第九話 天使
「んん…ここは…?」
「やっと起きましたか、ここは宿屋ですよ、それとミズキ貴方は二日寝ていましたからね」
「え?二日?」
「えぇ」
「マリンは?」
「とっくに起きて一人で修行をしていますよ」
「そっかぁ〜私ももっと頑張らないと!」
「えぇ、そうですね」
そして、修行から帰ってきたマリンと少し話し、ギルドに向かう事にした。
「すみませんリリィさん、何かいい依頼はありませんか?」
「そうですねぇ、悪魔に関する依頼なんてどうでしょう?」
「ほほう?いいでしょう、詳しく聞かせてもらえますか?」
「はい、何とも最近この周辺の村を襲っているらしいです、依頼主によると「とても人の手でどうにか出来るものではない」との事です、しかし、このまま放置する訳にはいかず依頼をしたのは賭けだったそうです」
「なるほど…わかりましたこの依頼は私一人で行います」
「え?!どういうこと?」
「うんうん、どういうこと?」
「個人的に興味があるのと少し嫌な予感がするので一人で行かせてもらいます」
「嫌な予感…?」
「と言っても、あくまで私の勘がそう言ってるだけです」
「そっか…わかった、アモンがそこまで警戒してるなら私達がどうこう出来る問題じゃないってことだね、マリンと二人で別の依頼を受けるよ」
「えぇ、話が早くて助かります、では、私はこれで」
「バイバーイ」
「さて、私達にピッタリな依頼を見繕ってくれませんか?」
「分かりました、少々お待ちください」
「にしても、どうしたんだろうね」
「さぁ〜?あのアモンが警戒するレベルだから終焉級だったりするんじゃないの?」
「さすがにそれはないでしょ」
「これがフラグにならないことを祈ろう」
「うん、そうだね」
「お待たせしました、狼王の討伐なんてどうでしょう?」
「その依頼にします」
ミズキは即決して狼王のいる森、魔狼の森へとやってきていた。
「それにしても不気味な雰囲気だね」
「う〜ん、でも雑魚ばかりじゃない?」
「そりゃあれだけアモンと修行してたら、そこら辺の魔物に負けるはずないよ」
「でも、油断はだめだよ?」
「わかってる、そろそろ来るよ!」
「ワオオオオオオオオォォォォォン」
「狼王さんのお出ましだね」
二人は構えた。取り巻き達と現れた狼王はランクで言うと零等級だった。しかし、それは二人にとっては赤子同然だったのだ。ミズキの魔法によって全身が焼かれ、マリンの双剣で体を切り刻まれていた。
「やっぱり手応えないね」
「うん、でも上には上がいるってことを知っているからもっと頑張らないとね!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アモンは近隣の村を見て回っていた。しかし、その全てが血で赤く染まった廃村だったのだ。そしてようやく被害の出ていない村を見つけた。
「どうやら次の標的はここのようだね」
その村は警備を頑丈にしており、悪魔襲撃に備えているのだろう。しかし、その全てが意味もなく蹂躙されるだろう。そして、門の前に傭兵が立っていた。
「何者だ?貴様は」
「冒険者のアモンと申します、中に入れてもらえますか?」
「アモン…か、等級は?」
「おや、ここら辺の人ではない様ですね、零等級です」
「零等級だと?そんな英雄がこんな所に来るわけがないだろう」
「では、こちらを」
アモンは異空間からカードを取り出した。それは冒険者なら誰でも持っている冒険者カードと呼ばれるものだった。
「お、お前、いや、貴方は本当に零等級なのですね…?」
「さっきからそう言っているでしょう?」
「す、すみません、どうぞこちらへ」
そう言って村長の元に案内された。
「いやはや、わざわざこんな所までよくぞお越しくださいました、それで何用ですかな?」
「悪魔討伐の依頼を受けましてね、それでここに立ち寄ったわけです」
「悪魔…ですか、いくら貴方様が零等級だろうと悪魔には到底敵いますまい、少なくともあの悪魔は絶級は容易いかと」
「なるほど、それでしたらなぜ逃げないのです?」
「逃げたとてワシらは殺されるのですよ、それなら抗って死んでやろうと言うことだけの事です」
「抗う暇も無いと思いますが?」
「例えそうだとしてもです」
「わかりました、この一件は私に任せてください」
「は…?悪魔相手にどうすると言うのです?」
「簡単ですよ、片手でねじ伏せるだけです」
そう言ってアモンは部屋を出た。取り残された村長はポカンと開いた口が塞がらないのであった。
「まさか絶級とはね、実際何の問題も無いんだけどどうしてもこの胸騒ぎがしてならないんだよな」
「アモンさん…ちょっといいですか?」
「っ!!貴方は…天使ですね?」
「はい…少し話したい事がありまして」
「はぁ…正体がバレた以上断る訳にはいきませんからね、わかりました」
アモン達は部屋に移動し、念のため防音結界と視覚妨害をかけておいていた。
「それで?話とは?」
「最近村を襲っている悪魔なのですが…あいつは化け物です、貴方からもそれなりの力は感じますがあいつの比ではありません、どうかこのまま引き返してください」
「少し不愉快ですね、貴方は天使でしょう?何故私を守るような発言をするのです?」
「貴方は悪いひとじゃ無い…からです」
「人…ですか、貴方は目の前のものを守ろうと必死になっている気がします、それも大事な事です、ですがここで私が引き返したらどうなりましょうか、村人どころか貴方まで死んでしまいますよ」
「それでもいいんです、私は何も守れなかった…!私も強くなったと思っていましたがあいつに全て奪われた、でも私じゃあいつには勝てない」
「私なら勝てます」
「嘘です!あいつには勝てません、死が確定しているのならば逃げるのではなくその運命を受け入れるしかありません」
「私は理不尽な運命でしたらねじ曲げますけどね」
「私にはそんな力はありません…」
「なら、今からでも力をつけていったらいいではないですか、もう二度と同じ過ちを犯さないために」
「そ、そうですね…ありがとうございます」
「いえいえ、では失礼します」
「はい、また後で〜!」