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マブい女

 酒場の2階。

 ジャッジの部屋で、俺はウラキアの兄弟たちに伝えた。


 〈1周目の世界〉で「死んだ」こと。

 「神」を自称するなんらかの何かと話した後、精霊といっしょにウラキアの町へ直送されたこと。

 スキル〈デモ活動〉でレンガや鉄は壊せるが、人体は傷つけられないという制約があること。

 サブスキル〈なんらかの鑑定団(オープン)〉でオープンすれば、威圧の相手に与えた〈圧力〉の強さがわかること。


 俺の素性とスキルの全てについて話しておく相手はジャッジだけにしようか、とは考えた。


 嘘をつけなさそうなラグー。

 なんでも大声でぶちまけそうなハッピー。

 言動が制御不能っぽいサラリー。


 不安はあった。

 しかし、この兄弟たちの間に秘密の壁を作ってしまうのは気が進まなかったし、そもそも作れはしないだろうと思った。


 神と精霊とスキルについて話し終えた俺を、椅子とベッドに座った4人の兄弟はしばらく黙って見ていた。

 最初に口を開いたのは、サラリーだった。

「親父が言ってた。頭のおかしい話をぶっちゃける奴は、頭以外の全てが信用できる」

「そんなだっけ?」

 と顔をしかめたラグーに、

「だいたいそんなこと言ってたろ」

 とサラリーは返し、椅子から離れて俺の右上の空間をまさぐりはじめた。その手はレーションの体をすりぬける。触れることはできない。

 ジャッジは、指先を顎にあてたまま、何かを考えているようだ。

 ハッピーはベッドからゆっくりと立ち上がり、「クソ…………か?」とつぶやいた。何を考えているのかわからない。


 もともと俺は、この話の全てを真実だと思ってほしくて伝えたわけではない。

 俺自身でさえ、どこからどこまでが夢や妄想なのかもよくわからない話だ。


「で、」

 大事な話はここからだ。

 これからの話。

 俺は〈2周目の世界〉で何をしたいのか。

 たとえウラキアの兄弟たちに迷惑をかけてしまうことになっても、

「——俺はその〈マブい女〉にもういちど会ってみたい。そのために精霊の力を使っていくからよろしく」


 ラグーが首をかしげた。少し暗い顔をしている。

「……まあ、気持ちはなんかわかるよ。けどその、エイチャといっしょに歩いてた〈マブい女〉? そいつも、どっかにはいるんだろうけど、けど、世界とか〈講義室〉とかがいくつもあるって話なら……この世界? ここ? エイチャの言う〈2周目の世界〉にいるとは限らないよな」

「たしかにそうなんだけど、俺はいると思う……ていうか、もう〈こっち〉に来てるのかどうかはわからないけど、いつかは必ず来る。まっしろなところで神様みたいな何かと直接話した時の感じは、そんな感じだった」

 俺のふわふわした話に、ラグーはやはり納得していないようだった。

 俺もまあ、冷静に考えてみれば、100パーセントの確信は持てない。あの時は、いきなり目の前にあらわれた希望ありげなニュアンスに、思わず飛びついてしまったが。

 しかし、椅子に座りなおしたサラリーは、

「絶対いるだろ」

 と断言した。

「その神、「教えるわけにはゆかぬ」とかいってほとんどヒントゆってんじゃん。ヒントの女神ヒンティアだな」

「そんな神様がいるのか⁈」

「や、いま作った」

「そうか……」

「けど、その話し方、ぜってーそうじゃん。いるだろ。やっぱりヒンティアだな」サラリーは、足をぶらぶらさせながら眼を輝かせている。「いるつもりでやってけや。そのほうが面白い」

「ああ、そうするよ」

 靴をぬいだサラリーの足が、俺の顎先をかすめた。

 ちょっと脳がゆれる。

 ラグーがまた口を開いて、俺に尋ねた。

「そのマブい女って、どんな女?」

「とにかくマブい」

「わからねえよ。おれたちには探しようがないだろ。とりあえず、名前は?」

「いや、探さなくていい。俺のことは話すけど、あいつのことについては何も言えない」

 と俺は言った。

「あいつが〈2周目の世界〉で何をしようとしてるのか俺にはわからないし、なんて名乗っているのかも知らない。〈1周目の世界〉から来たことを、まわりの人間に話しているのかどうかも知りようがない。だから今は何も言えない」

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