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二者択一法……死刑


「被告は二者択一法。


死刑と仮釈放の無い終身刑の何方か1つを、弁護士と協議の上で被告自身が選ぶように。


被告が選ぶまで休廷とします」


国選弁護士が来るのを独房で待っていたら通路の先からその弁護士が近寄って来るのが見えた。


弁護士に声をかける。


「弁護士さん、死刑と終身刑を選べるのなら、終身刑でお願いします」


「ちょ、ちょっと待ってください!


今説明しますからそれを聞いてから選んでください。


二者択一法というのは、十数年程前から国の死刑制度に対して諸外国とくにヨーロッパの国々や、国内の死刑反対論者から死刑制度を廃止するように圧力がかかっていました。


それに対して国民の大多数からは、作今の凶悪犯罪に対応する為には死刑もやむなしの声が上がっている事もあって、はいそうですかと言って廃止する訳にもいかない。


その死刑反対賛成の2つに板挟みになった政府が出した妥協案が、此の二者択一法なのです。


死刑か終身刑を裁かれる被告人自身に選ばせるという考えですね。


たとえ死刑の判決が下されても、被告人自身が選んだ刑なのだから第三者が異論を挟むことは出来ませんから」


弁護士は此処まで話したあと周りを見渡してから小声で話しを続けた。


「此処からはあまり大きな声で話せない事をお話しします。


私の裁判官や刑務官になった友人たちに聞いた事なので、判断はご自分でしてください。


この二者択一法は一見人道的に見えます。


建前上は死ぬ事で謝罪したいと思った者は死刑を、寿命で死ぬまでの時間を謝罪に充てたいと思った者は終身刑を選びます。


ですから当然だと思いますが殆どの方が終身刑を選びます、終身刑だと裁判官としても死刑判決より気が楽な事もあって、あなたのように一審から二者択一法が下される例が増えてます。


それでここからが本題になりますが、終身刑を選んだからといって長生き出来るとは限らないのです。


寧ろ死ぬまでに受ける苦痛は、死刑を選べば良かったと悔やむ程だそうです。」


「どういう事だ?」


「理由は国に金が無いからです。


あなたには被害者の遺族に渡される賠償金、被害者がこれからも国に支払う筈であった税金や年金、あなたが犯した罪に対する罰金、私に支払われる報酬を含んだ今回の裁判にかかった費用などが請求されていると思います。


請求された金額はあなたの資産を全て差し押さえても足りない額です。


終身刑を選び刑務所に収監されると此等の請求金にプラスして、あなたが刑務所で生活していく上で必要になる衣食住の費用が先払いで請求されるのです。


資産を全て差し押さえられているあなたには、此等の支払いは不可能。


請求されたお金が支払われない限り、食事は与えられませんから、当然餓死する者も出てきます。


本人の資産を全て差し押さえても足り無い場合や、全く資産が無い場合もあります。


まぁあなたのように資産がある人の方が珍しいのですけどね。


それで本人の全資産を差し押さえても足りない場合、その被告の親族に請求が行きます。


此処で親族か支払いに応じた場合、先に賠償金や罰金などの請求額に足りなかった分が最初に差し引かれ、その支払いが終わってから本人の食事代などに回される事になります。


ですから親族がよほどのお金持ちじゃ無ければ支払いは不可能、だから殆どの親族は支払いを拒否します。


その結果、被告人は刑務所て餓死する事になるのです。」


「それじゃこんな法律いらないだろう!」


「はい、その通りです。


この二者択一法は被告人自身が何方かを選ぶ事が出来るので、一見人道的に見えます。


ですがこの法律の本来の目的は、国内外の死刑反対論者の目を欺く為のものなのです。


実際、終身刑を選ぶ方の方が多数派なので死刑に反対する国々や国内の反対論者の人たちに向けて、この法律が出来る前より死刑判決を半分以下に減らす事が出来たと公表してますからね。


それでどちらにしますか?」


「死刑だ! そんな事を聞かされたら死刑を選ぶに決まっているだろ、餓死なんて真っ平だ!」


「死刑を選択で宜しいですね?」


「あぁ……」


法廷に戻された俺に裁判官が刑を言い渡す。


「主文、被告を二者択一法の内の死刑に処す」


独房に戻された俺を4~5人の男達が待っていて、俺は首筋にチクと痛みがあったあと意識が途絶えた。


• • • • • 


ザァザァーという波の音が聞こえて来たように思い俺は目を開けた。


ボンヤリした頭を覚醒させる為に首を数度左右に振る。


左右に振ったあと前を向いた俺の目に、此方に向けて打ち寄せる波とその向こうに広がる海が映る。


『何だ? 此処何処だ? 何で俺は海を見ているんだ?』


と思いながら身体を動かそうとしたのに、動かない。


動かないながらも身体を揺すり左右や後ろに目を向けたら、砂浜に打ち込まれた杭に後ろ手で縛り付けられている事に気がつく。


手だけで無く両足も杭に縛られている、それも素っ裸で。


何でこんな目にあっているのか分からず、周囲を見渡している俺に気がついたらしく男が1人近寄って来た。


『あ! 此奴、独房の前にいた男たちの1人だ』


近づいて来た男が声を掛けてくる。


「よう、目が覚めたか?」


「此処は何処だ?」


「死刑場」


「死刑場だって? 死刑判決を受けた奴は拘置所に入れられるのでは?」


「昔はそうだったんだけどね。


今は国に金が無いって事もあって、死刑判決が下されたら直ぐに死刑が執り行われるのだよ」


俺は男の言葉に唖然としながらも聞いた。


「絞首刑の器具が無いけど?」


「ウーン、それな。


お前が裁判所で弁護士に聞いた話しは話半分なのだよ」


「え、どうゆう事だ?」


「被害者の遺族が賠償金を受け取った場合は、死刑方法は絞首刑なのだが。


遺族が受け取らなかった場合。


今回はそれにあたるのだけど、遺族が望む死刑方法により刑が執行される。


これは賠償金を出さずに済んだ事により、国の損害が少なくなった事に対するお礼の意味がある。


それでだ。


今回、遺族の方たちが望んだ死刑方法は、お前が保険金を得る為に事故に見せかけて殺害した方法と同じ溺死を望んだって訳だ」


男はそう言いながら、他の男たちに手振りでビデオカメラの設置位置を指示している。


「本来なら遺族の方たちが立ち会う公開処刑なのだが、今回は海の中という事で録画という事になった。


弁護士に聞いていると思うけど、終身刑を選び独房で餓死したり狂い死にしたりする様子も録画されていて、刑務所内でだけど遺族の方たちに公開されているのだよ」


男はビデオカメラが指示した場所に設置指されると腕時計に目を落とす。


「良し、時間ピッタリだ! 」


男の声を聞いて周りで設置作業などを行っていた男たちが俺の前に整列した。


「安田隆、43歳の死刑執行を執り行います。


20○○年6月4日16時10分執行開始」


男は執行開始と言った後、また俺に声を掛けてくる。


「お前の頭が海の下になるまでに2時間程掛かるだろうから、くたばるまで被害者に謝罪していろ」


「ヒィィィー助けてくれー!」


男たちは悲鳴を上げ助けを求めるのを無視して俺の前から消え去る。


ザァザァァーと音を立てて打ち寄せている波は、目を覚ました時より俺に近づいて来ていた。










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