカアハ』か、隻数と火力に勝るバチカル級か、いずれが有利な戦闘を行っているのか。


「少なくとも我々にこれ以上活躍の場を与えさせてくれるなよ」


 俺は独りごちながら、対空砲火を上げる爆撃艀に目をやった。

 

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