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第四十一話 夜襲ー帰投

 意図不明艦はベルティナ艦を従えながらベルティナ島の背骨でもあるミラベル山脈を越え、ベルティナ北西岸から北大翠洋へと出て行こうとする。


 夜が白んできたであろう頃になって、誰とも無く欠伸を漏らしたり目を擦る中、通信室からの伝声管が緊張した声色で伝えてくる。


「艦隊本部から全艦帰投命令が出ました」


 そう来るか、と俺は大きな溜息を吐く。


 きっとこの間にエゼルベシアの艦隊本部か、外務省が動いたのだろう。


「帰りましょう」


 フィチが疲れた声で呟く。


「本部から直々に領空侵犯艦を逃がせと言うなんて、もうあの艦を追うなと言う警告よ」


「しかし、気になりますね。突然ハウェイズを誘ったことと言い、自らの正体を明かしたことと言い……あれほど自身の正体を明かそうとしなかったのに」


 アルカがぽつりと呟く。


 それがあの意図不明艦と、遠回しに俺への不信を混じった言葉だったのはなんとなく理解が出来た。


 ディレンはこれを狙っていたのだろうかとすら思ってしまう。


 俺と自分の名前を出すことによる俺への不信、そしてそれを庇うであろうフィチへの不信を。


 そして俺が堪えきれず出てきたところを引き込もうと言うのでは無いか。


 新秩序だか何だかわからないが、そうだとすれば酷いマッチポンプだ。


『スカアハ』は戦闘態勢を解くと、駆逐艦二隻を引き連れてゆっくりと回頭し、艦首は王都ラダナイヤの方角を向く。


 地平線の先、ミラベル山脈の向こうに白と紺の混じった夜明け空と昇りつつある朝日が見えた。


「ユフ」


 フィチが口を開く。


「さっきの通信文、公開させてもらいます」


「公開、ですか?」


 秘匿する、ならまだわかったが、公開する、と言われて俺はフィチに問いかけるように鸚鵡替えした。


「ユフの潔白を示すためです。これを秘匿すれば発覚した際にユフとわたくしに疑惑の目が向けられるでしょうから、今のうちに潔白を示す証拠を集めて、ディレン一佐とユフの間に密な関わりがないことをきちんと証明します」


 フィチの口調は硬かったが、俺を最大限想ってそう言ってくれてるのは理解できた。


 だからこそ、それはフィチの立場すら不利にする不可能な証明だと言いたくもなった。


 証明すると言っても、そう簡単に潔白を証明出来るものではないことは俺にもわかる。


 例え表でそうそう俺とディレンが会ったことが無いとエゼルの軍人が言っても、隠れて会っていたのではないかと言う疑惑の証明にはならない。


 悪魔の証明と言う奴だ。


 証拠を集めるとは言うが、フィチはそれをどう切り抜けるつもりなのか。


「わたくしは貴方を迎えたわたくし自身とユフを信じます。現にこの文面は、ユフを取られて悔しがっている様が滲み出ていますし、不和を生んでユフを引き込もうとしているようにも感じます」


 フィチは走り書きの写し文を指先でぱしと叩いて、「大丈夫」と一言口にする。


「議場での戦いはわたくしに任せて。ユフはユフの戦いの場に専念して」


 例え気休めだとしても、今のこの状況でそう言われると心強い。


 巡航速力で飛び、『スカアハ』が王都ラダナイヤへと着いたのは朝陽が登り、街が活動を始めた朝五時五十分のことだった。


 そしてその次の日の新聞にはこの出撃は『羅針儀故障で迷いこんだエゼルベシア艦を返した』として記されており、俺はフィチとウェンディの前で苦笑するしか無かった。


 ディレンの行方も、新たな秩序と語ったその意図も、何もかもは謎のまま、俺たちの知らないところでこの話は処理されて行ったようだった。


 すぐさまの詰問を覚悟していたので肩透かしを食らったようではあったが、それでもきっとこれから何かしらの機会を設けられるのだろう。


 その時果たして上手くやれるか。


 フィチは任せろと言っていたが、俺自身の立ち回りもきっと重要だろう。

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