第一三話 親友との別れ
『スカアハ』と『メイヴ』のベルティナへ向けての回航の日が決まると、その臨時の回航長としてベルティナへと渡る俺もばたばたと動き出す羽目となった。
ブランダンの自宅から持ち出すものを持ち出して、船積みやらトランク詰めにし、一方でエゼルベシアの友人や元上官、そしてベルティナの大使館など方々へと挨拶回りを始める。
そして旅立つ前の日に、俺はジョンと共にリッドマスのパブへとやって来た。
「まさか、まさかなぁ……」
経緯を聞いたジョンは天井を仰いでそんな風に呟く。
「確かに俺は拾う者ありとは言ったけど、こんなに早く拾われるなんて思ってもいなかった。しかも妖精族のお姫様に」
「俺だってそうだ」
そう言うと俺は差し出されたコップの中の炭酸水を呷る。
「結婚はそのうちするとは思ってたが、まさか一日で王女様と婚約なんてお伽噺の世界だと思ったよ」
「きっと半分お伽噺の世界の住人だからなんだろ」
ジョンが冗談めかして言ってみせる。
「悪い意味でロマンチストが多いからな、竜喰い蜂の娘さんは」
「ジョン」
俺は低い声でそう呼ぶ。
「おっと失礼、生まれが悪いとどうも口が悪いもんでね」
俺の意図を汲んでくれたのは嬉しいが、ついでにまた遠回しに俺を皮肉りやがったな。と俺はジョンを軽く小突いた。
「――船大工の息子から艦隊大学校に行けたんだ。お前の才能は本物だよ。俺が認める」
「俺はお前の生まれと受け継いできたものが羨ましいけどな。その上お姫様の婿ときた」
「お互い、隣の芝は青いってことか」
「そりゃそうだ。人が二人揃えばお互いを羨むんだ」
ジョンは炭酸水に口を付け、カウンターに置く。
「それでも俺はお前が羨ましいよ、ユフ」
意味ありげに呟くジョンに、俺はあえて何も返さなかった。
「お前はお前らしい道を歩めて、それでお姫様に拾われて艦隊参謀なんだからな。俺はその点自分らしく振る舞えてないから、本当に羨ましいんだ」
「何言ってんだよ、エゼルベシア空中艦隊はお前を必要としているから、俺を追い出してお前を艦隊大学校に入れたんだろうが」
「それも政治って奴だよ」
ジョンが呆れたような口調で俺に返す。
「実力で俺が選ばれたんじゃない。エミリアさん派の中核になるだろうお前が疎ましくて、余所に追い出したかったんだ。軍事顧問として外に行けばほとぼりが冷めてもエゼルには帰れないだろうからハウェイズ派の補強にはならない。それに――」
ジョンはそこで言葉を切ってしまう。
それに、の後に続く言葉が気になりながらも、俺は言葉をかけた。
「それこそ考えすぎだ。軍内政治なんかよりお前の実力を見られてるんだって」
「ユフ、俺はお前みたいな両舷直思考が羨ましいよ」
「お前が暫く艦隊庁勤務が続いて神経質になりすぎなんだ」
炭酸水をゆっくりと飲みこんだ後、ジョンは振り向く。
「まあ、たまには捻くれずに素直にお前さんの門出を祝おうか」
「お互いに、な」
同期の捻くれ者同士が互いに新しい道を目指している中で、捻くれててもしょうがない。
昼間からはと遠慮していたエールを二つマスターに頼んで、ジョッキに注がれたエールがカウンターの上に並ぶ。
「ジョン=ジンブルの艦隊大学校行きを祝して」
「ユフ=ハウェイズの婚約とベルティナ艦隊での活躍を祝して」
かちん、とジョッキ同士が合わさった。
もう何年かは会えなくなるだろう親友との、最後の一時だ。
せめて楽しく過ごしたいと願ったのだった。




