X'day. ~Ⅱ~
「いい天気だな~」
12月の晴れた空を見上げて、三国一は呟いた。
クリスマスイブ。
町は華やかに彩られている。
その、西洋とも東洋ともとれぬ町並みの中を、少年は大きな買い物袋をいくつも提げて歩いていく。
しかし買い物袋の中身は七面鳥でもなければ、ケーキでもない。
鍋の材料と、蜜柑である。
なぜならば、
彼の家のクリスマスはとっくに終了しているからだった。
そう、今日午前6時40分に。
今日の夕食は助三郎と鍋だ。
商店街を抜け、家に続く坂道に出た。
陽は傾いて、辺りはゆっくりと黄色く赤く染まっていく。
月里町から草間町へ向けて繋がる道路。
もう少し行った先に大通りがあるせいか、人通りも車通りも少ない。
長い影が伸びる。
鮮やかなクリスマスの飾り付けとは反対の、物悲しい景色。
その景色の中を一人、寂し気に歩く美少年。
誰かが見たら、そう思ったかもしれない。
しかしとうの一は別段感傷に浸ってはいない。
いたってマイペースである。
でも・・・。
一は思う。
(プレゼントは欲しいなあ)
キリスト教徒ではない自分に、サンタさんがプレゼントをくれるのかは大いに疑問だったが、願い事はあった。
友達が欲しい。
一は別段まわりになじめないわけではない。
学校も好きだし、退治屋の仕事も好きだ。
ただ、なんというか、退治屋というのはどうにも厄介で、色々な家の確執みたいなものもあるし、どうしても言ってはいけないこともある。かといって退治屋ではない者にも、自分の特異能力なんかのことは詳しく話せない。巻き込んでしまうこともあるからだ。
だから。
(退治屋でも、一般の人でもない友達がいいな)
それはかなり難しい願い事だと自分でも思ったが、折角のクリスマスだから願っておくにこしたことはない。
一は立ち止まる。
夕焼けに近づく空に顔を向けた。
「退治屋でも、一般の人でもない友達がいいな!」
そう言った途端、ビニールの袋が破けた。
「あれっ?」
ごろごろと、転がっていく蜜柑。
3個。
すぐに辺りの気配を探る。
人はいなかった。
(大丈夫みたい)
蜜柑の先回りをするため、ほんの少し力を使う。
10メートルほどの距離を一足飛びに跳んだ。
その時一は、着地予定の場所に曲がり角があることを失念していた。
急に近づいてくる気配に気がついた時にはもう遅かった。
ごちっ。
「痛ッてエ!!」
曲がり角から不意に出てきたその人物は、一の体当たりをまともに食らって尻餅をついた。
「何だア!?」
驚いて素っ頓狂な声をあげる。
「ごめんね!」
一はすまなそうに少年を覗き込んだ。
「危ねえなあ・・・」
赤い髪の少年は一に何かを言おうとして言葉を止めると、ふいに右腕をアスファルトに伸ばした。
「これ拾おうとしたのか」
その手には小さな蜜柑が3つのっていた。
「うん」
一は答える。
「ふぅん」
ほらよ、と少年は蜜柑を一に渡した。
土ぼこりを払いながら立ち上がる。背が高かった。
「あの、ありがとう」
一は礼を言った。
「今度蜜柑を拾うときは気をつけんだな」
跳びすぎないように。少年はにやりと笑って手を挙げた。
「んじゃな」
ゆったりとした動作で一のやって来た坂をのぼっていく。
「ねえ!君、退治屋?」
退治屋特有の気配はなかったが、一は躊躇せずに聞いた。
少年は振り返る。
「違げーよ」
そして不敵に笑う。
「黒羽蓉っていうんだ」
聞いたことのない名前だった。
「ボク、三国一」
言う必要はなかったのかもしれないが、なんとなく覚えてもらいたくて一は自分の名前を言った。
「ハジメね。覚えとくよ」
目を細めて、蓉は一を見た。
じゃあな。
もう一度手を挙げて、蓉は月里町の方向へ向けて歩き出す。
一はその背中を見えなくなってしまうまで見送った。
それからおもむろに蜜柑の袋を結わいた。
なぜか、うれしい気持ちになった。
一はもう一度、空を見上げた。
Merry Christmas.
end.
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words.
三国一
助三郎
黒羽蓉