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盗賊反対デモ活動

 ジョインが部屋を出ていったあと、ジャッジが俺に言った。

「ちょっとラグーの様子を見に行ってほしい。道順はおぼえてる?」

「ああ。あいつの家だよな」

「たぶんまだ、いると思う」ジャッジは手紙にペンを走らせながら話しつづける。器用な奴だ。「日が落ちる前に、森の盗賊に警告をしに行くことになってるんだけど、できればきみに同行してほしいんだよ」

「あー……、ラグー、ちょっと調子が悪そうな感じだったよな。俺、どのへんが普通なのかよくわかってないかもだけど」

「明らかに元気がない。かなり戦争の気配が濃くなってきたから、人間と戦うことを意識しはじめたのかもしれない。今が一番、不安定になりそうな時期だ」


 ラグーは今朝、ハルマニア公国の首都であるセルケストから帰ってきたばかりだ。首都に住んでいる兄弟と情報共有をするために馬で往復した。

 ハルマニアの軍は今、西のダーヌ王国からの小規模な増援をむかえいれながら、強めの警戒態勢をととのえつつあるらしい。


 西と東の間。

 ダーヌとネオイーサの間にある緩衝地帯。

 ハルマニアをあいまいな領域のままにしておこうという平和のための合意は、ネオイーサ帝国ごと崩壊した。

 アブナガの西部方面軍はもう、ハルマニアの東の端にあるウラキアの町の調査に手をつけている。


 しかしまだ、このウラキアが戦場になると決まったわけではない。

 ウラキアの町はハルマニア公国の完全な下部組織というわけではなく、かなりの自由が許されているそうだ。戦争への不参加も黙認される可能性が高いという。

 あいまいな時間は続く。

 この町にほうりこまれてから今日で5日目。俺にもようやく、この町にただよっているストレスの正体が見えてきた。

 濃い平和だ。

 これがいつまで続くのか。


 ジャッジは言う。

「腹をくくってしまえば問題ない奴なんだけどね。そうなるまでがちょっと心配だ。ラグーは突撃屋のジョインとちがって狙撃もやるから、気持ちの調整の仕方が少し特殊なんだよ」

「そういうものなんだ。俺にはちょっとよくわからんけど」

「きみはいっしょに動いてくれるだけでいい。というかまずは、きみが重荷にならないことをラグーに示してほしいんだよ」

「なるだろ、ふつうに」

 ラグーはいい奴だし、俺は弱い。

 森の盗賊というのがどういう集団なのかはよく知らないが、

「俺にはハッタリだけしかない」

「とりあえずは自分の身を守れればいいよ。サラリーに鍛えられてるよね」

「……あれだけでなんとかなるやつなの?」

「しょぼい矢が飛んでくるだけだと思うよ。まだ盗賊の数も少ないみたいだしね。このまま森に住み着かれて人数が増えたら厄介なことになるけど、今のうちならまだ大丈夫」

「その大丈夫は、ウラキア兄弟会の基準だろ……」

「問題ないよ。ただ、先手は絶対に入れたほうがいい。きみの先手は威圧。弓より早い。ウラキア(こっち)の森の木は何本か犠牲にしてもいいから」


 俺は酒場を出て、目の前の街道を西へ進んだ。

 2つめの交差点で左に曲がり、舗装されていない道を少し歩くと、ラグーの家が見えてくる。

 木造1階建ての簡素な丸太小屋。俺が借りている北西区画の空き家と同じだ。

 大昔からある石造りの家を修復したものではなく、ウラキアの兄弟たちが新しく建てた家だという。

 家の脇にある馬小屋には、ラグーの馬がつながれていた。ジョインの馬よりも40センチほど体高が低く、かわいらしい体型をしている。


 家の戸を叩き声をかけると、すぐにラグーが顔を出した。右手に短い弓を持っている。

「なにエイチャ。おれ、今から森に行くんだけど、歩きながらでもいい?」

「や、ジャッジがな、俺もいっしょに行ってみろって」

「あー……、そうだな。そろそろ、それぐらいやっとくか。ちょっと待ってな」


 ラグーは戸口から離れて家の奥へ行き、少ししてから外に出てきた。

 (さや)に入った刀らしきものを2本持っている。

 そのうちの1本を俺に渡してラグーは言った。

「これ、ちょっと軽いほう。使える?」

 俺は木と革で作られた鞘から、その刀を抜いてみた。

 かなり重い。思いきり振るには前腕の力が足りないと感じる。

 幅が広く厚みもある刀身の長さは約60センチ。

 革が巻かれた柄の長さは15センチもない。これを片手で振り回す前提かよ。

 試しに1回振ってみたが、やはり厳しい。すぐに切り返して2回目を振ることができない。かといって、体の軸を変転させながら連撃を続ける技術も俺にはない。


「ムリっぽい」

「まあ、持つだけ持っとけ」

 ラグーは自分の刀を腰にさして歩きだす。

 南門から出るようだ。

 俺もラグーの右横にならんで歩く。

 彼の装備は、背中の弓矢と左腰の刀。肩にかけている革袋の中にも、ナイフくらいは入っているのかもしれない。

 防具のようなものは身につけていない。俺と同じ、ただの布製のシャツと長ズボンだ。

 俺は尋ねた。

「森の盗賊って、何人くらいいるの?」

「3人はいる。昨日、若いのが様子を見に行ったんだけど、向こうにも見られたかもしれないって。やっぱ、ヒアがいないとダメだな」

「相手に気づかれたかもしれないんだ」

「ああ。だから数を増やして待ち構えてるかもしれない。逆に消えてるかもしれないけど」


 南門の手前まで来たとき、防壁の外で犬が鳴いていることに気づいた。

 門を抜けて東の草原を見る。

 サラリーだ。

 山吹色のワンピースをひるがえしながら、犬たちと遊んでいる。

 顔はよく見えない距離だが、この町で黄色系の服を着ている人間は他に見たことがない。逆ファッションリーダーなのだろうか。そんな気もする。

 彼女が次々と遠くへ放る何かを、犬たちは先を争うようにして追いかけていく。

 その姿にラグーはちょっと眼をやり、それから俺に言った。

「エイチャ、顔はそのままでよかったの?」

「顔?」

「〈デモ活動〉やる時には、やべえ化粧しろとか言われてたよな、サラリーに」

「ん? あれ? 本気かよ?」

「サラリーが楽しそうに言ったら本気だろ」

「……まあ、とりあえず、今回はナシで」

「そうだな。このまま行くか。けど派手にやってくれよ。戦わないですむなら、それが最高だからな」

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