表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/81

第二二話 カクテルパーティー・上

 カクテルパーティーはその日の夕刻からベルティナ王宮の庭園を望む饗宴の間で行われた。


 より格式の高そうな礼服に着替えさせられた俺が饗宴の間の扉をくぐると、そこはシャンデリアの吊り下げられた落ち着いた装飾の大広間だ。


 俺はその景色にまた息を呑む。


 本当に自分はこの世界に足を踏み入れて良いものか。家庭教師や士官学校の教官から散々叩き込まれたマナーたちが本当に通用する世界なのか。


 そんなことを考え、管弦楽のしっとりした演奏を耳に入れながら、俺はカクテルグラスのスパークリングワインを口にしながら会場内を一回りする。


 様々な背格好の種族を見かけたが、特に軍礼服の妖精族の多さや、礼服の意匠を取り入れているがより可憐なドレス状の服を纏った妖精族の姿をよく見かける。


 妖精族が誇り高き戦士と言うのはこの国の常識なのかもしれない。


 一周して俺は人混みの中からフィチを探し出そうとする。


「君」


 そこで男の声に呼び止められた。


「見ない顔だが、君がハウェイズ下佐かね」


 声のした方向を振り向くと、俺と同じ礼服姿の人間と獣精族プーカの壮年の佐官が立っていた。二人とも肩の階級章は上佐だ。


「はい」


 俺は無帽礼混じりに肯定した。


「あの艦をリッドマスからここまで引っ張ってきたと言うが、若いのに見事なものだよ。私もあやかりたいものだね」


 人間の方の上佐が感慨深げにしゃがれ声で口にする。後ろに撫でつけた白の混じった黒髪に手をやりながら、彼は大きな硝子窓の外で舷灯を付けた『スカアハ』に視線を移した。


 俺もつられて『スカアハ』に視線を持って行く。舷灯でベルティナの紋章が照らし出された姿は堂々たるもので、あれがかつての禍艦まがぶねであったとは今はもう思えない。


 ベルティナの懐刀と言うに相応しい偉容だ。


「いえ、航海科員や機関科員が優秀だっただけです」


「それでも凄いものだよ。あの大艦をここまで引っ張ってきて、まだ重圧で潰れていないと言うのは。彼など鳥雷艇ちょうらいていの艇長を任されてノイローゼになっていたものだからね」


 亜麻色の毛並みに白が混じった獣精族の上佐が人間の上佐を小突きながら言うと、彼は「もうその話は良いだろ」と迷惑げに呟く。


 獣精族の士官が俺にその大きな瞳を向ける。


「ところでフィチ殿下を落ち込ませてしまったというのは本当なのかい」


「ええ、まあ……恥ずかしながら」


「やはり艦乗りは艦の指揮になると人が変わるものだね。ジャス」


「ニール、君はいつまで俺を昔話で困らせるつもりだ?」


「君と俺が艦を降りるまでさ」


 獣精族の上佐――ニールと呼ばれた彼が愉快そうに、ジャスと呼んだもう一人の上佐を揶揄ってみせる。


「まあ、そんなものだ。艦長など、艦を危険に晒す真似に対しては怒って然るべきだよ」


「しかし相手がフィチ殿下では」


「言いたいことがあれば抗弁するよ。フィチ殿下はそう言うお方だ」


 ニールと呼ばれた上佐が腕を伸ばしてぽんぽんと俺の胸を叩くと、「またいずれ、近いうちに会おう。ハウェイズ下佐」と残して、その場を去って行った。


 一体彼らは何だったんだ。


 そう思いつつも新しい果実酒のグラスを取ってまた歩き始めると、俺はやっと蜂蜜色の髪の少女を見つけられた。


 特徴的な一つ結び(ポニーテール)を解き蜂蜜色の髪を下ろし、夜会用の化粧を施された姿は、今まで見たどの姿よりも気品に溢れている。


 だが、それ以上に気品ある女性たちがフィチの両脇に居るためか、その姿もどこか霞んでしまっている。


 二人はフィチと同じ蜂蜜色の髪で、気品あるドレスに身を包んだフィチより年上に見える妖精族の女性たちはフィチを囲んで楽しげに談笑の最中だった。


 一瞬ごとに表情が変わるフィチと違って、彼女らは薄笑いを浮かべている。


 入港時のこともあるのでさりげなく話しかけるつもりだったが、これではどうにも話しかけづらい。


 フィチもこちらに気づいたらしいが、彼女も同じようでと何度か視線を交わすものの、話しかけるのには躊躇しているようだった。


 そのうちに一人の女性、蜂蜜色の髪を短く切った水色基調のドレスの女性がしずしずと歩み寄ってきて、俺の果実酒を持っている方とは反対の腕を掴む。


「そんなとこに立ってないで、ちゃんとお嫁さんの居る方にいらっしゃいな」


 フィチより少し勝ち気そうな声色でそう言って、彼女はぐいぐいと俺をフィチの方へ引っ張る。


 そしてフィチと突き合わされると、お互いにきょとんとした表情で見つめ合う。


 だがすぐに、それも解ける。互いに言うべきことはあるのだ。


「あ、あの」


 先に言葉を発したのはフィチの方だった。


「昼の件、済みませんでした。ユフに良いところを見せようとして、先走ってしまい……『スカアハ』を落としかけて。後から考えればユフに言われた通りで」


「いや、あれは俺も悪かった。初めての大型艦の指揮で気が立ってたし、少し浮かれてたのもあるのかもしれないし」


 そこまで口にして、俺もフィチも言葉が出なくなってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ