仮面
俺たちが小屋に入ると、ロージャンは虚ろな顔をこちらに向けた。
動きが鈍い。
この短時間で一気に老けこんだようにも見える。
なんかすまない。
ジャッジは空いている椅子を動かして、ロージャンの正面に座った。
そして彼に言う。
「ロージャンさん。あなた、この町を出たらメトロ・ポタリンに殺されますよ」
「え……」
「だってそうでしょう? 考えてみてください。あなたは仕事をしくじって、ウラキア兄弟会に捕まった人間です。そんな人が無傷で町を出たことを、もしポタリンが知ったら……いえ、必ず知ることになるでしょう。奴の情報網は、実に恐るべきものです。ねえ」
ラグーと俺はうなずいた。
ジャッジは続ける。
「我々としては、あなたがたに薬草を奪われた被害者への詫び料さえ回収できればそれでいい。しかし、ポタリンは残忍なやつです。ごぞんじでしょう。ほとぼりがさめるまでは、この町で被害者のために働くことをおすすめします。詫びがすんだら、正式にこの町の住民になってもらってもいい。この町にはヤブサワ・エイチャとウラキア兄弟会がいます。ポタリンが住民に手出しをできるような町ではありません」
そう言ってからジャッジは、ラグーに眼をやり、自分の左腰を叩いた。
ラグーが腰から刀を抜き、ロージャンを椅子に縛りつけていたロープを切る。
ジャッジは立ち上がり、ロージャンに尋ねた。
「ロージャンさん、家族はいますか?」
「……おりません」
「でしたら、迷うことはありません。この町で働きましょう、ロージャンさん。被害者への詫びがすむまでは、やや厳しい暮らしをしてもらうことになりますが、そのあとは自由です。住む場所も提供します。イヤですか?」
「いえ、あの……お願いします」
「じゃあ決まりですね。行きましょう」
力なく立ち上がったロージャンを連れ、ジャッジは小屋を出た。
俺とラグーもついていく。外はもうすっかり暗くなっていた。
ウラキアの夜。
ジャッジは服の内側から小さな笛の束を取り出し、その中の一つを口に当てて短く鳴らした。
闇の向こう——町の外れのあたりから同じような音が返ってくる。
しばらくすると、北東からこちらへランタンの明かりが近づいてきた。
先頭を歩いているのは巨体の男。ハッピーだ。
そして、様々な仮面をつけた者たち。大股で歩くハッピーの後ろから、小走りでついてくる。ちょっと怖い。彩色された仮面の紋様にも迫力があるが、むしろ、面でおおわれていない部分——人間の眼と唇が生々しい。
「あれ? 今夜の当番はサラリーだよね?」
「サボリだアイツ。帰ってこねえんだよ」
ジャッジの問いかけに、ハッピーは忌々しげに答えた。
ジャッジは言う。
「悪いけど、一名追加。いろいろ教えてあげて」
「また盗賊かよ」
「そこは言いっこなし。明日話すよ。まだ仮面のストックはあるよね」
「おう。じゃあ連れてくわ」
「頼む」
ハッピーたちはロージャンを連れて、来た方角へ引き返していった。
——この町、こういうことがよくあるのか?
マイルドな懲役刑のような仕組みがあるのだろうか。
ジャッジが俺のほうを向いて言う。
「ああいうワケアリの人たちには、しばらく仮面をつけて働いてもらうことになってる。お互いに素性を話すことも、まあ、いちおう禁止はしている。管理できるもんじゃないけどね」
「あの仮面……」
「ん?」
「俺も、アレにしようかな。いちいち化粧するより、あっちのほうが手早いし、威圧感も充分あるだろ」
「……ああ。サラリーが言ってた、〈デモ活動〉用の仮装のことか。たしかに、そのほうが手軽ではあるよね。職人に頼んでおくよ。紋様の希望はある?」
「そこはサラリーに訊いたほうがいいだろ。せめて、そこくらいは」
「わかってきたねー。うん、楽しんでくれると思うよ」
「どんな物が出てきても、吾輩は受けいれる」
そのあと、俺とラグーとジャッジは酒場に戻った。
店は満席。繁盛しているようだ。にぎやかな店内では、大勢の人たちが酒をくみかわしている。
ジャッジはそのまま、「まだ仕事が終わってないから」と言い残して二階へ上がっていった。
「じゃあメシは、おれんちで食おうぜ」
とラグーが言った。
彼は酒場の店長にパンとスープを注文し、葉物野菜と干し肉のスープが入った鍋を受けとった。テイクアウトか。俺もパンの籠を持ってラグーの家に向かう。
ラグーの家には、部屋の広さのわりにはずいぶんと大きなテーブルがあった。




