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ひなたとの再会

作者: こず

登場人物の名前を考えるのが苦手です。

 書店に行ってそこに並んでいる本のどれもが自分が書いたものでは無いことにため息が出た。まぁ、それはそうである。自分で書いたことが無いので当然並んでいるはずが無い。どうしたらあんなに長い話を支離滅裂になることもなく、順序立てて書くことが出来るのだろうかと首を傾げる。


「先生、私先生のこと先生って呼ぶのやめてもいいですか?」

 そう聞いてきたのは私の作品を慕ってくれている恋人兼同居人だった。

「先生、長い話どころか短い話でさえももうずっと新作書いてないですよね」

 あまりの正論に冷や汗が出た。

「いや、今構想段階だから」

「それ、絶対嘘ですよね。それなら証拠見せてくださいよ」

 私はスマホのメモ帳を彼女に手渡した。

「あーまぁ一応あるんですね、内容スカスカですけど」

 彼女は私のスクロールするほども無いスマホのページをパッと見た。

「普通生きてて小説書こうなんて、書く側になろうなんて思わないと思うんです。もう私の気持ちは他の誰かが代弁してくれててそれに私は乗っかるだけ。享受するだけなのが当たり前だと思うんです。だから、一から頑張って話を考えようとしてる先生はすごいなって」

「いや、完成させられないからすごくないよ。全然こんなの」

「自分の作品に対してこんなのなんて言わないでくれますか」

 彼女の語気が少し強まった。

「私はその、好きなので……先生の作品が……」

 目を逸らしながら小さな声で彼女はそう答えた。

「あ、ありがとうございます……」

「だからこれからも頑張ってほしいなって、いや、先生の重荷になったりはしたくないんですけど……」

「うん……」

「うーん……どうやったら新作完成させられますか……? やっぱり色仕掛けですかねぇ……」

 そう言いながら彼女は服を脱ごうとした。

「いや、そういうのは大丈夫だから……!」

「最近してないからって思って……嫌ですか?」

「嫌なわけない!」

 そう声を荒げてしまって赤面した。結局その日の夜に少しだけして眠った。


 私の小説に出てくる登場人物は名前がずっと欠落していた。名前を付けるのが難しい。名前なんてなんでもいい。いや、なんでもいいじゃきっとだめなんだろう。その人をその人らしくたらしめるパーツ。そういうのを考えるのが苦手だった。


 もし、同居人兼恋人の彼女に名前を付けるとしたら何になるのだろう。


「大変言いにくいのですが……おそらくそれは……幻覚ですね」

 そう医者に診断されて最近ようやくわかった。彼女は本当はお酒を飲んだ時にだけに出てくる都合の良い幻覚だったと。すなわち、イマジナリー・ガールフレンド。彼女としたと錯覚したのも多分自慰をして気持ち良くなって寝ただけのことだったのだ。


 「傍嶋ひなた」

 いつも傍にいてくれて笑顔でひなたぼっこしているみたいに心が暖かかったから。そんな風に名付けたと教えたら何その名前って彼女は笑うのかな。

 お酒を飲んだ時に前まで見えていた彼女はもう見えなくなってしまっていた。


 スマホとペンとメモ帳を取り出して今日も原稿に取り掛かった。いつか彼女に再会したら完成した作品を見せたい。そう思ってメモ帳にペンを走らせた。

イマジナリーフレンド、自分はいたことがないです。

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