立証
「信じてくれよ、刑事さん、あれくらいの時間で死ぬなんて思わなかったんだよ」
「あれくらいって? お前が子供を放置していた時間は5時間だぞ、5時間!」
「そうだよ、それくらいなら大丈夫だと思ったんだよ」
目の前にいる男は太陽の熱射が照りつけるパチンコ屋の駐車場に2歳になったばかりの子供を乗せたままの車を5時間放置し、熱中症で子供を死去させた事で逮捕された。
「もう1度聞くが、お前は子供をあんなに熱い車の中に放置していても大丈夫だと思ったんだな?」
「そうだよ! 信じてくれよ」
「そうか……、今日の取り調べは此処までにしよう」
翌朝、私と同僚は男を連れて太陽が照りつける駐車場に向かう。
「暑いなぁー」
「暑いなぁーって、お前はこういう太陽が照りつける駐車場に子供を放置したんだぞ! それでも死ぬとは思わなかったのか?」
「暑いけどさー、これくらいなら大丈夫だと思ったんだよ」
「そうか……」
私たちが向かう先には、子供が放置され死亡した車と同じ型のワゴン車が1台置かれていた。
ワゴン車のドアを開ける。
ワゴン車の中は朝早くから此処に置かれてあったために、蒸し風呂状態だった。
その後部座席に男を座らせ手錠足錠で椅子に固定する。
「な、な、 何するんだよ?」
「お前自身で立証するんだよ」
「え、な、何を?」
「5時間も炎天下の車の中に子供を放置しても死ぬとは思わなかったんだろ? だからそれをお前自身で立証してもらうのだ」
「そ、そんな……」
「立証実験後のお前の状況次第で、裁判での判決が左右されるから頑張れ」
「どういう事だ?」
「ん? 生きていたらお前が言っていた、『思わなかった』って言葉が正しかったって事が立証されるのだ」
「死んだらどうするんだよ?」
「その時は被疑者死亡で裁判が行われるだけだ」
「く、クソ! 分かった、分かったよ、やるよ! やれば良いんだろう?
やるからその前に水を飲ませてくれ」
私は上着のポケットに無造作に突っ込んであったお茶のペットボトルを手にして飲む。
それから返事を返す。
「水だって? お前は子供を車の中に放置する前に水を与えたか?」
「え? ウ……」
「与えて無いだろう? それなのにお前だけに水を与えたら立証する事ができないじゃないか、だからやらん」
「チクショー、覚えてろ!」
「お前が生きていたら思い出してやるよ。
ああそうだ言い忘れていた、立証実験中に雨が降ったりしたら立証にならなくなるから、お前がどのような状態でも立証実験が中断され後日最初からやり直しになるから。
じゃ頑張ってくれ」
私はワゴン車のスライドドアを閉めて鍵をかけた。
私と男のやりとりを黙って見ていた同僚が、鍵がかけられた時刻を立証実験開始時間として書類に書き込む。
車の中から私たちに向けて罵声を浴びせている男を見ている私の耳に、隣の立証実験場から車が人を跳ね飛ばす音が聞こえていた。




