しけい
「主文、被告人をしけいと処す」
『あぁークソ、ガキを3匹ひき殺しただけなのに死刑だと?
上告しよっと』
俺は裁判所に連れてこられた時に入れられた独房で護送されるのを待っている。
独房のベッドに所在無げに座って護送されるのを待っている俺の前に弁護士が来た。
「弁護士さんよー、上告するから手続きしてくれよ」
「あなたは上告できません」
「え、何で?」
「今回のような裁判の場合被害者側は上告する事ができますが、あなたには上告する権利がありません」
「だから、 何で! ダヨ?」
「現行犯逮捕で犯人があなただと分かっている状況ですからね。
何度裁判を行っても結果は同じになるからです」
「薬を飲んで意識が朦朧していたんだから仕方ねえだろ」
「ええ、ですから、心神喪失による事故で情状酌量を求めたのですが認められませんでした」
「そんなー。
だいたいオメー俺の弁護士の癖に、なに他人事のように言ってんだよ?」
「それはですね。
公選弁護士として私はあなたの弁護士に専任されましたが、弁護士費用は全て国から支払われているからです。
あなたがお金持ちだと仮定して私費で弁護士を雇う事が出来たとしてもですね、最初に支払わされるのは被害者に対する賠償金。
次に、3人の被害者がこれから成人して国に納めるはずだった税金と年金。
三番目に今回の裁判に掛かった全費用。
最後に弁護士費用になります。
まあ、今回のような裁判だと全額前払いになりますがね。
でも私のような公選弁護士で食ってる新米ではなく、墨汁のような真っ黒でも真っ白にしてくれる弁護士が雇えますよ」
「地獄の沙汰も金次第かよ?」
「その通りです。
あ、迎えの方たちが来られたようです」
弁護士の言葉で俺は通路に目を向ける。
守衛に案内された、黒い背広姿の男が1人と体格の良いカーキ色の作業服を着た4人の男が立っていた。
「小笠原さん、刑が執行されるまであなたが起こしてしまった事を反省しながらお過ごしください。
では、失礼します」
弁護士はそう俺に告げ、男たちに会釈して守衛と共に独房の前から離れて行く。
作業服姿の男たちが独房の中に入って来る。
その中の1人が「小笠原智光、25歳」と俺の名前を事務的に読み上げた。
男たちは俺の返事を聞くことも無く、首筋に注射器を突き立て注射器の中身を首に注入する。
そこで俺の意識は途絶えた。
ガチャガチャという音が耳を打ち俺は意識を取り戻した。
身体を起こそうとしたけど腕が動かない。
身体を動かす事ができないので頭を左右に振り周りを見渡した。
俺はどうやら手術台のようなところに手足を拘束され寝かされているらしい。
頭を少し持ち上げ周りを見渡す。
数メートル程離れたところに背広姿の男と作業服の男が2人、それに手術着を着た医師らしい男女が数人いて何やら話しあっていた。
俺が頭を上げ自分たちの方を見ている事に気がついた作業服姿の男の1人が、その事を他の者に告げる。
「実験動物が目を覚ましました」
作業服の男の言葉を聞き背広姿の男が「それじゃ刑の執行を行いましょう」と言いながら近寄って来た。
「オイ! どういう事だ? 実験動物ってなんだよ? 刑の執行ってどういう事だよ?」
「知らないのですか?」
背広姿の男は俺に逆に質問を返し、手術着を着た男女がいる方へ顔を向ける。
手術着を着た数人の男女の中の1番年嵩だと思われる初老の男が、顔を向けた背広姿の男に話し掛けた。
「ああ良いとも、先に説明してあげなさい。
その方がこの男も自分の犯した罪の大きさに気が付くだろうからね」
「ありがとうございます。
では、少し説明してあげよう。
国の借金が今幾らあるか知っていますか? 1000兆円以上です。
国はこれ以上借金を増やしたくない、それにもかかわらずあなたのような屑が罪を犯す。
それでもあなた自身や親族に金持ちがいれば、被害者の方達がこれから納めたであろう税金や年金、被害者の御家族に支払われる賠償金、それに今回の裁判費用が請求できます。
しかし残念な事にこのような犯罪を犯す屑はあなたのように一文無しの奴が多い。
それでですね、国としましては損害を少しでも回収する為にあなた自身から回収する事にしたのです。
どうせ死刑にするのならその身体で支払って頂こうという事になりましてね、動物や献体された遺体では出来ない手術を行いたいと思っているお医者様たちや、人間をリアルに拷問したい希望者などを対象にオークションを行うようになったのです。
それで今回、こちらの先生が落札されたのです」
「死刑確定者は拘置所に入れられるって聞いてるぞ!」
「そう、死刑確定者であれば拘置所などに拘留されます。
しかしあなたは、死刑確定者ではなく私刑確定者なのです。
だからこちらの執行所に連れて来られたのです」
「で、でも、なんで俺なんだよ?」
「分かりませんか?
現行犯逮捕の上、目撃者の10人が10人ともあなたが犯人だと証言しています。
だいたい、死にたい死刑になりたいという理由で薬を服用し車を運転したのはあなたご自身でしょ?」
「あの時は本当にそう思っていたんだよー。
助けてくれよー、許してくれよー」
「その言葉はあの世に行ってから被害者の方達に言うのだね。
あ、でも無理か、被害者の方達は天国お前は地獄だろうからな」
「あーそろそろ良いかね?」
先程の初老の男が背広姿の男に声をかける。
初老の男はそう言いながら、他の者たちに俺の方を見て手振りで指示をだす。
その指示に従い初老の男と同じ手術着を着た若い男が、手にしていた注射器を俺の身体に突き刺し注射器の中身を注入した。
「助けてくれー! 許しテ、シニタクナイ、タスケ……」
俺の声が小さくなって行き終いには声が出なくなる。
「え、これは?」
背広姿の男も俺の声の変化に戸惑い初老の男に問う。
「騒がしいのは嫌なのでね、声が出なくなるようにする薬剤」
別な薬剤を俺の身体に注入する若い男の方を見ながら話しを続ける。
「こっちは心臓麻痺にならないようにする薬。
執刀を開始した途端に死なれたら大損だからね、ハハハハハハハハ」
初老の男は笑いながら、声が出せなくなって初老の男の顔を凝視している俺の顔を覗き込み話しを続けた。
「あなたも災難だね、薬なんてやっていなければ痛い思いをしなくて済んだのに」
背広姿の男も初老の男と同じように俺の顔を覗き込み初老の男の続きを話す。
「そうだよ、薬をやっていない健康な身体だったら国の実入りは少ないが、臓器移植にまわされたのにな」
初老の男がまた俺に向かって話しを続ける。
「今日はね、私の弟子たちに緊急時に麻酔薬も手術器具も揃っていない状況での手術を行わせたいのだ。
偶々私用で出かけていた先で地震などの災害に遭遇し、目の前に緊急に手術しなければならない被災者がいた場合、何処まで治療できるか知りたいのだよ。
だから最後まで耐えてくれよ」
初老の男に続き背広姿の男が周りにいる者たちを見渡しながら話す。
「では、刑の執行を行います」
背広姿の男がそう宣言すると、作業服姿の男たちと手術着を着た医師たちが背広姿の男に視線を向ける。
「小笠原智光、25歳の私刑執行を執り行います。
20○○年10月20日10時20分、執行開始」
執行開始を告げた背広姿の男は作業服姿の男たちと共に手術着を着た医師たちに会釈しながら部屋から出ていった。
男たちが部屋から退出すると医師たちが手術台を取り囲む。
「それじゃ執刀を始めよう」
初老の男の言葉を聞いて果物ナイフを手にした若い医師が、声なき悲鳴を上げている俺の身体を切り裂いた。




