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死刑


「主文、被告を死刑と処す」


独房で護送されるのを待っている俺のところに弁護士が顔を見せた。


「弁護士さん、上告したいので手続きお願いします」


「広田さん、あなたは私費で弁護士を雇う事が出来るのですか?」


「へ? どういう事?」


「何度も何度も繰り返し犯罪行為を行い、裁判の時にだけ反省の態度を見せるあなたのような方に、国はこれ以上お金を使いたく無いらしいですよ」


「あ? あぁーどういう事だよ!」


「最初に行われる裁判、あなたの場合は今回の裁判ですが、これは刑を確定するためのものです。


この裁判で被告に言い渡された罪が軽いと思う被害者側が上告した場合、その時は裁判を続ける為の弁護士費用は国が負担します。


しかし、被告側が罪の減刑を求め上告する場合は費用は自費でと言うことです」


「税金から出されてるんじゃねーのか?」


「弁護士さん、それ以上の説明はこちらでしますのでお帰り頂いて良いですよ」


俺と弁護士の会話に割り込んで弁護士に声が掛けられる。


声がした方へ顔を向けると何時の間にか5人の男がいた。


「迎えの方たちが来られたようです」


弁護士はそう言いながらが男たちに会釈し独房の前から離れて行く。


独房に入ってきた作業服姿の男たちに向けて怒鳴る。


「サッサッと教えろ!」


「後だ!」


「何だとー先に教えろよ!」


「うるさい!」


独房に入って来た男たちに掴みかかり暴れる俺を男たちは力ずくで取り押さえ、その中の1人が事務的に俺の名前と年齢を確認して来た。


「広田一郎、36歳で間違いないな?」


返事を返す間も無く、首筋にチクッとした痛みが走ると直ぐに俺は意識を失ったのだと思う。


何故なら意識を取り戻したとき俺は、後ろ手に縛られて動けないようにする為か? 下半身を土の中に埋められていたからだ。


意識を取り戻した俺は藻掻きながら周りを見渡す。


建物に囲まれた広場の丁度真ん中辺りに俺はいた。


少し離れたところに弁護士に声を掛けた背広姿の男がいるのに気がつき怒鳴る。


「オイ! ここ何処だよ? 拘置所に収監されんじゃねーのか?」


怒鳴ったら背広姿の男が近寄って来た。


「説明してあげるから騒がないでくれ。


1ツずつ質問に答えてあげよう。


最初は税金の事だったね? 税金で賄われるのだから国で弁護士費用を出せと言いたいのだろうけど、あなた自身はどれだけの額の税金を国に納めているのですか? 


10代前半で最初の犯罪を行い、少年刑務所を皮切りに刑務所暮らしが大半のお前に何故! 税金を使わなければならないのだ?


弁護士費用だけでは無い、被害者遺族に支払われる賠償金や裁判にかかる費用などこれらも税金で賄われているのだぞ。


そんなお前にこれ以上の税金を投入したく無いってのが理由だ。


2ツ目の質問の答えは、処刑場だよ」


「な、何で?」


「死刑の判決を受けた犯罪者は今までだと、犯した事を反省させる為に数年から数十年収監されていました。


しかしですよ。


反省させる為に数年から数十年収監された後に執行されているのに、殆どの死刑囚は全く反省せず自分は悪くない被害者が悪いんだと言い続ける。


こんな奴らに何十年も無駄飯を食わせるなんて事は、税金の無駄遣いだという意見が出ましてね」


「そんな事ねーよ、反省してるよ」


「ハハハハハ、反省しているだって?


本当に反省している人間は一度刑務所に収監されたら2度と刑務所に戻って来ないのだ! お前と違ってな。


お前だって反省する為に収監を望むのでは無く、死にたくないから収監を望んでいるのだろう? そんなの税金の無駄遣いさ。


それでだ、今まで国の死刑方法は絞首刑だけだったのだが法が改正されてね。


被害者の遺族が賠償金では無く、犯人に被害者と同じかそれ以上の痛み苦しみ絶望を与えたいと望んだ時。


遺族が望む死刑方法がとられるようになったのだ。


それでお前の処刑方法は石打の刑に決まったって訳」


「な、何だよ? 石打の刑って?」


「始まれば分かるよ、それまで恐怖に怯えているのだね。


あ、それと、お前が完全にくたばる前に刑は終わるから、お前が可哀想だからでは無く遺族の方たちの心に傷が残らないようする為にだけどね。


刑が終わったあと絶命するまで放置されるから、息の根が止まるまでの間に自分が犯した罪の大きさを実感する事だ」


「そ、そんな……、で、でも……」


質問を続けようとする俺を無視し、背広姿の男は作業服姿の男たちに合図する。


作業服姿の男の1人が薬剤で満たされた注射器を手にして近寄って来た。


そいつは後ろ手に縛られてる腕に注射器の中の薬剤を注入、それから俺の口に猿轡を噛ませる。


猿轡を噛まされる俺を見て別な作業服の男がスマホを取り出し電話をかけた。


作業服の男が電話を掛けてから10数分経った頃、広場を囲む建物の中から大勢の人たちの泣き叫ぶ声が聞こえて来る。


建物の出入り口から泣き叫ぶ十数人の男女が出てきた。


出入り口から広場に入って来た十数人の男女は俺を見つけると、口々に罵声を浴びせ掴みかかろうとする。


掴みかかろうとする十数人の男女を作業服姿の男たちが手を広げて押し留め、押し留められた十数人の男女に背広姿の男が声を掛けた。


「お静かに願います。


控え室で説明された通り用意されている石以外は投げないでください。


そして此奴が絶命する前に刑は終了しますが、今までに行われた石打の刑を受けた奴らは全員、石打で受けた傷で数時間から十数時間痛みでのたうち回りながら死んで行きます。


ですから、皆様が行う石打で完全に息の根を止めるより、数倍以上の苦しみと痛みと絶望を与える事が出来ます。


その事を念頭に置いて刑を執行してください。


では、刑の執行を行います」


背広姿の男が宣言すると、作業服姿の男たちが十数人の男女を整列させる。


「広田一郎、36歳の死刑執行を執り行います。


20○○年12月3日10時40分。


執行開始」


背広姿の男が「執行開始」と言った途端、十数人の男女が口々に罵声を浴びせながら、猿轡の隙間から言葉にならない命乞いの言葉を叫んでいる俺に向けて石を投げ始めた。





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