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X'day.  作者: るーく
2/2

X'day. ~Ⅱ~

「いい天気だな~」

12月の晴れた空を見上げて、三国一は呟いた。

クリスマスイブ。

町は華やかに彩られている。

その、西洋とも東洋ともとれぬ町並みの中を、少年は大きな買い物袋をいくつも提げて歩いていく。

しかし買い物袋の中身は七面鳥でもなければ、ケーキでもない。

鍋の材料と、蜜柑である。


なぜならば、


彼の家のクリスマスはとっくに終了しているからだった。


そう、今日午前6時40分に。


今日の夕食は助三郎と鍋だ。

商店街を抜け、家に続く坂道に出た。

陽は傾いて、辺りはゆっくりと黄色く赤く染まっていく。

月里町から草間町へ向けて繋がる道路。

もう少し行った先に大通りがあるせいか、人通りも車通りも少ない。


長い影が伸びる。


鮮やかなクリスマスの飾り付けとは反対の、物悲しい景色。


その景色の中を一人、寂し気に歩く美少年。


誰かが見たら、そう思ったかもしれない。


しかしとうの一は別段感傷に浸ってはいない。


いたってマイペースである。


でも・・・。


一は思う。


(プレゼントは欲しいなあ)


キリスト教徒ではない自分に、サンタさんがプレゼントをくれるのかは大いに疑問だったが、願い事はあった。



友達が欲しい。



一は別段まわりになじめないわけではない。

学校も好きだし、退治屋の仕事も好きだ。

ただ、なんというか、退治屋というのはどうにも厄介で、色々な家の確執みたいなものもあるし、どうしても言ってはいけないこともある。かといって退治屋ではない者にも、自分の特異能力なんかのことは詳しく話せない。巻き込んでしまうこともあるからだ。


だから。


(退治屋でも、一般の人でもない友達がいいな)


それはかなり難しい願い事だと自分でも思ったが、折角のクリスマスだから願っておくにこしたことはない。


一は立ち止まる。


夕焼けに近づく空に顔を向けた。



「退治屋でも、一般の人でもない友達がいいな!」



そう言った途端、ビニールの袋が破けた。

「あれっ?」

ごろごろと、転がっていく蜜柑。

3個。

すぐに辺りの気配を探る。

人はいなかった。

(大丈夫みたい)

蜜柑の先回りをするため、ほんの少し力を使う。

10メートルほどの距離を一足飛びに跳んだ。


その時一は、着地予定の場所に曲がり角があることを失念していた。

急に近づいてくる気配に気がついた時にはもう遅かった。


ごちっ。


「痛ッてエ!!」

曲がり角から不意に出てきたその人物は、一の体当たりをまともに食らって尻餅をついた。

「何だア!?」

驚いて素っ頓狂な声をあげる。

「ごめんね!」

一はすまなそうに少年を覗き込んだ。

「危ねえなあ・・・」

赤い髪の少年は一に何かを言おうとして言葉を止めると、ふいに右腕をアスファルトに伸ばした。

「これ拾おうとしたのか」

その手には小さな蜜柑が3つのっていた。

「うん」

一は答える。

「ふぅん」

ほらよ、と少年は蜜柑を一に渡した。

土ぼこりを払いながら立ち上がる。背が高かった。

「あの、ありがとう」

一は礼を言った。

「今度蜜柑を拾うときは気をつけんだな」

跳びすぎないように。少年はにやりと笑って手を挙げた。

「んじゃな」

ゆったりとした動作で一のやって来た坂をのぼっていく。

「ねえ!君、退治屋?」

退治屋特有の気配はなかったが、一は躊躇せずに聞いた。

少年は振り返る。

「違げーよ」

そして不敵に笑う。

「黒羽蓉っていうんだ」

聞いたことのない名前だった。

「ボク、三国一」

言う必要はなかったのかもしれないが、なんとなく覚えてもらいたくて一は自分の名前を言った。

「ハジメね。覚えとくよ」

目を細めて、蓉は一を見た。


じゃあな。


もう一度手を挙げて、蓉は月里町の方向へ向けて歩き出す。

一はその背中を見えなくなってしまうまで見送った。


それからおもむろに蜜柑の袋を結わいた。


なぜか、うれしい気持ちになった。


一はもう一度、空を見上げた。


Merry Christmas.


end.




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

words.

三国一みつくにはじめ

助三郎すけさぶろう

黒羽蓉くろばねよう

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