第五十三話 演習・挟撃
一八リーム主砲の轟音から少し遅れて、雲中で白い放射状の花火のようなものが一斉に咲く。水平射された榴弾を模した模擬弾の炸裂は、さながら側方からぶちまけられたスパークリングワインの様に駆逐艦群を包む。
「遠、近、近、遠! 初弾夾叉!」
「よし、諸元入力直し次第第二射!」
近距離からとは言え夾叉――弾着が目標を挟み込めたのは幸先が良い。大口径榴弾の夾叉は駆逐艦のような薄い装甲の小型艦にとってはほぼ撃沈と言うことだ。
暫くして駆逐艦が一隻、雲中から浮上する。
『我撃沈されり』の信号旗と萌葱色のベルティナ艦体色にまだらな白の石灰弾の弾着痕を描いた艦影は、明らかに『スカアハ』の主砲の弾着でああなったのを物語っていた。
ああなっては狙うのはもう憚られる。踵を返して全速で空域を離脱する艦を目で見送ると、副砲が砲声を鳴り立てる中で次の斉射を待つ。
雷数は三、狙う必要の無い近接戦でもない限り、駆逐艦は一本づつしか狙いをつけて鳥雷を発射できない。
だから最低でも残り二隻が雲中に潜んで、第二射を狙っている。
それより先に駆逐艦を撃沈する。
他の駆逐艦も次の射撃で仕留めなければいけない。
先程射撃した砲身が傾げ、もう片方の、まだ射撃を行っていない砲身が首をもたげる。
第二射の諸元入力が済み、砲弾が装填され次第、第二射が見舞われるだろう。
『左舷下部より鳥雷接近! 数三! 後部主砲から機関部を狙っています!』
「何!?」
下部見張り所の伝声管からの声に、俺は引っくり返った叫びを上げる。
しまった。他にも雲の下に潜んでいたのだ。雲中にばかりが注意が行っていたせいで見落としていた。
しかしどうして見落としていたのだ。俺は帽子に手をやる。
帽子がなければ赤毛を掻きむしっていたところだろう。
「エゼルの艦隊運用思考で考えていたんだろうな」
ジャスパーが静かに呟く。
「極端な左右釣り合いでの鳥雷射などお行儀の良いエゼルの艦隊ではやらないからな。竜血パドルを限界まで傾け、艦体を四十度以上傾斜させての鳥雷発射など範疇の外だったのだろう」
そう言う事だったのか。
俺は自分の見落としと思い込みに悪罵を吐き付けたかった。
「回避に集中! 下部砲は弾幕を張れ!」
だがそれをフィチの下令が遮る。
フィチは俺の方を向くと、いつになく険しい表情で俺に言う。
「想定を上回ったなら、それを悔やむ前にフォローするのが貴方の仕事よ! ユフ! 貴方自身がわたくしにそうしたように!」
ああ、そうだ。
悪罵を飲みこみ、俺は手すりにしがみ付いて叫ぶ。
「下げ舵五! 下部防御砲、ありったけ打って弾幕を張れ!」
下から真っ直ぐ向かってくる鳥雷を上げ舵や下げ舵で避けるのは無理だし、『スカアハ』の図体では回避をしようとしてもどこかしらに当たる。
速力を上げるにしてもテレグラフの入力と機関室の応答までにタイムラグがあり、その間に鳥雷が当たる。
ならば結局、向かってくる鳥雷を副砲や防御用の回転式機関銃で撃ち落とすしかない。
下げ舵はあくまで被弾の際に当たる箇所を調整する目的だ。あくまで思いつきながら、一応やってみる価値はあるはずだろう。
それで駄目ならば、片方の駆逐艦に気を取られて鳥雷を注意出来なかったことも全て含めて、俺の責任ということで片付ければ良いのだ。
今から考えるだけで厭になってくるが、それが戦闘艦を預かる者の責務なのだとしたら受け入れるしかない。
やがて艦底と左舷に先程の主砲ほどではないが、艦を揺さぶる衝撃が襲ってくる。
被雷した。案の定だ。
「被害知らせ!」
俺が言うや否や、伝声管を伝って被害状況が上がってくる。
「三番主砲塔大破判定! 四番主砲塔も三十分間使用不能判定!」
「後部主砲は全損か……」
俺は帽子の上から頭を掻く。
主砲の半分が使えなくなったのは痛い。
巡空戦艦の武器である打撃力の主要因を半分も失われたのだ。
この状態で二対の駆逐艦をどう対処するか。もたもたしていたら鳥雷の第二射がやって来る――。
「――いや、対処する必要はないか」
そうだ、無理に対処する必要は無いのだ。
『女王』の駒に与えられたもう一つの武器を生かせば良い。
俺は「特将」とフィチを呼びかける。
「何、副長」
「意見具申を。このまま最大戦速で砲撃位置まで前進、敵旗艦との砲撃戦に持ち込みます」




