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第六〇話 姉妹の思惑

「エゼルベシア空中艦隊との共同戦線……ですか?」


「ええ、そうよ」


 ベルティナ王宮の二階、儀礼の間からの廊下の高い天井の下を、ピエリ姉様とわたくしは歩いていた。


「それでわたくしを呼んだのですか?」


「この程度で貴女を外務省に呼び出すのも気が引けたのよ。前ならいざ知らず、特将の肩書きを持った者を気軽に出頭させられないのですから……こういう場があって良かったわ」


 わたくしはピエリ姉様に問いかける。


 姫による奉納儀式のあと、ピエリ姉様が珍しく仲の良くないわたくしに声をかけてきたと思えば、こんなことだったなんて。


 ピエリ姉様のことなのでなんとなく『仕事』のことと想像は出来ていたが、良くなかった姉妹の仲を深めるとかであるとなんとなく望んでいた自分が恨めしい。


「エゼルが共同戦線を張ると言い出したことに関しては貴女の夫も関わっていることだから、フィチの耳には真っ先に入れた方が良いと思ったのもあるわ」


「ユフが?」


「先のエゼル飛空艦による離反事件が原因よ。エゼルの空中艦隊庁エイティルト・ボードは離反事件のことを隠したがっているけれど、それと同じくらい離反者による攻撃に気を配っていて、貴女の夫の監視も兼ねた共同戦線を提案してきたの」


 わたくしがなんとなく察した答えを、ピエリ姉様は口にする。


 せっかちで、自分が必要と思ったことを包み隠さずに口にしなくては気が済まない姉様の癖は健在なようだ。


「ユフは離反者と関係ないです。たまたま声をかけられただけだと」


「それが通用しないのが政治の世界よ。何か一つでも切掛があればそこからつつかれる。特に貴女の様なベルティナ独立派は」


 ちくちくと刺すように指摘してくるピエリ姉様に、わたくしは少しむっとする。


「不利なことなら教えてくれなくても良かったのに」


「貴女に突っ込まれても私が、ひいてはこの国全体が困るのよ。エゼルの議会や政府に浸け入る隙を与えては、この国はまた蚕食されてしまうわ。今回の件も承諾し主導権こそ渡したけど、独立性は保てたから貴女は貴女のやり方でやりなさい」


 ピエリ姉様の答えは意外過ぎた。


 親エゼル派の姉様がエゼルに浸け入る隙を見せない、など口にするなんて。


「何を意外そうな顔をしているのよフィチ。私がエゼルを相手取っているののどこがおかしいの?」


「いえ……ピエリ姉様はもっとエゼルの言う通りにやるお方だと思って」


「私は貴女の様な復古主義者や妖精族主義者シルヴェニストではないからベルティナの伝統なんて有害だと思ってる。だけどそれは彗州列強に全てを売り渡すことじゃなく、彗州列強と同じテーブルに着いて、彼らからベルティナが生き延びる術を引き出すのが私の仕事だと思っているの」


 姉も姉で、この国を思っている。


 なんとなく知っていたことだったが、あまりにも自分とやり方が違いすぎて受け入れられなかったことを改めて突きつけられて、わたくしはぼうっとする。


「ともかく、共同戦線はベルティナ島西岸の大翠洋周回パトロール任務よ。向こうからの要請も込みで、貴女の戦隊も参加させることとなるわ」


「巡空戦艦はパトロール任務に向かないのでは?」


「言ったでしょう。貴女の夫を見張る意図があると」


「竜血機関の竜血をあまりドール・ククラに無心して、倒れられても困るし……」


「外務卿補として言わせて貰えば、あの巨大な置物はドール・ククラの身体を案じて留め置くよりも、使ってこそ意味があるの。それが嫌なら最初からドール・ククラの血で禍艦を動かすなんて考えないで頂戴」


「はい……」


 わたくしはピエリ姉様のちくちく刺してくる言葉に頷くしかなかった。


 ここにミァリ姉様でも居ればピエリ姉様に言い過ぎだと仲裁に入ったのだろうが、生憎廊下に居るのはわたくしたち二人だけだ。


 着替えるための控えの間の前まで来て、ピエリ姉様は「ではこれで。詳しいことは空中艦隊庁ボードから追って説明されるわ」と言って、部屋の中に入っていこうとする。


 そしてああ、とピエリ姉様は何か思い出したようにわたくしの方を振り向く。


「先方の艦隊と指揮官の名前を教えていなかったわね」


 少し何か思い含むような素振りを見せてから、ピエリ姉様は言う。


 こう言う素振りを見せる時のピエリ姉様は、何か少し思うところがあることを言う時だ。


 わたくしに竜狩りの話をせびられて、否定するときがまさにこんな感じだった。


「先方の艦隊はエゼルベシア第一〇巡洋艦戦隊――構成艦は軽巡空艦『ディオーネ』と『セレナ』。指揮官はアガート=ラストラ四将よ」


 ああ、これは確かに言い含んでしまうだろう。わたくしはそう思う。


 よりによって、ユフを追放した張本人と元凶の艦がやって来ると言うのだから。

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