第二一話 謁見の後に
謁見の間から控えの間に移されて、椅子に座り、緊張から解放されて大きく息を吐く俺に、近衛の士官が歩み寄ってくる。
「聖蹟演舞のこと、本当に知らなかったのですか?」
「ああ、はい。エゼルの妖精族との結婚式にはそう言うのは無いもので……」
エゼルベシアとベルティナは同じ聖女主教が国教の国だが、エゼルベシアは世俗的で秘蹟や戒律に対してドライな王国主教会で、結婚式も淡泊なものなのだ。
対してベルティナは教皇庁派ながら、古来からの妖精族の伝統やエゼルベシアでは廃れた伝統を聖蹟として残している、かなり土着色の強いベルティナ普遍派主教会の元にある。
それ自体は知識として知っていたが、実際にこうやって口に出されると隣国とは言え異国にやってきたと言う実感が湧いてくるのだった。
「教えてくれますか?」
はい、と近衛士官が頷き、口を開く。
「聖蹟演舞と言うのは妖精族の結婚の際のしきたりで、夫婦となる男女が月明かりの下で一対一で戦う演舞を行い、戦士として伴侶を認め、高めあうことを誓い合う儀式のことです」
「一対一で戦う?」
俺は引っくり返った声で聞き返す。
「ええ……軍に属する妖精族でも今日なかなか戦士として認めた相手との手合わせなどありません。ですのでルシェリス陛下も無茶を振ってくるなと思いまして……」
「――フィチと戦うと言うより、小官は人相手に戦うこと自体全く馴れてないのですが」
空中艦隊の士官も兵士と共に臨検時の接舷戦や陸戦を行うことはあるので、射撃術や隊列指揮を心得ては居るものの、昔の帆船乗りのような舶刀で切り結ぶような訓練は受けてはいない。
一対一などせいぜい拳銃による制圧射撃や護身術程度の訓練しか受けていないし、士官学校時代に友人たちとやったボクシング程度だ。
「……因みにフィチはどのくらい戦い馴れしているのですかね」
「フィチ殿下は刺突剣に秀でています。ご姉妹の中で一、二を争う腕前ですね」
俺はますます頭を抱えそうになった。そんな相手にどう戦えと言うのか。
しかし、恐る恐る近衛士官に聞いてみる。
「その聖蹟演舞って拳銃って使えますかね?」
「使えますね。多くは刃引きした剣や石灰弾を使いますので」
成程。と俺は頷く。
「……やる気になったのか?」
レッチュが問うと、俺は首肯した。
「やるしか無い。ルシェリス陛下も俺たちがやり合うことを望んでいるようだからな」
ルシェリス女王はきっと俺たちの諍いもわかって聖蹟演舞の提案をしたのだろう。
あの人はフィチ以上に観察眼に優れた人に思えたし、俺の様子や先に艦を降りたフィチの様子を見て、そう言ったのだろう。
この後はしばしの休憩を挟んで『スカアハ』のお披露目のためのカクテルパーティーと言うことだ。フィチに合うのはその時になるだろう。
その時に聖蹟演舞の話をして、その日にちを決めれば良い。
「お二方、お召し物のお取り替えに参りましょう」
近衛士官の言葉に、俺たちは椅子から立ち上がった。




