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第二十七話 一日の終わり

 自室に戻ると、俺は机の上にトランクから引っ張り出した日記帳を広げる。


 今日は何があったと書き始めると、とても日付分のページに収まるとは思わない。案の定ペンを走らせると次のページに辿り着いてしまった。


 次の日付のページにもペンを走らせると、これもすぐに埋まってしまう。


 艦隊士官は何かあったときに何ページも一日に費やすことになるから、きっかり一年一ページの日記帳は買うなと士官学校の教官に言われて十数年。


 毎年分厚い日記帳を買っているのだが、今日はそれを実感する日だった。


『スカアハ』の指揮を任せられ、アウストムネシア人の機関長との出会い。入港の途上でフィチを叱ってしまったこと。


 女王との謁見。聖蹟演舞と言う聞き慣れない結婚の秘蹟――と言うよりも決闘か。


 そしてカクテルパーティーで出会ったフィチの姉と、車中で聞かされたフィチの願いの根源と想い。ウェンディという侍女に迷惑をかけてしまったこと。


 思えば、士官学校入学以来毎年つけてきたこの日記帳の束も、またウェンディにかけてしまった迷惑の一つなのだろう。


 それらを合わせて四ページ分綴って、すり減ったペン先をボロ布で拭き取ってからそれをペン立てに置く。


 俺は身体をベッドに投げ出し、今日あったこと、明日以降起こるであろうことを思い浮かべる。


 妖精族由来の伝統である聖蹟演舞。


 英雄譚に憧れ妖精族の誇りを取り戻そうとするフィチと、それが今の彗州の価値観と反し、彼女を危険視させていること。


 決して彼女の味方ばかりではないフィチの姉妹たち。そして考えの読めない彼女の母、ルシェリス女王。


 政治の世界のことは一武官が首を突っ込める問題では無く、そこは王女たるフィチにしか解決できない。


 例え彼女が十六歳の少女でも、自らの願いのために政治の世界に踏み込むことを決め、そのために槍たる『スカアハ』とその戦隊、そしてその柄たる俺を手にした。


 その時点で、彼女はもう海千山千の実務のプロフェッショナルやルシェリス王女のような底知れぬ相手たちと政治のゲームの卓に上がったのだ。


 それを一武官が支える方法は、フィチの槍を彼女の有利に働くように鍛えることだけだ。


 武官が政治の場で出来る事は一つ。政治を司るものの思いのままに振るえるように動くことが出来るかだ。


 それが例え誤った結果に繋がるとしても――。


「いや、無理だな」


 俺は声をあげて自分の考えを、武官としての心得を否定する。


 静かなる士官サイレント・オフィサーなんて自分には無理だ。


 過ちに繋がるとわかれば口にせず、否定せずには居られないのが俺であり、フィチはそれで俺を見つけ、側に置こうとしたのだ。


 だから政治の場の話であろうとも、俺は過ちとわかればそれを口にすることを憚らない方が良いのだろう。


 恐らく俺に求められる役はフィチの槍の柄であると同時に、彼女の宮廷道化でもあるのだから。


 そんなことを考えているうちに瞼と思考が重くなって行く。


 今日一日分の疲れがのし掛かってくるような重みに堪えきれず、俺はベッドの上で大の字になったまま意識を手放した。


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