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第七十九話 ラダナイヤ会戦――戦闘開始

 主砲第一射は艦橋要員の眼に強烈な焼き付きと耳鳴りを残した数秒後に、二発がバチカル級の左下とやや右下で花開き、純白の船体を着色料入りの焔で照らす。


「遠、近! 諸元修正!」


 砲術士官が叫ぶとほぼ同時に上部の見張り所から見張り員の絶叫が聞こえてくる。


「敵艦、第二射!」


 バチカル級の第二射はまたも『スカアハ』の艦体下部を照らす近弾となったが、艦体には命中しなかった。


 相手は有利な上空を取ってはいるものの、上方は砲弾が強い気流の影響を受けやすい。


 気流の影響を受ける砲弾は諸元入力でもなかなか治らない。


 そして下方側も有利かと言えば、こちらもこちらで打ち下ろすように射撃する上方ほどでは無いが、砲弾が気流や引力に流されて当たりにくい。


 先の演習ではより格下の装甲巡空艦だからこそ近接戦に挑めてすぐに戦果を出せたが、戦艦級同士の砲戦は本来ならこのようなもどかしい打ち合いなのだ。


 しかし反航戦、しかもこちらが速度を上げて突っ込んでいる状況ではそれもすぐに変わってくる。


 主砲塔が位置を調整し、先程射撃を行った砲が頭を垂れ、もう片方の砲がせり上がる。


「主砲第二射!」


 再び耳朶を打つ音と、闇を裂き眼を灼く発砲炎。前方を志向できる上下二基の主砲塔の二門の砲が吼える。


 その後に主砲弾は赤と緑の着色された焔を上げて、バチカル級の横で炸裂した。


「近、至近! 第二射で夾叉です!」


「運と砲術長の腕が良いんだ! 次射は交互射から斉射に切り替え!」


 しかし喜んでばかりもいられない。


 遠雷のように轟き、炎と黒煙を上げたバチカル級の第三射もやがて『スカアハ』まで届いてくる。


 向こうも気流の修正をやっと終えたようで、バチカル級の七六リーム砲弾は『スカアハ』の至近で弾け、艦を大きく上下に揺さぶった。


 立っていられない衝撃が戦闘艦橋にも伝わり、俺は思わず提督席の肘掛けを掴む。


 揺れが収まったと同時に肘掛けに捕まっていた手を、暖かい手の平が包み込んだ。


「ユフ、損害状況を伝えさせて」


 暖かい手の平とは正反対の、硬質な感じを含む指揮官の声色でフィチはそう言う。


 公私を分けてくれてはいるが、その手のぬくもりに俺は動揺する心が抑えられた。


「損害状況知らせ!」


 俺の声に、各所から被害報告が上がってくる。


「右舷前部舵、昇降舵動翼一部破損! 航行・操舵には問題なしとのことです!」


「右舷第一油槽破損! 現在漏出を止めています!」


「一番短艇破損!」


 思った以上に破損箇所は少ないようだったが、敵第三射でこうなるのも幸先が良くない。


「第三、第四主砲塔、射撃可能位置まで到達!」


 砲術士官の叫びに、俺は返す。


「敵第四射の前に主砲斉射!」


 敵艦の主砲斉射が間に合えばこちらが不利だ。バチカル級は七六リーム主砲塔が六基。対して『スカアハ』は七二リーム主砲塔が四基だ。火力で撃ち負ける。


 しかも相手は二番艦がいる。一番艦に夾叉弾を出させただけでもかなり状況が悪いが、二番艦まで打ってくるとなれば不利もいいところだ。


「後部甲板、竜騎兵隊より発艦及び直援・偵察許可が出ています」


 ニールか! 俺は許可を取り下げようと口を開きかける。


 こんな夜闇の中で夜目の利かない竜騎兵隊に何が出来る――そこまで言いかけた瞬間に、俺ははっと思いつく。


 夜目、そうだ。夜目だ。


「特将! 『スカアハ』『ディオーネ』『セレナ』の竜騎兵隊の発艦を許可してください!」


 俺の言葉にフィチは目を丸くする。


「ユフ、一体何を言っているの? 竜騎兵隊は夜間戦には向かないわよ」


「互いが視認出来る通常の夜間戦ならば、です」


 俺は口を継ぐ。


「飛竜の眼を使うんです。飛竜の眼は熱を視ることができる……蒸気機関も圧縮燃焼機関ディーゼルエンジンも煙突熱を十分に持っていますから、我々の目は誤魔化せても飛竜の眼は誤魔化せません」


 そして訓練された飛竜は賢竜のように人の言葉は紡げずとも、人間の言葉を理解する能力はあるし、訓練された竜騎士も飛竜の機微で何があるかを察せられる。


 熱を視てその場所を知らせるくらいはきっとできるはずだ。


「だがハウェイズ、場所を知らせれば撃ち落とされてしまう可能性もあるぞ」


 アルカがそう言うと、俺は返す。


「対空砲火を上げれば発砲炎と曳光弾で余計明確に位置がわかる。そこで離脱して追撃しながら、『ディオーネ』や『サンフラワー』が喰えばいい。現に『サンフラワー』は敵を喰いたくて飢えているしな」


「……つくづく無責任だな、貴様も」


「責務を負った者は一周回って無責任に見えるんだ。流血を恐れているなら最初から艦を向かわせていない」


 半ば自分に言い聞かせるように嘯くと、フィチが口を開く。


「ユフの言う通りだわ、アルカ。今はこちらの流血を心配するより、より多くの流血を避けるために出来る事をするまでよ」


 フィチは一拍置いて、俺の方を向く。


「竜騎兵隊の発艦を全艦に伝えて。任は竜の眼による敵艦排熱の探知とその追跡。飛竜は二頭で一組とすること」


了解アイ・アイ


 俺と通信兵はそう言うと、通信兵は通信室へ通じる受話器にフィチの言った内容をそのまま伝え、俺は後部甲板への伝令の兵に向かって声を張り上げる。


「主砲第三射後、竜騎兵隊は順次発艦! 二頭一組とし、竜の眼による敵艦排熱部の索敵と追跡を実施せよ!」


 そしてそれを伝え終わるとほぼ同時に、砲術士官が叫ぶ。


「主砲第三射!」


 四基全ての主砲塔、八門全ての主砲がバチカル級を狙い、発砲の反動と爆風が艦を揺さぶる。


 竜血機関と艦の前へ進む慣性が安定装置スタビライザーになって進路を維持してくれてはいるものの、それでも腹に響くほどの爆圧と爆風は艦を大きく震わせた。

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