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第五四話 演習・反抗

 俺の言葉に、艦橋全体が騒めく。


 当たり前だろう。俺だって他人が同じ発言をしたのを聞いていたら我が耳を疑う。


「……それはどう言う意図で?」


「鳥雷の第二射が来る前にこの場を突破し、残る二つの主砲で敵中枢を叩き、戦術勝利に持ち込みます。本戦隊の武器は火力と機動力です。火力優性を生かせず、鳥雷戦隊に挟撃される事ではありません」


 俺の進言は普通の将官なら却下するだろう。火力を失ったことで自棄になって敵の懐に飛び込むようにしか見えないのだから。


 実際に艦橋要員――アルカも含めて――は俺に対して渋面を浮かべている。


 唯一ジャスパーだけが俺を品定めするような表情で見つめている。


 そして、フィチはこくりと頷いた。


「わたくしもそれを考えていたところでした。やりましょう」


 俺はフィチの柔らい口調ながら大胆な発言に「はい」と返すと、声を張り上げて下令する。


「主機・補機・竜血機関全て全速前進! この空域を離脱する!」


「ですが『ブロッサム』と『サンフラワー』には……」


「旗旒信号『我に続け』と上げておけ。意図がわかれば自ずと着いてくるはずだ」


 俺の無茶な言いぶりに不安げな表情を浮かべながらも、兵たちは伝声管に向かって俺の指示を吼えた。


 右舷側から二射目の鳥雷の発射炎が二つ上がる。


 それと同時に戦闘艦橋のテレグラフ指示器が軽やかなベルの音と共に全速を示し、ぐん、と前につんのめりそうになる慣性の衝撃が俺と、『スカアハ』を襲う。


 竜血機関由来の急な加速に右舷からの二射目の鳥雷は着いていけず、いずれも空を切った。


 やがて主機と補機の加速も加わり、対気速度計の針がすぐに一四〇ノットにまで達する。


『スカアハ』の本領は一七〇ノット頃までだが、そこまで出す前に既に交戦距離まで達してしまうだろう。主機や補機が大破判定を食らわなかったのが幸いした。


「『ブロッサム』『サンフラワー』も本艦に追随しています」


「『サンフラワー』より発光信号。『無茶が過ぎる』とのことです」


「これは後からお互いの艦長たちから怒られますね。一緒しますよ、副長」


「ありがとうございます。艦長」


 鳥雷が待ち構えたように飛んでくるが、未来予測位置が外れて全て艦最後尾の舵とパドルの後ろをやり過ごす。


「敵旗艦、目視しました! 十一時の方向! 随伴艦二、同行艦一!」


「よし、取舵五! 全機関、速力第二戦速まで落とせ! 主砲、敵旗艦に諸元合わせ次第斉射!」


「速力第二戦速!」


「主砲、敵旗艦に諸元合わせ次第斉射!」


 矢継ぎ早に飛ばした自分の命令が、艦の各所に伝わってゆく。


 主砲塔は右舷から前方に向かってゆっくりと旋回し、両方の砲身をもたげる。交互ではなく一斉射撃の構えだ。


 艦は機関の回転速度を落とすも、惰性で対気速度は急激には下がらない。それでも砲戦距離まではすぐに持って行ける。


 もはや前方の敵旗艦『デリンズ』と、それを遠巻きに飛ぶ『スカアハ』の竜騎兵隊は俺の目からも目視出来る。


「諸元入力完了、主砲斉射します!」


 その報告を聞いた直後、目の前の第二主砲が吼えた。


 十八リーム砲の爆炎と轟音が艦を揺さぶり、爆圧が大きく艦を減速させたかと思うと、徹甲弾を模した石灰の砲弾は『デリンズ』の横腹目がけて飛んで行き、殴りつけるように白い弾痕が『デリンズ』の側方に咲く。


 徹甲弾を模した模擬弾の弾痕は『デリンズ』の主砲塔基部に巨大な白い重層的な花を咲かせる。これが実弾ならばきっと『デリンズ』は轟沈するだろう。


「初弾敵主要部(バイタル)に命中! 奇跡ですよ副長!」


 山羊頭族の下士官がしゃがれ声の歓声を上げる。


「目標が真っ正面なのと、うちの砲術士の腕が良いからだ! すぐに向こうの攻撃が来るぞ!」


「後方から先程の駆逐隊の追撃来ます!」


 見張り員の声にフィチが手を開く


「『ブロッサム』『サンフラワー』に対処を頼んで! 追撃前に敵艦の主砲と鳥雷の射程距離外から叩くわ! 同航戦に移って!」


 了解、と短く答えた俺は「取舵一杯フル・ア・ポート!」と下令した。


 主砲の爆圧と第二戦速まで落としたこと、そして急速な大転舵の影響で速力は下がったものの、丁度いい。


 敵主力艦隊の二艦――『デリンズ』とそれより少しばかり大きな二番艦を叩ければ、こちらの戦術的勝利だ。


 主砲塔二基を失ったのは痛手だし、とても褒められた出来の勝利ではないが、このくらい粗野な勝利を掴む方がベルティナ流なのだろう。


 そうでもなければ高仰角からの雷撃などの真似は出来はしない。


「『デリンズ』転舵。二番艦を避けて待避します」


 まだ『デリンズ』には撃沈判定の旗旒信号は上がっていないが、大転舵しながら速度を落としている。確実に機関部をやられた判定を食らったのだろう。


「敵二番艦は『モリガン』だな」


 アルカがそう溢す。


「武装は十リーム(二〇センチ)砲が八基、それに鳥雷発射管が備わっている。『メイヴ』と『スカアハ』が来るまではベルティナ最強の艦だった」


「あの艦はなかなか手強いぞ。『デリンズ』を牧羊犬みたいに守って、『スカアハ』を追い詰めるかもしれない」


 ジャスパーの忠告に、「随分お詳しいようで」と俺は言う。


「『モリガン』の艦長はグリープロック・バンク会戦の時に最も粘った艦長だからな」


 ああ、成程。あの相手の見えない夜闇の盲射合戦で奮戦したと言うことは、相当な敢闘精神の持ち主と言うことか。


 それに格上とは言え四門の主砲で対峙するのは、なかなか骨が折れることではあろう。

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