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第二十九話 初乗務ー艦長との邂逅

 ベルティナ空中艦隊の初出勤となる日、俺は『ダン・スカー』船渠で艤装作業中の『スカアハ』へそのまま直行。フィチは特別仕立ての馬車で王宮へと召還される運びとなり、家を出る時点で俺たちは離ればなれとなった。

 

 フィチは初登庁が揃って出来ない事を悲しんでいたが、数十分前まで数時間彼女に付き合わされて軍刀を振っていた俺としては、やっと落ち着けると内心嬉しく思ったのだった。


 それもウェンディには見透かされていたのか、双方呆れの混じった目で見られていた。


 馬車鉄道に乗り込んで、俺は改めてこの国が多種族の国なのだと思い知らされた。


 車内には人間族と妖精族シルヴェイユもだが、獣精族プーカ山羊頭族ゴートヘッド人犬族コボルドも目に付く。ブランダン地下鉄でも亜人の姿は目にするが、ここまで乗り込んでいることは無いのだ。


 獣精族の車掌に運賃を払って王宮最寄り停留所で降りると、俺は王宮からそう離れていない『ダン・スカー』船渠へと入って行く。


 まだ真新しい地中型の飛空艦船渠は、『スカアハ』の現地艤装作業で追われているようだった。


 回航の際の艦の癖を簡単なレポートにして、艤装長――大抵そのまま横滑りで初代艦長になるのだ――に渡すべきだったかもとは思ったが、生憎タイプライターは持ち込んでいなかったし、フィチの特訓のおかげでそんな時間は無かったのを思いだす。


 妖精族の下士官や様々な種族の作業員に挨拶をしながら、俺は艦内に入って行く。


 艦上方にある飛竜庫の内装はリッドマスでは手つかずだったようで、『ダン・スカー』での艤装はそこを重点的に改修しながら、小口径砲や機関砲を取り付けるようであった。


 着弾観測や敵中小艦艇や竜騎兵から艦を守る竜騎兵と飛竜を格納する飛竜庫は大型の巡空艦以上の艦には備わっているが、この『スカアハ』の飛竜庫はやや大きめだ。


 記憶にあるアウストムネシア時代の姿ではここまで大きくなかったのも考えると、恐らくリッドマスで建て増したのだろう。


 艦首に向かって風を流しやすくすぼまった形状の飛竜庫は、飛竜運用を前提としたように改装した大型巡空艦ほども大きさがある。


「ある程度万能な巡空戦艦として運用したいんだろうな」


「その通りだよ、ハウェイズ下佐」


 そうしゃがれ声を掛けられて、振り返ると白髪交じりの髪を軍帽で隠した、上佐の制服の人間族の男が立っていた。


 軍帽の鍔には月桂樹の装飾がしてあることから、きっと特別な役割の職に就いているのは間違いない。


 それがあのカクテルパーティーで声を掛けた上佐の片割れだと気づいたのは、彼の特徴的に絞られた草色の眼に気づいてのことだった。


「君を驚かせるためとは言え、あの場で名乗らずにすまないね。ジャスパー=キャナダイン上佐。この艦の艤装長だ」


「ぎ、艤装長!」


 俺はすぐさま制帽の前に手の平を持って行く。


 ジャスパーはそれに「畏まらなくて良いよ」と軽く流して、飛竜庫を見上げる。


「『スカアハ』の運用は護衛艦を除けば単艦だ。故に単艦であらゆることに対応する必要性がある。そのために飛竜の搭載量を少しでも増やしたんだ」


「後方の上部副砲塔が犠牲になったんじゃないですか?」


 確か元のアウフクレールング級には飛竜庫の後ろに後部副砲塔があったはずだ。


「あれはアウストムネシア時代にも衝突事故が多かったと言う話だからね。竜騎兵長にただでさえ上部方向舵に接触しそうだと言われてるから、艤装長として向こうで外させたんだ」


「成程」


 そう言う現場の声には勝てない。あの位置の副砲塔は確かに速度合わせから着艦する時に障害になり得る。


 俺はジャスパーに導かれるように飛竜庫の入り口の方へと回り込んでゆく


「君の操舵指揮はここから見ていた。私としても航海長への内定を出したいと思う指揮だったよ」


「そんな。聖人の侍女がラグニア語を引用するようなもんです。巡空戦艦勤務時代に航海周りを気にして見て、それで覚えたもんですから。正式な艦長経験者とは違いますよ」


「確かにそれはあるかもね。現にフィチ王女を怒鳴りつけて落ち込ませたと言うし」


 痛いとこを突いてくるジャスパー。


「だがそう言う人間的な落ち着きは徐々に作られるものだよ。私も君くらいの時、鳥雷艇の艇長となった頃はそう言う感情にまかせたヒステリックな下令を何度も犯したからね」


「若くして聡明で寛大な艦長など居ない、ですか」


 エゼルベシア海軍に伝わる、コネ採用の若い艦長を皮肉る諺を引っ張る俺に、ジャスパーは頷く。


「そういうことだ。若い指揮官はそのどちらかが欠けている。こればかりは経験が作るものだからね」


 遠回しに自分とフィチにはまだ経験が足りない、と言われている気がしたが、それは気のせいではないだろう。

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