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愉快犯


部活を終え帰宅しようと校門に向けて歩いていた祐二と悟の目に、校門の前に大きな箱のような物が設置されているのが映る。


「何だあれ?」


祐二が設置されている物を指差しながら疑問の声を上げた。


その問に、並んで歩いている祐二と悟の間に後ろから割り込み抱き寄せるように2人の肩に腕を置いた体育教師の岡部が答えた。


「晒し者にされている、山本だよ」


「「え? 山本?」」


2人が疑問の声を上げる。


それから祐二は疑問の続きを岡部に問う。


「学校に爆弾を仕掛けたと嘘メールして第2級テロ法だったかで捕まった、山本ですか?」


「そうだよ」


悟が疑問の続きを岡部に問おうとしたとき、校門近くに建っている体育館の裏手から生活指導の先生たちに目を付けられている札付きの不良の生徒が数人が現れ、設置された物に気が付き騒ぎ出した。


「何だこれ?」


「オイ! 中見てみろよ、中に座っているの山本じゃないか?」


「山本って、悪戯メールで捕まった奴だったか?」


「そう、そいつ」


「箱の上に何か書いてあるぞ。


なになに、 第2級テロ法に基づき晒し者の刑が執行中です。


助け出そうとしないように。


助け出そうとした場合あなたも同罪で晒し者にされます。


この刑の執行中この者にかかる必要経費は1日約2000円です。


この者に同情するのなら、料金箱にお金を投入してください」


「フーンそうか、それじゃ、ちょっとだけ入れとくか」


「こんな奴の為に金出すのかよ?」


「だってさぁ、こいつの悪戯メールのお陰で学校休みになっただろ。


あのとき俺、休みになったのを良いことにスロ打ちに行ったんだ、そしたら大勝ちしてさ10万程儲けたんだ。


だからそのお礼」


「へーって? 10万も儲けたくせに入れるのは10円だけかよ?」


「仕方がないだろ今財布に入ってる小銭、10円玉と1円玉だけなんだから」


金が料金箱に投入された途端、不良たちの前にサイレンを鳴らしたパトカーが停車し降車した警官たちに金を投入した奴だけで無く、その場にいた不良たち全員がパトカーに押し込められ連れ去られて行く。


「馬鹿だねー、金を入れるから捕まるんだ」


岡部の言葉に、頭の上にクエスチョンマークを付けたような顔になった祐二と悟が顔を岡部に向ける。


「山本の同志だと思われたのさ」


「「同志って、なに?」」


「山本が捕まった時に、俺には多数の同志がいるんだーって喚き散らしていただろう。


警察はそんな戯言を信じちゃいないが、山本みたいな阿呆に同情する馬鹿が出ないように見張っているんだよ。


だからあいつらも、警察でたーっぷり絞られてから放免されるだろさ」


と、その時、校門の前に乗用車が急ブレーキの音を響かせながら止まり、車の中から転がるように降りてきた中年の女が箱にすがりつき喚き出す。


「太郎ちゃん! 大丈夫? あぁ……可哀想に……」


中年の女は手に持っていたハンドバッグから財布を取り出し、高額紙幣を料金箱に次々と入れていく。


「太郎ちゃん、太郎ちゃんが必要とするお金はママが何とかするからね、だから心配しなくても良いのよ」


金が料金箱に入れられた所でまたサイレンを鳴らしたパトカーが校門の前に停車し、降車した警官に「太郎ちゃん! 太郎ちゃん!」と喚きたてる中年の女はパトカーに放り込まれ連れ去られて行く。


「山本の母親かぁー、あの婆もこれで静かになるだろうな」


「おばさんも厳重注意されるの?」


悟が岡部に問う。


「イイや。


テロ法に違反した者は人権を含む全ての権利が剥奪されただけで無く、所有していた財産も全て取り上げられる。


だけどそれは本人だけで家族には累は及ばない。


しかしだ、犯した者が所有していた財産で国や被害者、山本の場合は学校と市だけどな、が被った損害の賠償金など全てを賄えれば良いが山本みたいなガキだと無理。


家族だった者が賠償金の肩代わりを申し出ない限り、損害を被った被害者は泣き寝入りになる。


ただ、あの婆のように晒し者になった家族可愛さに金を料金箱に入れれば、家族が賠償金の肩代わりを申し出たと見做されて、家族の財産を差し押さえ出来るようになるって訳さ」


3人は校門から外に出ると箱の中を覗き込む。


狭い箱の中にオムツだけを付けた山本が正座していて、怯えた表情で3人を見上げていた。


悟がまた岡部に質問する。


「ねぇ先生、山本はこれからどうなるの?」


「ウーン……、山本の最後はどうなるかは先生も分からない。


ただ、自分のストレスを発散する為や人が慌てふためく姿を見たいからといって、悪戯電話やメールをする馬鹿の末路は想像できる。


山本は学校の生徒や教職員に戒めとして1週間程晒し者にされる。


その後は子供たちの教育に悪影響を与えないように、此処から何処か別な場所に連れて行かれて……」


岡部は最後の語尾を濁しながら腕時計に目を向けてから話しを続ける。


「……もう6時半近くだ、2人とも寄り道せずに帰るんだぞ」


そう言って岡部は校門を閉め校舎の方へ戻って行った。









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