ああ、私がやりたかったことは
今から思えば、私は昔から人間関係を新たに形成するのが苦手だったのだろう。
小中学生時代は子供らしく無邪気だったからか、何となく浅い人間関係は築けていたが、
深くはなかった。彼、彼女らの名前や輪郭さえあやふやどころではない、全く覚えていないのだ。
高校は中高一貫だったために新たにそれを築く必要もなかったし、気にする必要もなかった。
しかし、大学は難しい。やはり私には難しかった。
大学に入る歳になると様々に考えることが増えた。
いや、これは考慮ではない。躊躇だ。
認めたくはないがーーー
「せんぱ〜いっ!今日もこんなところで何してるんすか〜?」
「あぁ、後輩くんか」
「もうっ、『あぁ、後輩くんか』じゃないですよっ!
僕にはちゃんと”つばさ”って名前があるんすよ?」
「そうか」
「『そうか』って、、、
もう〜、そんなんじゃ結婚相手も見つからないっすよ?」
「ふむ」
「なんだってんすか〜?
仕方ないですね〜、相手に困ったら僕に言ってくださいよ!」
「あぁ、考えとくよ」
「え〜?わかってんすか〜?つまりは、、、
あ、すみません、バイトっす!それじゃあ、また!
テスト前になったら、勉強一緒にやりましょうね〜!」
そう言って、こちらに手を振りながら走っていくのは後輩くんである。
後輩くんは、学校で唯一私に話しかけてくる人間である。
そう、つまりは後輩くん以外に話す人間がいないのだ。
しかも、友達ではない。つまりは、、、
まぁ、あまり気にしていないことだ。仕方ないことなのだ。
しかし、後輩くんはなぜ私に声をかけてくるのだろう。
後輩くんならもっと他に話を聞いてくれる人はいるだろうに。
そういえば私もレポートを書かなければいけないのだ。
早く家に帰ろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[ーーーにて、立てこもり事件が発生しました]
[犯人は猟銃を持っており、人質がーーー]
はぁ、しかし物騒になったものだ。
何が彼をそうさせたんだろうか。
いや、彼と決まったわけではないが、しかし、猟銃と聞くと男を想像してしまうな。
いかん、いかん、男女平等主義者さんに怒られてしまうな。
ふふふ、ブラックジョークというやつだ。違うかもしれない、、、
しかし、彼は勇気があるな。私なら手段を持っていたとしてもそうはできないだろう。
いや、一般的にはしてはいけないのだから『しないだろう』という言葉の方が適切なのかもしれないが
私はそうではない気がするのだ。
日本人というものは世間体を重視する傾向にあると思う。
それを無視するのだから、よほどの何かがあったのだろう。
勇気があるのだ、彼には。
私は何をしているのだろう。
いや、私は相当恵まれているのだろう。
しかし、私は何も成していない。いや、成せない。
小中高と平均的な成績で大学もそこそこである。
恵まれている。恵まれているのだが、平凡なのだ。
面白みがない。私の人生は楽しくない。勇気がない。
そうだ、おそらく、私には勇気がないのだろう。
友達も、バイトも、学業も、人生も勇気があれば、
あと一歩踏み出せれば何か変わったのかもしれない。
あぁ、今日も明日も一ヶ月後も来年も
ずっとずっと、何も変わらない、無味乾燥の
しょうもない人生を歩んでいくのだろう。
なんだろう、私は何をしたいんだろう。
何をしたかったんだ。何をなすのだ。
何も成せないではないか。あぁ、意味などないのだ。
世間は一人のことなど気にしない。
立てこもりのように何かを『成す』人間に注目するし
最近ニュースを賑わせる何かを『成した』人物に話題を寄せる。
それは数字が取れるからだとかみんなと会話があるからだとか
いろんな理由はあるのかもしれないが、それは一個人への注目ではないのだ。
ただ、数字を見てるだけなのだ。
ならば、私は最初で最後の勇気を出そう。
いや、勇気を出さなければならない。
私は、何かを成したいのだ、母にも父にも祖母にも祖父にも、
『この子は何かをなす』と言われたこの私が何も成せないで
このまま社会の歯車となるなんて認められない、認めたくない。
そんな自分を認められない。
さぁ、勇気を出そう。
[昨夜未明、アパート内で一人の遺体が見つかりました]
[警察は自殺だとして、事件性はないとーーー]
あぁ、そうだ。やはり数字なのだ。
ん?どうしたのだ。後輩くん、なぜ泣いているのだい?
『なんで!なんでっすか!?、、、
それなら、もっと早く!
勇気を出せばよかった、、、』
あぁ、そうか
後輩くんは、、、
『好きだったのに、、、』/ 死にたかったんだな
視野が狭いねぇ?偏屈な考え方だぁ、、、
よかったね、後輩くん