第十五話 終焉の黒竜
修行が終わりアモン達は王都へ戻ろうとしていた。すると、巨大で禍々しい気配が近づいてきているのに気がついた。
「これは間違いなく終焉級だな」
「え…?終焉級……?」
「香織ちゃん!しっかり!アモンがいるから大丈夫だよ!」
「これはまずいな。このまま放置してると王都どころか世界が滅亡するな。」
「そ…そんなに!?」
「ここで待っててくれ。ミズキとマリンはこの二人を守ってくれ」
「わかった!任せて!」
「了解した」
アモンはいかにも悪魔に生えていそうな翼を生やし飛んで行った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
気配のする方に飛んでいると大きな蒼い竜の姿が見えた。しかし、アモンは禍々しい気配の正体ではないと判断した。なぜなら、最強種族であろう竜がましてや古竜があんなに怯えた様子で飛んでくる筈がない。何か理由がある、そう結論付けたためだ。そして、蒼い竜が目の前に来たと同時に蒼竜はアモンの存在に気がついた。
「ひっ…殺さないで!お願い!なんでもするからぁぁ!!!」
「いったん落ち着け。お前をどうこうする気はない。」
「………本当?」
「あぁ。本当だ」
蒼竜から話を聞くと森の奥で昼寝をしていた時、禍々しい気配を感じ起きて周りを見てみると、一匹の黒い竜がこちらを見ていた。眠りを妨げられたことに腹が立ち、攻撃を仕掛けたところ反撃どころか防御もせずに攻撃を受けたらしい。しかし、その黒竜は無傷だった。なんとも禍々しいほどの闇をその身に宿しており近づくことさえ出来ず、殺されかけた。だからあんなに怯えていたらしい。
「で、その黒竜とやらは一体なんなんだ?」
「わからない。ただ、あれはもう竜などではない。竜の皮を被った正真正銘の化け物だ。」
「古竜にそこまで言わせるほどの強者。興味が湧いてきたな」
「あなた、正気?!相手は私でも勝てない化け物なのよ?確かにあなたは人間にしては強い方だけどあいつには絶対勝てない!」
「心配してくれるんだな。まぁお前は先に逃げてろよ」
「なっ…!別に心配してるんじゃないわよ!ハエが一匹死のうが私には関係ないんだから!」
「ほぅ…お前もツンデレか…それにしても喋り方が人間みたいだな」
「人間として生活してた時期もあったのよ」
「そうか、じゃあそろそろ言ってくるわ。早く逃げろよ」
「ちょっと待って。私も行く。いくらなんでも人間一人ではどうしようも無い」
「ハエが一匹死のうが関係ないんじゃなかったのか?」
「…う、うるさいわね!そんなことどうでもいいの!それより乗せていってあげるから背中に乗りなさい。それと私の名前はアクアよ」
「アモンだ」
アモンはアクアの背中に乗り黒竜の元へ向かっていった。そしてすぐにそれは姿を現した。黒竜の周りには竜巻が複数できており風も強くいわゆる嵐と共にこちらへ向かってきていた。アクアはその時恐怖で体が震えていた。なんでも黒竜はドス黒い闇のオーラを解き放ち、殺気も隠すことなく振りまいていた。
「無理はするなよ?俺に任せて逃る手もあるぞ」
「これぐらい大したことないわよ!」
「そうか。ならもう少し頑張ってくれ」
「おい…そこの蒼竜よ…我の邪魔はするなと言ったはずだが…?せっかくのチャンスを無駄にしたな」
「私はここであなたを止める!このまま放っておけば世界が滅んでしまう。それは困るのよねぇ…」
「ほぅ…一度負けている相手にもう一度挑むか…なんと愚かな竜よ…その体めちゃくちゃに引きちぎってくれる…」
終焉魔法〈終焉〉
アモンは黒竜の真上に転移し、終焉魔法を放った。しかし黒竜の纏う闇に飲み込まれてしまった。
「チッ…ただの闇ではないようだな」
「なんだ…?ハエ一匹増やしてなんになるというのだ…呆れるわ…ハエごと殺してくれる…」
終焉魔法〈黒雷の滅光〉
「ふん…何度やっても同じ事…まずはお前からだ…」
次の瞬間、アモンに向かって無数の闇が伸びてきた。アモンは魔法を当ててみるがやはり全て飲み込まれる。仕方なく全て避けていく。
「ちょこまかと…小賢しい…」
闇の動きが鋭くなり、アモンが避けた先に攻撃がくるようになっていた。しかし、それも簡単に交わしていく。そして闇に気を取られていたアモンは黒竜がブレスを放っている事に当たる直前まで気付かなかった。アモンは黒竜のブレスに飲み込まれた。
「ふん…所詮はハエよ…さて次はお前だ」
「クッ…何やってんのよあいつは」
「俺はまだ死んでねぇぞ?」
アモンの手には赤黒い刀が握られていた。明らかに異様な気配を放っている。この刀はアモンが魂に干渉し自分で作り出したものだった。言い換えればアモンの魂だった。そしてアモンは刀で空を切る。
〈弌の型 絶空〉
その瞬間、空を切ったはずの刀は黒竜の手を切っていた。
「……!我の肉体を切るか…厄介な技のようだな…しかし、発動までに時間がかかり過ぎている…見てから対処も可能だ…」
「何を勘違いしている?俺の技はまだ終わってないぞ?」
その瞬間、黒竜の体は空間が歪んだ様に千切れた。
「俺が切ったのはお前の体じゃなく、空間がそのものだ。手が切れたのは刀を振った時の衝撃波かなんかだろう」
「貴様…舐めた真似しよって…」
「回復しようとしても無駄だからな。さっきも言った様に空間そのものが切れてるんだ。それを直さねぇ限り、治らねぇよ」
アモンは黒竜の切断面に手を置き黒竜を焼き尽くした。その時、黒竜は憎悪に満ちた目をしていた。恐らく元々あいつは憎悪の塊だったのだろう。こうして無事に黒竜を倒す事ができたのであった。