尋問
俺とラグーは、無言のまま、男を町まで連れていった。
俺はずっと口を開かず、ラグーも黙ったままだった。
威圧のためには黙っていたほうがいいだろうという暗黙の了解が成立したようだ。俺たちは二人で話していると気のぬけた感じの話しかたになってしまう。
おびえきった様子の男が連れていかれたのは、町の北西区画にある丸太小屋だった。
「尋問する場所だ」
とラグーは短く言葉を発して、小屋の戸を開けた。
俺が借りている空き家と同じ、10畳くらいの広さ。ベッドはない。椅子が3脚。その中の一つに男を座らせ、上半身と両脚を椅子に縛りつけたあと、俺とラグーは無言でうなずきあって小屋の外へ出た。
そして小屋から距離をとる。
——さて、
「どうしよう」
と俺は言った。
「わかんね」
とラグーが言う。ノープランだったようだ。縄を持ち歩いていたのは偉いが。
盗賊らしき連中の一人を捕まえることができたのは、予想外の収穫だった。俺は、おどして追い払うことしか考えていなかった。
しかし、運よく手に入った情報源をどう扱えばいいのか。
ラグーも考えていなかったようだ。
「絶対これ、最初からそこまで考えとけよってジャッジは言うよな」
「つまりジャッジを呼んでくればいいわけだな」
と俺は言った。
「それだ」
ラグーは俺を指さしてうなずき、町の中心部のほうに眼をやってから言った。
「おれ、ここで番してるから」
「おう。行ってくる」
俺は駆け足でジャッジの家に行った。
すでに薄暗くなっている部屋で書きものをしていたジャッジは、
「よけいな場所とか見せてないよね?」
と顔をしかめながらも、かなりウキウキした動きで尋問小屋へ向かった。
ジャッジは足がめちゃくちゃ速い。
少し遅れて小屋に到着した俺は、外で息を整えてから戸を開けた。
「ヒッ」
椅子に縛りつけられた男が、俺の顔を見て短く悲鳴をもらし、椅子をがたつかせた。大きな目をさらに見開いている。
その脇に立っていたジャッジは、床を軽く踏み鳴らしてから、
「騒がないでください」
と言った。
ラグーは無言のまま腕を組んで仁王立ち。その顔からは表情が消えている。初めて見るタイプのラグーだ。あどけなさを感じさせる顔立ちだが、こうやって眼を据えて黙っていると20代前半の顔に見えないこともない。
彼をまねて、俺もゆるぎない感じの立ち姿と顔を作った。
俺とラグーとジャッジ。
体格的には迫力に欠ける三人組だが、相手の男はもう完全に威圧されているようだった。巨大生物ハッピーを呼んでくる必要はなさそうだ。
「お名前は?」
とジャッジが尋ねた。
男は呆然とした顔で黙っていたが、ジャッジがもういちど足を踏み鳴らすと、
「ロージャン! ロージャンです!」
と答えた。
ジャッジはうなずき、ロージャンへの尋問を続ける。
「2日前の夕方、うちの人間が森で矢を射掛けられました。あれは、あなたがたのしわざですか?」
「あ、あやまります…… 勘弁してください……」
「それと、その人が集めていた薬草が一籠、行方不明になっています」
「……売りました」
「誰に?」
「仲買人です」
「その人の名前は?」
「……おれは知りません。初めて見る顔でした」
「あわよくば、人間も売ろうとしていましたか?」
「しません! 薬草はちょっと、こづかいかせぎのつもりで……」
「そうですか。ここまでの話に、嘘はありませんね?」
「はい!」
ロージャンは、小刻みに震えながら顔を上げている。
ジャッジは深く腰を落として、彼の眼をのぞきこみながら言った。
「ではそもそも、あなたがたは何をしにウラキアの森に入ったんですか?」
「え……」
ロージャンは沈黙した。
半開きになったままの口。細い顎がこまかく震えている。
ジャッジは立ち上がり、ラグーのほうへ右手をのばした。ラグーは腰から刀を抜いてジャッジに渡す。
そしてジャッジは、ロージャンの両脚を椅子の脚に縛りつけていたロープを切断し、また腰を落としてから言った。
「ロージャンさん。われわれウラキア兄弟会は、この件をあまり大事にしたくないと思っています。正直におっしゃってください」
しかし相手は答えない。
ジャッジはしばらく待ったあと、また口を開いた。
「質問を変えましょう。リンダ・ミツーナという女を知っていますか?」
「……や、知りません」
「リンダ・ミツーナ」
「知りません!」
「では、コスモ・ポタリンという商人を知っていますか?」
「し、知っていまっせん!」
「知りませんか? なにかと有名な男ですよ?」
「あ……名前は、知ってます……」
ロージャンはそう言って、顔を伏せた。
ジャッジはさらに頭の位置を下げ、相手の顔を見上げながら言った。
「少し休憩を入れましょう。続きはまた、コスモ・ポタリンの話から」




