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第四十三話 聖蹟演舞・上

この度、今後の展開に絡んでくるため、勝手ながら作内の一部の艦の艦名を変更させて頂きました。

ルキフグス級巡空戦艦→アウフクレールング級巡空戦艦

『フルーレテイ』→『エクシステンツ』


読者様にはご迷惑をおかけいたします。

 刃引きされた装飾過多な鍔のサーベルと、赤岩塩の銃弾が込められたリボルバー式の拳銃を腰に付け、俺は廊下を歩く。


 廊下の終わりは歓声溢れる演舞台へ続いている。演舞台の階段を登り切ると、そこにはフィチの姿があった。


 彼女もまた演舞衣装を纏っていた。


 白銀色のふんわりと風をはらむ絹地の裾の短いワンピースに、新緑色に金糸で文様を彩られたベストと上衣スカート。腰には金のリボンを棚引かせ、手には刃引きされた金と銀の籠鍔付きの刺突剣が収まっている。


 その姿を見た時、俺はこくりと息を呑んだ。


 彼女の格好が、軍服やドレス以上に彼女の魅力を引き出していたからだ。


 動きやすく、戦いやすい。それでいて可憐さや気品を失わせない。そんな衣装に身を包んだフィチは、今まで見たどんなフィチとも違う表情をしていた。


 戦化粧と言うのだろうか。瞼の上に赤いラインが書かれ、口には紅が引いてあり、それが彼女の柔和な顔を引き締めて、優しさの中に威厳と凜々しさを演出している。


 二人がそれぞれの歩調で演舞台の真ん中まで進み、お互いに見合った。


 そこに儀礼服姿のイシュアが現れ、俺たちの間に立つ。


 彼女は俺とフィチを交互に見て、最後に背後の大聖堂を向く。


 すぅ、と息を吸ったと思うと、次の瞬間彼女の細い身体から見合わない大音声を発した。


「今ここに、新たな夫婦となった者たちによる、我ら妖精族の祖先と聖エリエルに捧ぐ武と契りの奉納を行う! 立会人は私、イシュア=フィンベイト=ミルシェルファ! 双方、名乗りを上げよ!」


 こほん、と咳払いしてフィチは叫ぶ。


「ベルティナ王国女王ルシェリス=イーフィス=ミルシェルファの第七王女、フィチ=ケーペンツ=ミルシェルファ! ここに!」


 鈴の鳴るような声はしかし、大聖堂前の広場にいんいんと響き渡る。刺突剣を掲げたその姿はベルティナの英雄にも、北方神話の戦乙女のようにも映った。


 遅れて俺はサーベルを抜き、フィチの刃と切先を交わしながら、艦橋に立ったときの下令の声量で叫ぶ。


「ベルティナ空中艦隊下佐、ユフ=ハウェイズ=ミルシェルファ! ここに!」


 舞台の下からも、わぁ、と歓声が上がる。ひとまずは格好はついたようだと心中で安堵する。


 二人の名乗りを確認してイシュアが舞台の袖に引っ込むと、手を大きく掲げる。


「それでは、二人の戦士の栄光と祝福が訪れんことを――始め!」


 イシュアの合図で俺たちは互いに剣を交した。


 最初はフィチが打ち込み、俺がその剣筋をサーベルの腹で逸らす。ぎりぎりと鋼同士が軋む音を立てた後、お互いに剣を弾いた。


 今度は俺が踏み込んだ。中段からの突きをフィチは躱し、逆にフィチの刺突剣の切先が俺の頬先の数リーム先を掠める。


 お互いにそれを払い、斬っては刃を合わせ、突いてはそれを刃や身で躱し、派手な剣戟音を鳴らす。


 フィチの戦法はまさに古代の妖精族の伝説の剣士に送られた「蝶のように舞い、蜂のように刺す」の贈り名そのままで、俺の軍隊仕込みの剛剣はしょっちゅう弾かれ、躱される。


 舞い踊るように俺の剣の剣戟を躱すフィチは、まるで舞台の視線を独り占めしているようでもあった。


 これではいけない、と俺はより一層強く踏み込む。


 ぎぃん! と刺突剣の腹を払い落とし、下段から構えてみせる。


 フィチの動きで魅せる柔剣に対して、俺のは力と踏み込みの強さを持つ軍式の剛剣。二つの剣はきん、がきん、と音を立てて噛み合っては、逸らされ、左右に、上下に振られる。


 わぁ、おぉ、と剣が交わる度に舞台を囲むにわか作りの観客席から声が上がり、フィチが蜂蜜色の髪束と金のリボンを揺らすとまた大きな歓声が上がる。


 そして彼女が軸足を素早く組み替えて見舞ったその剣を、俺が下段から払い飛ばし、大きな金属音と共に俺の演舞服の裾が翻る。


 毎日出勤前にクタクタになるまでフィチが仕込んでくれたおかげか、たった半月ながら剣の冴えは最初の訓練の頃より断然良くなり、フィチの勢いを付けた一撃もなんとか防ぎきることが出来るようになった。


 それでもフィチは訓練の時より断然に本気を出している。俺がついて行けているのも不思議なくらいに、彼女の突きや斬撃は鋭く勢いがある。


 不意にフィチが俺に向けて、口の端を上げて片目をいたずらっぽく瞬かせる。


――これから更に盛り上げましょう?


 そんな合図だと直感で理解した途端、フィチは大きく舞台から跳び上がる。


 脚の力と羽根の力で軽く十五シルケほどを跳躍し、空中から刺突の構えを見せて襲いかかってきた。


 俺もそれに合わせたように右手で拳銃を抜くとともに撃鉄を起こし、手がぶれないよう腕を交差させ、フィチに狙いを付ける。


「はああああああっ!」


 フィチが叫びと共に降りてくるのと、俺が銃爪を引くのはほぼ同時だった。


 ぱぁん! と乾いた銃声の後にフィチの頬を岩塩弾が掠める。次の瞬間、俺の頬も刺突剣が掠っていった。


 刃引きしてあるとは言え刺突剣の鋭利な切先がなぞれば、当然皮膚が破け、血も出る。

 それはフィチもまた一緒で、岩塩弾が掠めた後から赤い筋が走った。


 赤い雫を互いの頬から溢して、必殺の一撃から互いに体勢を立て直すと、舞台の外から大きな歓声が上がる。


 どうやらこの演出は大成功のようだった。

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