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第三十二話 初乗務ー艦長と近衛士官

「フィチ殿下、落ち着いてください。はしたないです」


 いつの間にか主艦橋に入ってきたアルカがそう言う。


 その言葉にフィチは慌てて俺から離れて、こほん、と咳払いをすると、まるで先程の喜びようが何も無かったかのように王女の顔に戻る。


「お互いに鍛え鍛えられて、素晴らしい結果を残せるよう努めましょう。ユフ」


 ああ、と俺は戸惑いを得ながらも、フィチに合わせて答える。


「キャナダイン中尉、王女殿下の護衛、お疲れ様」


「キャナダイン上佐こそ艤装作業お疲れ様です。……どうですか、ハウェイズは」


「貴官の話した通りの人物だった。艦についての眼は確かだ。副長を任せることにした」


 フィチの後ろでアルカとジャスパーがそんな風に言葉を交わしていた。


 俺は二人の名字の同一と、先程ジャスパーが口走った言葉を思い出して、恐る恐るジャスパーに聞いてみる。


「あの。艤装長、先程『ディオーネ』の件を聞いたと仰いましたが……キャナダイン中尉とご関係が?」


「ああ、話してなかったね。彼女は私の長女だよ」


 ジャスパーは少しだけ申し訳なさそうにアルカに手の平を向けながら言う。


「色々無礼を働いたと思うが許してくれ、頑固なところと余裕の無いところはどうも若い頃の私と妻似らしくてね」


 ジャスパーの言にアルカはむっとした顔をしたが、その顔と草色の目には確かにジャスパーの面影が見てとれた。


「上佐、殿下と私の居ない間に何かありましたか」


「ハウェイズ下佐が副長を引き受けてくれた。細かい艦の指揮は彼に任せることにする」


 その言葉にアルカはやや驚いた様子だったが――まあ、俺の来歴を考えれば当然か――、フィチは「まあ!」と声をあげて俺の手を取る。


「やったわね、ユフ! これで名実ともに『スカアハ』の指揮官よ!」


「まあ、そうなった訳だけどな……」


「その様子だと、自信が無いとか?」


「かなり……一月前まで一尉だった人間が、これだけ大きい艦をいきなり任されるのはな」


 今ならラストラの気持ちも解る気がする。


 俺があの立場――エゼルの今後を担うだろう新鋭艦の公試という重圧の中――なら、俺程度の意見など聴いてられそうもない。


「大丈夫よ、ユフなら出来るわ」


 また根拠の無い過信で俺にそう言う。と俺はフィチに対して少し呆れていたが、それにアルカの言葉が継がれる。


「ハウェイズ、私もお前になら出来ると思う……認めたくないが、殿下から指揮を奪ったあの咄嗟の操艦は鮮やかなものだったし、艦の挙動を掴んでいた」


「……キャナダイン中尉にそう言われると、少し自身が持てるな」


「何よユフ、それってわたくしの評価を信用していないということ?」


「殿下のハウェイズへの評価は期待を含めて過大すぎるのです。もう少し憧れや期待抜きで彼を見るべきです」


 アルカは俺が言いたくても言えないことをぴしゃりとフィチに言ってくれる。


 それに何か言いたげにむくれるフィチだが、今回ばかりは俺はアルカの言葉に賛同してこくりと首肯した。


 だがそれがフィチには気に入らなかったようで、余計にむぅ、と口をへの字に曲げる。


 自己評価含めた俺の評価の話なのに何故フィチが不機嫌になってるのか不思議になりながらも、彼女に困り顔を向ける。


 ジャスパーはそんなやり取りに割り込むように両手を広げ、口を開く。


「殿下もいらっしゃったことですし、提督私室を観に行きましょうか!」


 俺もジャスパーの提案にそうだ、と乗る。


 フィチは訝しげに「誤魔化してませんか?」と訊くが、そんなのわかりきったことで、俺たちはフィチの関心を提督私室に向けさせた。

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