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第三十話 初乗務ー竜騎兵長と艤装作業

 少し傾斜した着艦甲板から飛竜庫の中に入ると、あの夜ジャスパーと同行していた獣精族の上佐が制帽を片耳に引っかけながら、整備員や水兵服姿の妖精族や人間族の兵の真ん中で指揮を出していた。


「おお、ジャス。ハウェイズ下佐」

 ハスキーな声で人懐っこくこちらにやって来る獣精族の上佐。

 あのカクテルパーティーの会場では気づかなかったが、毛の下の眼は猛禽のような獰猛さと鋭さを有していた。


「こちらニール=ジェルカナ上佐。我が『スカアハ』の竜騎兵長だ」


 ジャスパーの出した名前に、また俺は硬直する。


「魔女戦争で三二騎の竜騎兵と三杯の艦載鳥雷艇を撃破した、あのニール=ジェルカナ一佐……」


「そう、そのジェルカナだ。あの時はエゼルベシアに居たが、本来はベルティナの人間だから上佐が正しいのだがね」


 冗談じゃない。エゼルベシア艦隊竜騎兵隊の生ける伝説だ。


 そんな人物が率いる竜騎兵隊が一緒に乗艦するなんて、百人力もいいところだ。


 俺と言い、彼女の『すかうと』の結果なのだろうか。眼の前の二人の上佐を見ながら俺は思ったのだった。


 少なくとも士官や乗員の質ではベルティナ最高の艦だろう。


 俺の動作にも遅れなく着いてきてくれたし、俺の拙い操艦にも応えてくれ、フィチの無茶な命令より俺の命令を優先したのは兵の質の良さがある。


「しかし、何頭ほどこの飛竜庫に積むつもりですかね」


 俺は訊いてみる。この大きさなら詰めれば相当数の飛竜を積めるはずだ。


「六頭だな。それ以上は良い」


 六頭。俺は己が耳を疑った。


 この飛竜庫なら八頭、いや十頭は優に積めるというのに。


「艦載鳥雷艇と違って飛竜はあまり狭い空間に積めばストレスが溜まるのだよ。だから二小隊と予備二頭を含めた六頭。これが限界だな」


「諸国でここまで広い飛竜庫を持った艦はないですよ」


「それこそ諸国のやり方は飛竜こそ多く積めるが、本来の能力を潰すやり方だ。私は自分の編み出した飛竜運用を貫くためにもこの『スカアハ』の竜騎兵長になったのだよ」


 ああ、この人は俺と同類だ。


 自分の信じたやり方を貫き通して、そのために持て余されたところをフィチの目にとまり『すかうと』されたのだろう。


「それに飼料庫も少し弄らせてもらっている。良いだろう、ジャス」


「ああ、構わないよ。飛竜に関する設備はお前に一任したからな」


「副砲の撤去と言い、すまんな」


「良いさ。副砲二門と竜騎兵隊の働きを天秤にかけたら、竜騎兵隊が勝つ」


 よりジェルカナ流に近づけられる最終艤装中の飛竜庫を後にして、俺とジャスパーは艦内を歩く。


 歩いていると、ケースメイト副砲が大型の三〇リーム(一五センチ)砲からより小型の二五リーム(一二センチ半)速射砲に置き換わっていたり、場所によってはもっと小口径の一リーム半(四五ミリ)機関砲が備え付けられている。


 今までの副砲が大きすぎたのもあるのだろうが、少し小口径すぎて気になるところもある。


 爆弾を掴んだ飛竜や艦載鳥雷艇対策には十分かもしれないが、駆逐艦が突っ込んできた時には心許ない。


 そのことをそれとなくジャスパーに語ると、ジャスパーはああ、と応えてくれた。


「ハウェイズ下佐、フラワー級のような駆逐艦相手に三〇リーム砲がどこまで通じると思う?」


「さあ……轟沈は余程運が良くても、一〇発ほどで撃沈可能かと」


「それは廃艦実験の際の理論値だよ。実際には照準統制のされていない一五リーム砲は現代の駆逐艦にはそこまで当てられもしないし、撃ち抜かなければ効果はない。グリープロック・バンクで私はそれを嫌というほど教え込まれたからね」


 グリープロック・バンク会戦と言えば、定時哨戒中だったベルティナ艦隊の巡空艦戦隊と強行偵察を行おうとしたアウストムネシアの駆逐艦戦隊の会戦だった。


 薄暮の戦場でお互いが一五リーム砲や鳥雷で応対し、三時間以上の激戦になったにも関わらず、砲門と火力で格上の巡空艦戦隊も、必殺の鳥雷と機動力を備えた駆逐艦戦隊も、お互いに痛打は与えられず引き分けに近い結果となったのだ。


 戦後の調査ではアウストムネシアの駆逐艦には五発近く一五リーム砲を被弾したにもかかわらず、当たり所がどこも的外れで、竜血機関や鳥雷などに大した損傷が無かったなどと言う結果も出ている。


「照準統制もされてない個別照準の砲で撃ちまくっても、よほど近距離じゃなければ直撃弾を複数は出せないよ。今エゼルや彗州諸国が統制射撃が可能な巡空艦を作っているのもそれが主な理由だろうね」


「それなら近接戦に備えた副砲に換装した方が良いと」


「あくまで『スカアハ』に求められる役割は万能巡空戦艦だからね。艦載鳥雷艇のような近接戦を仕掛けてくる相手からの自衛なら、個別照準でも発射速度で勝って、近づけさせず仕留められる武装の方が良い」


「そして駆逐艦は統制射撃の可能な主砲かで沈めるか、残りの一五リーム副砲で近づけさせない距離を保っておく、と言うことですか」


「やはり気づきが早い。流石エゼル艦隊の出世頭だけある」


 関心するようにジャスパーが言う。


「砲郭式の副砲はどうしても統制射が出来ないからね。命中率の良い中央部だけを残して後は自衛用に変えた。おかげで副砲弾庫を主砲の予備弾庫や飛竜用の水タンクに出来た思わぬ収穫もあった」


 このジャスパーと言う男の艤装プランはなかなかに理に適っている。


 単艦運用を基本とする場合、必要になってくるのは艦の戦闘力ではなく継戦能力だ。予備火力が多少落ちようとも継戦能力を上げるのは、それだけで戦いを有利に運べる。


 特にエゼルベシアの艦に比べて余裕のある竜血機関の浮力分を堅牢な装甲に振り分けたアウフクレールング級では、継戦能力は高ければ高いほどしぶとく戦場に立ち続けられる。


『スカアハ』に求められる任務は、単艦で小部隊を蹴散らすか、殴り込みによる戦力誘引と戦場の掻き回しのどちらかだ。


 敵小部隊を殲滅したり、味方の到着まで持ち堪え、敵の混乱を長引かせるためにも、長時間持ち堪え続けられなければ意味が無い。


 ジャスパーはそれを頭に入れて、この万能巡空戦艦とも言える艦を再艤装したのだろう。


 艦の運用の才は確実にある男だ。俺は先を歩く彼の背を追いながら、そう思った。

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