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狼少年法


「迷惑電話条例法に基づき、5年間の首輪装着を被告に命ずる」


ムシャクシャしている時にストレス解消しようと警察や消防を含めてあちらこちらに悪戯電話をかけまくったら逮捕されてしまい、下された刑罰がこの首輪の装着だった。


拘置所で首輪を装着され係官に首輪の説明を受ける。


「首輪を無理やり外そうとしたり、故意に傷をつけたりした場合、罪が重くなりますので注意してください。


装着後半年に1回、住居のある市町村を管轄する警察署に出向き首輪に蓄積されているデータの確認を受けるように、これに違反しても罪が重くなります。


ここを出てから首輪について質問がある場合は、管轄する警察署の係官にお聞きください」


説明を受けたあと拘置所から釈放された。


最寄りの駅に行きトイレで装着された首輪を鏡で映し観察する。


首輪は目立たなくする配慮なのか肌色に塗装され、親指より少し太めのパイプで作られていた。


繋ぎ目は見えず取り外すときは、装着した時と同じ特殊な器具が必要なようである。


首輪を一通り観察してから友人に電話をかけた。


呼び出し音が数回鳴ったあと友人の声がした。


「はい」


「俺、俺、今日飲まないか?」


「え! 何だって?」


「聞こえねーのかよ?」


「悪戯電話かよ、 糞が」の声のあと電話が切られる


な、何だよ? 悪戯電話って?


頭にクエスチョンマークを3個ほど浮かながらスマホを見つめていたら、今電話をかけた友人から電話が掛かって来た。


「はい、俺」


「お前、今俺に電話を掛けたか?」


「ああ、掛けたよ、直ぐに切られたけどな」


「お前の電話だったのか、それで何の用だ?」


「釈放されたから、飲みに誘おうと思ったんだよ」


「飲みの誘いか……いいだろう。


俺も電話の事とか色々と聞きたい事があるからな。


で、どこで飲む?」


「何時もの所で良いだろう?」


「何時に?」


「うーん……俺も1度家に帰りたいからぁー……、8時でどうだ?」


「分かった、じゃあな」


電話を切り借りてるアパートの部屋がある駅の切符を購入する。


ホームを歩きながら拘置所に入れられていた間飲めなかった酒の味を頭に思い浮かべていた。


8時ちょっと前に待ち合わせた飲み屋に行き飲み屋の引き戸を開く。


飲み屋に入り店の中を見渡していた俺の目に先に来ていた友人が奥の座敷席から手を振っているのが映り、友人に向けて軽く手を上げてからそこに歩み寄る。


座敷に上がり手拭きとお通しを持ってきた店員に生ジョッキの大とオツマミを3品程頼む。


友人とジョッキを打ち合わせて乾杯する。


「出所おめでとう」


「ありがとぉー、う、美味ぇー五臓六腑に染み渡るぜ」


「ハハハハ、大げさだな」


「そんな事言うなよ、半年ぶりの酒なんだからさ。


あ、そういえば電話の事って何だ?」


「その事だけど……、お前ちょっと俺のスマホに電話をかけてみろ」


「電話?」


「ああ」


友人に促され友人のスマホに電話をかけた。


スマホを耳に当てた友人がそのスマホを俺に手渡して来る。


「聞いてみろ」


友人のスマホを受け取り耳に当てた。


俺は喋っていないのにスマホから音声が流れている。


「……シマス、ケイコクシマス。


デンワヲカケテキタジンブツハ、メイワクデンワジョウレイホウ、ツウショウ、オオカミショウネンホウイハンシャデス。


コノデンワモ、イタズラデンワカ、メイワクデンワノカノウセイガアリマス。


デンワヲカケテキタジンブツト、ツウワヲスルノナラバ、イチドデンワヲキリ、アナタカラデンワヲカケナオシテクダサイ。


ケイコクシマス、ケイコクシマス。


デンワヲ……」


スマホを耳から離し俺は叫んだ。


「な、何だ! これ?」


友人が店のレジの脇にある電話を指差しながら言う。


「あれでも試してみろ」


それに従ってレジの所に行き、レジ脇の電話で友人のスマホに電話をかけてみた。


電話を掛けながら友人を見たら首を横に振っている。


友人の所に戻り念のため聞いてみた。


「どうだった?」


「同じ音声が流れてた。


ところでさ、さっきから気になっていたんだけどその首輪なんなんだ?」


友人は首を横に振りながら俺の首に装着されている首輪を指差してきた。


「あ、これ、迷惑電話条例法違反で装着を命じられたんだ」


首輪を指差しながら答える。


「迷惑電話条例法違反ってオマエ、電話の音声の原因それじゃないのか?」


「え、これ?」


確かに言われてみれば原因はこれしか思い浮かば無い。


それが分かってからは酒が不味く感じ飲み会を早々とお開きにする。


翌日最寄りの警察署に行き首輪の係官に説明を求めた。


「この首輪をつけていたら電話をかける事が出来ないじゃないか! 」


係官は俺の怒鳴り声を無視して慣れた感じで返事を返してきた。


「当りまえでしょ。


あなたがその首輪をどのような物だと思っていたのか知りませんが、その首輪があなたに下された罰なのですよ」


「で、でも、こ、此の首輪をつけていたら、仕事で電話を使用する事が出来ないじゃないですか?」


「仕事中に電話を使用しない仕事を探して、転職したら良いのでは?」


「そ、そんな仕事限られているでしょう、何とかなりませんか?」


「なりません。


電話は便利な道具だが、悪戯電話や迷惑電話を掛ける物では無い。


5年間電話無しの生活を送り、電話のありがたみをあなた自身が感じる事ですね。


それからメールを発信しても、音声と同じ文が発信されるだけですから気をつけてくださいね」


「メ、メールも、ですか?」


「はい。


拘置所の係官に聞いていると思いますが、首輪を無理に外そうとして破損したり傷をつけたりした場合、刑が重くなりますからね」


「聞いてはいます、壊すと刑務所に入れられるんですか?」


「イイエ、刑務所に収容される事はありません。


長くなるのですよ、装着期間が」


「え、どういう事ですか?」


「刑が重くなると聞いてあなたのように刑務所に入れられると勘違いされる方が多くいらっしゃいますが、刑務所に収容されるのでは無く装着期間が長くなるのです。


此の刑罰が見せしめという一面もありますのでね。


1回目は5年が10年になり2回目は10年が20年に延長、3回目は20年が死ぬまでに延長されます。


だから破損したり傷をつけたりするのは止めた方が良いですよ。


それから半年毎に行われる警察署でのデータの確認、この時にあなたが半年の間に電話やメールを行った相手を全て把握しますので、ガイダンスを使用して悪戯電話や迷惑メールを行わないようにしてくださいね。


罰を受けている最中にも拘らず、このような事を行う方が存在するので警告しておきます。


これを行うと刑が加算され、首輪が別な物に変えられます」


「別な物に?」


「はい。


今あなたが装着している首輪は、首輪自体は無害な物ですが別な首輪は違います。


1回目に取り替えられる首輪は電話やメールをかける操作を行うとスタンガンのように、数分から十数分身動きできなくなる高電圧が掛けられます。


それにも拘らず懲りずに2回目の違反行為を行うと、今度は数時間から十数時間身動き出来なくなる程の電圧が掛けられます。


それでも懲りずに3回目を行うと、身体が硬直して一生動けなくなる薬剤が注入されるのです。


この薬剤なんですが、私も資料を見ただけなので詳しくは知らないのですけど、身体が硬直するまでに凄まじい痛みが身体中を襲うだけで無く、硬直した後もその痛みが続くらしいです。


だから違反しないように気をつけてくださいね。


それで他に質問はありますか?」


罰を甘くみていた俺は首輪装着の重さを知り、係官の問いかけに返事を返す事も無く警察署を後にした。






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