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第三十八話 夜襲ー遭遇

 船足を速く、ラダナイヤ上空から眼下のラフィー川に沿うように『スカアハ』と護衛の二隻の駆逐艦は航行する。


 俺は戦闘艦橋から巡空艦を見ようと目を凝らすが、その前にパニデの街の灯を確認した。


 もう日付も変わって暫くした頃で、街は寝静まっているが、港湾区とそれに接する街区はまだエーテル灯が灯り続け、明るくなっている。


 その上空をスカアハは跨ぐように飛び越えた。


「ハウェイズ。逸る気持ちは解るが、もっと落ち着け。副長がそれでは示しがつかん」


 蓄光塗料の塗られた懐中時計の針と窓外に視線を行ったり来たりする俺に、アルカがぴしゃりと言う。


「ああ……すまなかった」


 そう謝って隣のフィチに視線を移すと、彼女は泰然と前を見据えていた。


 流石に将だから、自分がしっかりしていないといけないと言う自覚と自負はきっちりと持っているようだった。


 だが相当我慢しているだろうことは、組んだ腕の上で叩かれる指でもわかる。


 戦闘艦橋内にも苛立ちに似たもどかしさが徐々に伝染しつつあった。


 これはいけない兆候だ。苛立ちが戦闘判断を鈍らせる前に、早く意図不明の巡空艦と接触しないといけない。


 そしてなんとしてでも、意図不明のままベルティナ本土への上陸を避けなければならない。


「『シャムロック』『ゲイブル』の探照灯、見えました! 方位一時二十分、高度五六〇〇シルケ(二八〇〇メートル)距離三〇パーム(四五キロメートル)!」


 見張り所に居る妖精族の士官の高い声が伝声管を伝って艦橋全体に響いた。


 よし、と俺は拳を握る。


「意図不明艦は!?」


「『シャムロック』『ゲイブル』に同航中、探照灯照射を無視して航行中です!」


 フィチが俺とジャスパーを交互に見てから、より高い空に浮かぶ光点を睨んで、声を張り上げて、戦闘艦橋全体に鈴のような声を、しかし割れ鐘の如く響かせる。


「現在高度四八〇〇シルケから反航し、相手艦と高度を同にして先行する友軍艦と相手艦を挟み込む! 相手艦がパニデに危害を加えるようなら即座に発砲、ラダナイヤに接近するようなら頭を塞ぐ!」


 速度を生かした機動戦と、重戦艦には劣るが巡空艦より格上の相手だからこその阻止戦法。巡空戦艦の特徴を生かし切った戦術だ。


 だが、フィチの注文は厄介だ。駆逐艦や軽巡空艦に運動性に劣る巡空戦艦で運動戦をやれと言うのだから、操艦がやや複雑になる。


 ジャスパーに視線を合わせると、夜間灯の下で彼の首が縦に振られたのを見て、俺は矢継ぎ早に下令を飛ばす。


「第三戦速にて前進、面舵スターボード八度! 発光信号、『ブロッサム』『サンフラワー』を『スカアハ』後方に就くよう指示!」


「第三戦速、前進!」


「面舵八!」


「発光信号! 『ブロッサム』、『サンフラワー』は第三戦速にて当艦後方に位置取れ!」


 兵員が次々に主艦橋へ繋がる伝声管へと叫ぶ。


 ちんちん! と艦橋テレグラフが鳴り、舵角計が八度を示す。


 前後で発光信号が煌めき、両脇を固めていた駆逐艦は加速する『スカアハ』に置かれていき、そのまま後方のプロペラ気流と竜血機関の力場を受けにくい位置へと陣取る。


 艦は徐々に光源へと近づいてゆき、半月の下で俺はその艦影を見た。


「先頭の艦はイーヴェイン級装甲巡空艦。後方に続くのはメドゥーサ級軽巡空艦の第一グループか……」


「随分古い艦ばかりだな」


 俺の言葉にジャスパーが吐き捨てるように呟く。


 いずれも魔女戦争開始時には旧式化し、戦後すぐに老朽化から廃艦処分が決まった艦だ。


「ユフ、何か意図があると思う?」


 フィチの問いかけに暫し逡巡し、俺は顔を上げる。


「……最悪の予想を思いついてしまいましたが、言っていいでしょうか。提督」


「良いわ。許します」


 すぅ、と息を吸うと、俺は重い口を開き、考えうる限りの最悪の予想を言葉にした。


「火船です。艦全体に爆薬や燃焼剤――竜血や軽質石油を詰め込んで都市に突っ込ませ、起爆させるんですよ。旧型艦を使うなら懐も痛まないし、突っ込む直前に乗員が退避して無人で突っ込めば最低限の犠牲で済む」


「最低の戦術ね」


 フィチが吐き捨てる。


「もしそうだとしたらエゼルベシア正規軍ではないでしょう。エゼル内部の反ベルティナ派の過激な連中が廃船ヤードから引っ張り出した艦を飛ばしているか、そうでなければ……」


「仮定を重ねて推測するよりも、操艦に集中したまえ。副長」


 ジャスパーの言葉に思考の世界から現実に引き戻され、俺はその通りだ。と首を振る。


「いずれにせよ、最高速度ではこちらが優速だ。停船命令を聞かずにいるなら頭を抑えれば良い」


 意図不明艦との進路が反航になると、「前進半速、前後上げ舵十度」と下令する。


 やがて意図不明艦――イーヴェイン級装甲巡空艦の正面が闇の中にぬぅと浮かんできた。


 艦橋の夜間灯と航海灯だけを点けた、亡霊のような様相の艦が目の前に現れると、言い知れぬ不気味さが全身を襲った。

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