第七十五話 夜の出撃
「主砲弾、副砲弾、推進用竜血・機関用竜血及び重油と水は全て搭載されました」
「よし」
煌々とエーテル灯の灯った主艦橋で俺は出撃前のチェックリストにレ点を付ける。
「『ブロッサム』と『サンフラワー』はどうか」
ジャスパーが近くの兵士に問いかける。
「護衛とは言え鉄火場に突っ込むことになったんで、やる気満々ですよ」
よし、それなら良い。とジャスパーは頷く。
流石は戦士の国の駆逐艦だ。乗組員も血の気が多い。
「ラストラ四将は?」
提督席に座ったフィチが訊ねる。
「『ディオーネ』『セレナ』ともに補給を済ませ、既に出港。合流地点に先に行くと係留塔より通信ありました」
「出遅れたわね」
そう言うフィチは少し不満げだった。早駆けを狙ってたのだろうか。
「巡空戦艦と軽巡空艦じゃそりゃ出港準備も違うさ」
巡空戦艦は大型で搭載物や準備手順も多い。早駆けで負けるのも当然だ。
それでも『スカアハ』も出港は早い方だった。
通信室からの通信機が鳴ったのを取ると、無線士が『ラダナイヤ鎮守府より出港許可出ました』と言う知らせを送ってくる。
それに俺は応答すると、声を一掃張り上げた。
「舫い綱離せ! その後全機関微速後進、『スカアハ』出港する!」
俺の号令に、主艦橋が少し湧き立ったような気がした。
ラダナイヤの危機という状況下でも、これから起こる戦闘に興奮が隠せないらしい。
本当に俺も含めて業の深い連中だ。
艦はプロペラの反転に押されて係留塔を離れ、舵と補機の左右反転を使って進路を合流地点である北へと変えると、前進を始める。
市街地上空で市街西部の鎮守府から出港した『ブロッサム』『サンフラワー』と合流すると、『スカアハ』は速度制限に従ってゆっくりと市街地を進む。
聖ポーレン聖堂の尖塔を挟んだ市街と郊外の境界の上にはエーテル灯を灯したモナーク級重戦艦の四隻戦隊と、ベルティナ艦隊の主力である『メイヴ』と『モリガン』の姿もあった。
『スカアハ』と『ディオーネ』が抜かれれば、彼らの防備に頼らなくてはいけない。
ジャスパーが艦橋越しに最後の守りに当たる艦隊に敬礼をする。
それに合わせるように俺もフィチも、艦橋のほぼ全員が敬礼をした。
ラダナイヤの市街と郊外を隔てる古い時代の城壁と堀を過ぎると、鎮守府からの高度制限と速度制限が解除される。
「上げ舵一〇、全機関は巡航前進」
俺の下命に復唱と共に艦が高度を上げ、テレグラフがちんちん、と数回鳴って身体に感じれる形で増速が始まる。
「いよいよね、ユフ」
「ああ……敵の陣容が大艦隊でないと良いんだが」
合流地点のラダナイヤの北一〇パームの草原地帯には、既に舷側のエーテル灯を灯した『ディオーネ』と『セレナ』の姿が見える。
「『ディオーネ』に旗旒信号、『貴艦に指揮を委ねる』とのこと」
「だそうです、特将」
「宜しい。『ディオーネ』『セレナ』は『スカアハ』の後ろに着き航行、戦闘となり次第分離、独自行動を許すと通信して」
フィチの言葉の通りの旗旒信号がマストに上がり、少し前進した『スカアハ』の後方に『ディオーネ』と『セレナ』の二隻が着く。
「敵は哨戒網に引っ掛かると思う?」
「ラダナイヤを一瞬で焼くには最低でも重戦艦か巡空戦艦の火力、手っ取り早くやるなら爆撃艀が必要だ。どんなに出力を絞って姿を隠しても、大型艦の竜血機関の反応音と主プロペラの風切り音は隠せない」
「無音航行で聴音を躱すにしても、軸出力と浮揚力、それに図体や突起物の多さ故に発生音の大きな大型艦には無音航行は事実上不可能だしな」
アルカが俺に続くように言う。
無音航行や聴音対策に気を払ったつるりとした形状でプロペラの防音対策の施された重雷装巡空艦はあるが、あれは対艦用で都市攻撃には向かない。
爆撃艀は重量物の爆弾を運ぶ関係上、その出力は大きく、竜血機関や蒸気機関の出力も大きく設定されている。しかも大型になるにつれて空を掻くプロペラが肥大化し、空気を着る騒音も増して聴音に引っ掛かりやすくなっているのだ。
「ここからラダナイヤ周辺を巡航して、飛空艦の駆動音が聴音に引っ掛かり次第急行する。それでいいわね」
「それ以外にありません。ただ待機しているだけでは機関のシリンダーが冷えます」
俺はフィチにそう返す。
「聴音の邪魔にならないように聴音ラインの内側を巡航。接敵の通信が入り次第現場に急行。いいわね」
「了解」
主艦橋の時計が午前零時を刻む。
あと六時間。エデルトルートは朝と予告したが、いつアウストムネシア艦隊が現れるかわからない。
緊張を保ちながら、俺は前を向いた。




