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02

 結局、俺は対戦を申し込まれ続け、師匠の道場についたときには約束の時間を大幅にすぎてしまっていた。

 大げさではなく一歩歩く度に対戦相手がくる、そんな状況だったのだ。それを楽しんでしまった俺も悪いが、この街もどうかしている。


 いきなり雷を落とされることも覚悟で道場の門を叩いた。門と言っても雑居ビルの鉄製のドアなんだけどな。木製の看板が掲げられていなければ、ここが道場だと分からないだろう。この三階のワンフロアが全部道場らしい。

 出迎えてくれたのは長い白髪を後ろで一つに縛ったじいさんだ。顔に深く刻まれたシワから見ても七十代以上だと思うが、190センチはあろうかという長身で背筋もピンと伸び岩のような筋肉も並外れて大きい。


「おお、階段から来たのか? エレベーターならすぐ入れたのに。ま、入ってくれ」


 俺のような若輩者がエレベーターなど使ったら怒られるのでは、と思って階段を使ったのだが、そういうことにはおおらかな人らしい。

 道場といっても思ったより近代的で、ロープの張ってあるリングに吊るされたサンドバック、筋トレに使うダンベルなどが見える。実家とは大違いだ。


「初めまして。これからお世話になります。魔島龍拳(まじまりゅうけん)と申します」

「うんうん、マリアちゃんから話は聞いているよ。ワシは劉発虎(ラウ・ハフー)だ。よろしく頼むぞ」


 母親を下の名前、しかも“ちゃん”付けで呼ばれるとなんだか薄気味悪い。母さんの師匠とは聞いてるが、それ以上の関係は無いだろうな?


「遅れてしまって申し訳けありませんでした。実は――」

「対戦を申し込まれたんだろ? そうなるだろうと思っていたよ。どのみち今日は外に出て、ここかどういう場所か知ってもらおうと思っていたからな、手間が省けたわ。で、どれだけ稼いできた?」


 なるほど、怒られる心配はなかったわけだ。

 師匠の言う、“稼ぐ”というのはバトルポイントというものだ。対戦を行い勝利することで得ることができるポイントである。このポイントを使って買い物もできる、この世界の経済に組み込まれたものだ。


「8,000BPほどです」

「ほう、半日でそこまで稼いできたか。どうだ、疲れたか?」

「いえ。まだまだ全然いけます」

「あっはっは! 頼もしいな!」


 俺のランクだと、一回の勝利で稼げるのは最大で500だ。途中から数えていなかったが、つまり俺は十六戦以上の対戦をしてきたってわけだ。普通なら疲労困憊(ひろうこんぱい)というところだろうが、この世界の“TAISENシステム”により、いくら対戦しても怪我もしないし、対戦ごとに体力も全快する。師匠の言う疲れたとは精神面のことである。


「では、軽く練習試合といこうか。かかってこい」


 練習試合では通常の対戦と違いバトルポイントを稼ぐことができない。それ以外は対戦とほぼ変わらない。俺も母さんと修行をしていたころはこればかりしていた。


 ※


 さすが母さんの師匠だ。その実力は対戦してみてすぐに分かった。

 今日初めて会ったばかりだというのに、こちらのやることをすべて見透かしてくるかのようだ。俺は反応速度には自信があったのだが、師匠はそれ以上のスピードで対応してくる。これは反応ではなく予測でしかありえないことだ。


「ふむ。十分な実力はあるようだ。オフィス街のリーマンたちでは相手にならんかったわけだ」


 師匠の道場はオフィス街を抜けた先にある。どういうルートで来るかは想定済みだったということだろう。


「はい。稼ぐにはいい相手でしたけどね」

「うむ。いずれランクが上がればそうもいかなくなるだろうが」

「もっと強い相手とはどこで戦えるのですか?」

「あっはっは。まぁそう()くな。今日は旅の疲れもあるだろうし、このあたりにしておこう。ちょうど他の弟子も来たようだしな」


 師匠が顎でしゃくる方にはエレベーターがあり、ちょうど三階でランプが止まっていた。薄緑色に塗られた鉄製の扉が開き、中にいた大男と小柄な少女が入ってくる。


「おっはー! おじいちゃん」

「おはようございます、師匠」

「おう! 二人ともこっちへ来てくれ。紹介しよう。今日からウチで面倒をみることになった魔島龍拳(まじまりゅうけん)だ」


 俺はできるだけ腹から声を出し、挨拶した。前世の中学生くらいまではこんな風に挨拶できなかったのだが、プロチームに入ってからオーナーやコーチに礼儀を叩き込まれたのだ。あのときは鬱陶しいと思っていたが、今となっては感謝しかない。


「おはつ! アタシは蘭玲(ランレイ)。おじいじゃんの孫だよ。よろしく!」


 軽いノリで自己紹介するのは俺と同い年くらいの女の子だ。一般的な女子高生くらいの身長、体格をしている。トレーニングのためか、派手な蛍光ピンクが眩しいジャージ姿をしている。


「俺はベアクロウ。よろしくたのむ」


 男の方はいかにも格闘技をやっているという風体で身長は2メートルはゆうにあるだろう。金髪の編み込みヘアとターコイズのような綺麗な水色の瞳が特徴的だ。


「さて、では今日は互いのことを知るためにもトレーニングは休みにしてメシでも食いに行くとするか!」

「イェーイ! おじいじゃんのおごりだよね?」蘭玲(ランレイ)は飛び跳ねて喜びを表現している。

「トレーニングなしか」ベアクロウは不満そうだが表情は真顔で感情は読み取れない。


 俺もちょうど腹が減ってきたのでメシはありがたかった。一体どんなもんを食わせてくれるのか。そう考えるだけで腹が情けない音を立てた。


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