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第二五話 『現実主義』

「まあユフ君には賛同しづらいよね」


 ミァリが助け船を出してくれた。


「フィチに惚れたとは言え、妖精族じゃないしね。妖精族やベルティナがエゼルに受けた仕打ちがわからないのはあると思うし、ピエリ姉様の言葉を借りるのも癪だけど、フィチの言葉や行動は『魔女』の再来と取られても仕方が無い」


「ピエリ姉様はそんなことを言っていたのですか?」


 フィチが低い声で訊ねる


「言っていたわ。禍艦に手を出したのがピエリ姉様にはかなり印象悪かったようね」

 そこでミァリはああ、と声を上げ、俺の方を一瞬振り向く。


「ピエリ=フィンベイト=ミルシェルファ。ベルティナの第一王女で、私たちの一番上のお姉様のことよ」


「一番上のお義姉様……ですか」


「それでベルティナ外務卿補。大連合主義者で進歩主義者。彗州列強の先端文化こそが最も高尚で亜人の伝統を下に見る、フィチが一番苦手なタイプの女性よ」


「そこまで言うことも無いでしょう」


 フィチが抗議の声を上げるが、ミァリは声の調子を変えること無く問う。


「じゃあフィチはピエリ姉様が好き?」


「……好きではありません。少なくとも言っていることは」


 複雑な想いを乗せた声色が車内に響く。


 話を聞いているだけでもフィチとは合わなさそうなのはわかる。基本的に行動力のある夢想家で、妖精族の誇りを取り戻そうとするフィチに対して、現実主義かつ彗州の先端進歩主義者など相性が合うはずがない。


 自分やミァリも立場的にはきっと彼女たちの長姉に近いのだろうが、現場に立つ軍人であるという一点が『現実主義』の意味をほんの少しだけ変質させているので、フィチの誘いに乗る側で居られるのだろう。


 現場に立つ軍人の現実主義は、議場の先端進歩主義者の言う現実主義とは違う。


 どちらも『矢印の方向の違うだけの夢想家』の類義語だが、議場で交わされる選良エリートにしか為せないような頭でっかちな後者の『現実』より、仮想敵を夢想して日々それを打ち倒すべく精進し戦いをより有利に進めるよう策を練る前者の『現実』は、戦士としての誇りを求めるフィチの夢想に近い。


「お母様もまだ当分は玉座に座っているでしょうけど、他の姉妹が動いてない今、次期女王の座はピエリ姉様とフィチが争っているようなものよ。『魔女』の再来でないということを示さなければ、ピエリ姉様とエゼル議会の和平派にあの艦ごと潰されるわ」


「確かにな」


 ミァリの言葉に俺も頷く。


 超党派で結成された和平派は『次の彗州戦乱』を見越した禍艦軍拡や大連合への艦船供与を懲りない戦争準備と非難し、その資金を活用しろと迫っている。


 恐らく波風を立てようとしたくない、『スカアハ』所持やベルティナ独立を望まないピエリもそちら側だ。


 表面は『消えた艦隊(ロスト・フリート)』――アウストムネシア降伏時にその姿を消したヴィルフリート=ナグヴィッツ元帥麾下の飛行艦隊への対処と言う形で軍備整備を進めているが、各国が次の彗州戦乱に備えているのは誰の目にも明らかだ。


 もしナグヴィッツ元帥の掃討が完了すれば、大連合での艦船保有は撤回され、フィチと『スカアハ』の命運は決まったようなものだろう。


 そうなるのは俺としても是非避けたいところだ。


「わかっているわ、ミァリ姉様、ユフ」


 フィチは少し低い声で返した。


「わたくしの槍は、わたくしの望みは潰させない。例えピエリ姉様と女王の座を争うことになっても、わたくしは想いを譲らない」


「それでこそフィチよ」


 ミァリがくすりと上品な笑みを浮かべた。


 彼女もまた武人と言え、王女なのだと思い知った。

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