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05

 対戦が始まると同時にクリスティアンは両手を体の前で組み、頭の上に振り上げた。その手に紫色の光が宿ったと同時に前に振り下ろす。すると紫光は球状となって手から放たれ俺にまっすぐ向かってきた。


 そんなバカなと思うかもしれないが、このような力を使うことはこの世界では当たり前だ。人体の内に流れるエネルギーだそうだ。俺は“プネウマ”と呼んでいるが、流派によっては“ソウル”や“チャクラ”、“気”などと呼ばれている。

 前世のゲーム世界にあったものだからか、この世界にも当然にあるらしい。さすが神はなんでもありだ。


 こういったことがなぜ可能なのか、“プネウマ”の正体はなんなのかは誰も知らない。科学的な解明もできていない。俺は神がそのようにこの世界を作ったからだと知っているが、他のみんなも別段気にする様子もない。不思議とは思っても、水や空気みたいにあるもんはあるんだからしょうがない。そういうことだろう。


 俺もお返しにと、両方の手首の内側を合わせた状態で花が開くように指を軽く広げ、それを前に突き出す。するとその手の花びらのツボミの辺りに青い“プネウマ”が発生し、勢いよく前方に飛んでいった。

 俺の修める魔島(まじま)流奥義の一つ、魔導砲(まどうほう)である。両者の放った二つの“プネウマ”はちょうど二人の中間で衝突し、互いに風船が破裂するように弾けて消えた。


「さすがにこの程度はできるか」


 クリスティアンは不敵に右側の口角を上げた。まるでハグを求めるかのように両手を軽く広げた状態でこちらに向かってくる。


 何か来る!


 相手の技が分からぬ以上、下手に動くことはできない。俺はガードを固めた。すると奴は弾丸のような勢いで右肩から突っ込んできた。ガードを固めダメージは抑えたものの、少し後ろにずり下がってしまうほどの威力だ。

 さらにガードの上からでもお構いなしにパンチやキックを浴びせてくる。一発、一発が重い。鉄の棒か何かで殴られているようだ。


「がんばれ! 龍拳!」


 蘭玲(ランレイ)の応援は対戦フィールドには届かないものの、口の動きから何を言っているかは分かる。

 そんな余計なことを考えられるくらいには、俺も冷静さを保っている。奴が大ぶりの右フックを繰り出した隙を見逃さなかった。しゃがんだ状態でガードすると、右足の軽い蹴りを相手のスネに叩きつける。さらに突きをつなげようとしたのだが、それはガードされてしまった。


「そんなもの、大したダメージにならんぞ?」


 奴の言う通りだ。こちらからも仕掛ける必要がある。ならばと俺はジャンプで大きく前方に飛ぶと相手の頭めがけ強い蹴りを放った。


「そいつぁ、悪手だったな。俺のエナジーボールはこういう使い方もできる」


 奴はさっきの紫の“プネウマ”――エナジーボールというらしい――を斜め上に向かって放った。すでに蹴りの態勢にあった俺はガードすることもできず、モロに食らってしまう。


「グッ!」


 システムにより痛みを感じることは無いのだが、こういうときどうしても反射的に声がでてしまう。

 地面に叩きつけられた俺に向かって奴も飛び上がり、膝から急降下してきた。なんとかガードが間に合ったが、またもやパンチやキックの雨あられが降り注ぐ。


 こいつ、強い。

 少なくとも俺が今まで見た中で一番だ。本気の師匠とやったらどちらが強いだろうか?

 悔しいかな、今の俺では勝てそうもないとこの時点で悟ってしまった。


「守りは固いようだが、これはどうだ?」


 奴はそう言うと、全身から紫の“プネウマ”を放出した。しかし、それだけで特に攻撃が飛んでこない。

 何をした?


「龍拳! 後ろ!」


 蘭玲(ランレイ)の言葉を受け、俺は素早く後ろを振り返った。するとそこには空中で静止する、楕円の鏡のような“プネウマ”があった。


「オラァ!」


 あれは何だ? どうやって背後に? と考えている俺の隙を突き、奴は地面をこするほどの低空からのアッパーカットを撃ってきた。それを食らい、大きく飛ばされた俺は背中から“プネウマ”鏡に突っ込む。すると、電気が走るような衝撃とともに“プネウマ”鏡からのダメージが来る。さらに浮かされた俺は奴から追撃を受けてしまう。こちらの硬直時間を使いガードする暇も与えず流れるように連続攻撃を入れる、いわゆるコンボというやつだ。



 ひと仕事終えた、というようにクリスティアンは両手を叩く。乾いた音が道場に響いた。


「ふーん、見込みはありそうだが、こんなもんか」


 完敗だった。手も足も出ないとはこういうことだろう。悔しさと情けなさで目の奥にじんわりと熱いものが発生した。俺はそれが外にでないよう、懸命にこらえた。

 師匠は俺をかばうように、クリスティアンとの間に入った。


「満足したか? 今はお前が強くとも、この三人が至頂戦(しちょうせん)に挑むまで二年もある。首を洗って待っとれ」

「フハハ! 楽しみにしておきますよ。龍拳よ。この程度じゃ俺様はもちろん、現至頂には到底、勝てんぞ? せいぜい励むんだな」


 高笑いしながらエレベーターへ向かう奴の背中を、俺はにらみつけるしかできなかった。

 至頂はあれ以上の強さだってのか?


 だが俺は悲観はしていない。時間はあと二年もある。

 そして俺にはまだ隠し持った秘策があるのだ。こんなところですべて見せるとでも思ったのか?

 二年後を楽しみにしてやがれ!


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