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ノダ・アブナガ

 ジャッジの部屋には、紙の束が大量に積まれていた。

 棚からあふれだし、床にも置かれている。

 部屋の奥には木のベッドが1つ。ラグーがその上に寝転がった。「あー、最後の一杯がよけいだったー」とつぶやいている。


 ジャッジは紙の束から地図をとりだし、机の上にひろげた。

「これが一番広範囲の地図だよ。これより広い地図は、距離も角度もデタラメで気に入らない。この地図も、南の山地は怪しいけど」

 蝋燭(ろうそく)の光の中に置かれたその地図を、俺はのぞきこんだ。


 ——似てる。


 日本地図の一部。本州の西のほうを描いた地図に似ていた。

「ここがウラキアの町で、その西にあるのがハルマニア公国の首都」

 地図の右側をジャッジは指した。これが日本地図なら、岡山県か兵庫県のあたりだ。

 次にジャッジの指は、その右下——地図の右下隅にある赤い二重丸に置かれた。大阪?

「こっちがアッシルカガンツ帝国の首都、ネオイーサだ。この帝都が今、たいへんなことになっている」

「なに?」

「東から来たノダ・アブナガという男の軍に占領された。皇帝のアッシルカガンツ13世も、まだ首をとられてはいないようだけど、行方不明になっている」

 そう言ってからジャッジは、地図の外側——さらに東のほうに指をやり、クルクルと回した。

「アブナガというのは、このあたりにあるイリア帝国の貴族だった男らしい。今はイリアとアッシルカガンツを統合したアブナガ最終帝国の皇帝を自称して、その新しい帝国の傘下にハルマニア公国も入れようとしている。西のマウロペア三王国は、もちろんそれを認めていない。おそらく戦争になる。つまり」

 ジャッジは指をウラキアの位置に戻した。

「おれたちがいるこの土地で、マウロペアの軍勢とアブナガの軍勢がぶつかることになる。たぶん、次の冬が来る前に」


 ⁉


「それ、やばすぎるでしょ。土地のもんでケンカしてる場合じゃなくない?」

「戦争になる、じゃあどうする、ってところでケンカになっているんだよ」

「まあ、そうか」

「この町のことは、おれたち12人の話し合いで決めてきた。おれとラグーは中立を保つべきだと考えているけど、ちがう考えの奴もいる。ここまで意見が合わないのは珍しい」

「ん? ジャッジとラグーって、もしかしてかなり偉い人?」


 俺が見た範囲だけでも、100人以上は住んでいそうな町だった。

 さっきの殴りあいと飲み会の中には、だいぶ年上らしき男もいた。


「ジャッジは今、何歳なの?」

「正確にはわからない。物心がついてからは19年」

「やっぱり、俺と同じくらいか。ラグーも?」

「ああ。おれたち兄弟は、だいたい同じだ。この町は、おれたちが復興した町なんだよ。まわりの農地も、12人で開拓した」

「はー、すっげえな。さっきいた年上っぽい人たちはなに?」

「ここを拠点にしたい商人とか、流れてきた農民たちだよ。町の決めごとには関わらないことになってはいるけど、それほどきれいにはいかない。結局、彼らもそれぞれの派閥に分かれて、たがいに言い争うようになってしまった」

「なんか、たいへんなんだな」

「うん」ジャッジは額に手をあててうつむいた。「だから今日のことは、正直、ありがたかった。これで少し、流れが変わる、かもしれない」

「おう。俺にできることがあったら言いなよ。メシは1日2食しか食わない」

「ああ。行くところがないなら、明日、空き家まで案内する。しばらくそこに住んでよ。上納金は出さなくていい」

「あー、上納金とか取るタイプの町?」

「それは取るでしょ。おれたちも、ハルマニア公国に納めてる」

 そう言ってジャッジは、地図に指を戻した。

「ハルマニア公国は、東のアッシルカガンツ帝国と西のダーヌ王国に納めてた。でもこれからは、ハルマニアの奪い合いになると思う。アブナガとダーヌ王国の戦争だ」


 ジャッジの長い指が示しているのは、ハルマニア公国が岡山県か兵庫県なら、広島県か岡山県のあたりだ。そこがダーヌ王国か。

 この地図は、国の範囲がよくわからない。国の名前は読みにくい字で書きこまれているが、国境線は引かれていないし、色分けもされていない。

 もうダーヌ王国は岡山県みたいなものだと思うことにする。


「ダーヌっていうのは、さっき言ってた3つのアレだよな」

「そう。旧マウロペア帝国が分割された三王国の中の一つだよ」

「あとはなんだっけ?」

「マウル王国とライヌ王国。ここがマウルでこっちがライヌ」


 ——なるほど。マウル王国が山口県と広島県で、ライヌ王国が島根県と鳥取県。


「で、岡山……じゃなくて、ダーヌ王国か。その国は強いの?」

「そこだよね」

 ジャッジは難しい顔をした。

「もちろんハルマニア公国よりは強い。でもアブナガ軍が攻めてきたら、マウルとライヌの援軍があっても、ハルマニアを守りぬけるかどうかはわからない。アブナガ軍についての情報がほとんどないんだよ。おれたちも困るし、ダーヌ王国も困ってる。おそらくドロドロの戦争になる」

「この町はどうなりそうなの?」

「……この町には、東西を結ぶ広い街道が通ってる」

「あ、店先(おもて)の道か」


 ——あの道が問題なのか。


 幅が6メートルはありそうな広い道だった。しかも石で舗装(ほそう)されている。

 手紙や商品を運ぶためには都合が良さそうだが、そのメリットは軍隊にとってのメリットでもある。

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