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第一六話 『スカアハ』回航・出港(上)

 艦体下部、吹き抜けになった全面硝子(ガラス)張りの主艦橋に降りると、もう艦橋要員は揃っていて出航を待っていた。


 空図台に空図は広げられ、妖精族や人間、獣精族プーカ山羊頭族ゴートヘッドと様々な種族の乗員が各部の点検を行っていた。


「回航長、お待ちしておりました」


「遅いですよ、殿下、回航長」


 口々にもう待っていた、到着が遅いと口にする艦橋要員に「すまない、先に機関室に寄っていた」と謝罪すると、改めて艦橋の全員に聞こえるように声を張り上げる。


「主艦橋の諸君、小官が今回回航長を任されたユフ=ハウェイズ下佐だ。短い回航の間ながら、小官にこの『スカアハ』と諸君らへの下令を任せて欲しい」


 艦橋の皆はぽかん、と自分の方を見ていたが、すぐにおかしそうな笑い声が帰ってくる。


 俺は何をやったんだ。


 やはりぽっと出の三十にもならない下佐――三等佐官が回航長というのは、古参兵や下士官相手では嘲笑に値するということか。


 そう思った瞬間、隣のフィチまでもが吹き出す。


 畜生、あれだけ言っておいて俺を嗤うのか。そう心の中で毒づいた瞬間、吹き抜けにわんわんと兵の声が届いてくる。


「気を張り詰めすぎですよ! 回航長!」


「もっと緩くて全然良いんですよー!」


「小官など報告の時以外はベルティナ空中艦隊では使いません! もっと気楽に命令してください!」


 あちこちから飛んでくる笑い混じりの声に、逆に俺の方が面食らってしまう。


「ユフが形式張りすぎたから、みんな笑ってしまったのよ」


 くすくすとフィチがおかしそうに溢す。


 一方、彼女の後ろのアルカは複雑な表情を浮かべ、「こう言う場所なのだ。馴れろ」と小さく呟く。


 エゼルベシア空中艦隊なら速攻で処分ものだぞ、と、言いたくなったが、それより先に妖精族の兵が「回航長」と鈴の鳴るような声を張り上げて報告してくる。


「最終の荷物搬入は完了、舷梯タラップ艦内に格納したとのことです」


 俺は彼女に「わかった」とだけ返すと、テラス状になった艦長席と提督席の前の空間に立つ。


 今は硝子張りの艦橋は船渠の壁と艦の前方部を支える盤木ばんぎしか見えないが、艦橋要員は飛び立つ準備に大忙しだった。


「よし、船渠側の出航信号が出次第、順次(もや)い離せ」


「了解しました」


「機関室に両舷の燃焼函の始動開始を伝え」


「了解。両舷、燃焼函始動開始」


 獣精族と人間の兵が対になった竜血機関のエンジンテレグラフを動かす。


 かんかん、かんかん、と小気味良いベルの音が重なり、すぐに機関室からの応答のベルの音色が返ってくる。


 ややあって、テラスの手すりに取り付けられた有声魔素通信の受話器台がけたたましくベルを鳴らした。


 赤のエーテル灯が点滅した受話器を取ると、少し高い男の声が聞こえた。


「こちら通信室、リッドマス工廠及び鎮守府より浮揚許しの命令出ました。本艦は『メイヴ』と駆逐艦『ブロッサム』『サンフラワー』の後に出航信号を許すとの達しです」


 真鍮線を伝う魔素に変換された掠れた声が俺にそう伝えてくると、俺は受話器に向かって言う。


「了解した。出航信号が出次第教えよ」


 俺は受話器を置くと、竜血機関の出力計を見る。


 八〇ケーヴェル。燃焼函始動からまだ十五分程度しか経っていないはずだが、流石は賢竜の血と濃縮竜血を使用する機関だけあって、吹け上がりが早い。


 俺はその口で下令する。


「両舷、舫い離せレッコ・ショア・ライン!」


 俺の下令をすぐさま妖精族の兵が伝声管に向かって声を上げる。


「両舷、舫い離せレッコ・ショア・ライン!」


 艦を船渠に繋いでいた舫い綱が一度緩められて、地上要員の手で係留柱から外されると、舷側の窪みに設けられた蒸気ウインチが人の脚の直径ほどの太さのロープを巻き取って行く。


「両舷微力浮揚!」


「両舷微力浮揚!」


 再びテレグラフのベルが鳴り響く。ベルの音が返ってくると同時に、獅子の唸るような竜血機関の駆動音が響きだした。


 心臓の替わりである燃焼函の中で焚かれ、ポンプの力でパドルの植物の根のような無数の管の中に送られた竜血は魔力を放ちながら循環し、艦を徐々に浮揚させる。


 艦を支えていた盤木から離れ、『スカアハ』は自分の力で飛び立ち、ドックを離れてゆく。


 足元が少しおぼつかなくなる浮遊感を覚えながら、俺は艦橋の硝子窓から見える景色と、竜血機関の出力計、高度計に注視した。


 主艦橋から見える景色も、船渠の壁から船渠の覆い、そしてそれすら飛び越えてリッドマス工廠の全容が見えるようになる。


 艦下部の高度が二〇〇シルケ(一〇〇メートル)を超えて、旋回可能高度となる。


 再び通信室からの受話器が鳴り、それを取ると、鎮守府から回頭宜し、との指令が入ったとのことだった。


面舵一杯ハード・スターボード。右副機関原速前進、左副機関原速後進」


「面舵一杯」


「右補機原速前進、左補機原速後進」


 艦橋前方に陣取った操舵輪が周り、主機関と竜血機関のものに比べて小型のテレグラフが動かされ、ベルを鳴らす。


 艦の方向舵が動作し、舷側から突き出た補機にもボイラーからの蒸気が送られ、プロペラが始動して、『スカアハ』は上昇しつつゆっくりと右方向に回頭を始める。

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