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7.焦燥感に囚われたモノ達


「ルトリア。レドリゴスに送った者達からの連絡は来ているか」

 あの夜の翌朝、リオスはルトリアを呼び寄せ、信用の置ける、なるだけ竜種に遠い獣人を3、4人選ぶ様に指示を出した。

 ルトリアは晩のうちにリオスの体の変化、耐え難い焦燥感の正体を城に残されていた古書などから調べあげ、光の来訪者の事を突き止めた。

 レドリゴスの結界は、竜種に近い種族に良く効く。

 元々、この地上で最強の種である(ドラゴン)は、それ以外の種をあまり警戒していないからだ。

 だが、それは、竜種以外の者ならレドリゴスの領地に警戒される事なく出入りし易いと言う事になる。

「こちらから向かった者達は、国境に1番近いマリ村に着いたとの報告を今朝受けています。近日中にレドリゴス最大の街『リゴス』に入る予定です」

 ラドウェルはこの世界で1番の宝石の採掘量を誇る国だ。

 街で宝石を卸し、暫く滞在して、レドリゴスと光の来訪者の動向を調べようと言うのだ。


「順調に事は運んでいるようだな」

 どこか虚ろに返事を返すリオスは、内心では心を騒めかせる焦燥感を抑えるのに必死だ。

 最近、常に握り締めた拳を胸の辺りに当てている。

「……良い報告を待ちましょう」

 

 今のままでは、リオスはもたない。


 だが、リオスはラドウェル王国唯一の王であり、後継ぎはいない。

 (いにしえ)の竜の血をひくただ1人の跡継ぎとして育てられ、成年と同時に王位を継承したからだ。

 リオスの父と母は、どちらももう竜の姿は取れなかった。


 先祖返りか、竜の血が色濃く出て、リオスは寿命も先代より永らえていた。

 父王と王妃が寿命により亡くなってから、もう久しい。


 人に恋をし、血の契約を行わずに番った王が、純粋に竜と人との子を跡継ぎとした事が全ての間違いの始まりだったのだと、王家の中では語り継がれている。


 だが、そんな事はもう、どうにもならない事だった。


 ラドウェルには親戚の竜種もおらず、リオスはこの国ではただ1人の竜だった。

 リオスの他に、青い竜はいない。


 なかば諦め、言われるがままに国を治めてきた。

 王位を継ぐと同時に国土に繋がれ、国から出る事は簡単にはできなくなった。

 若い時には父王の名のもと、他の竜種の国に留学させて貰ったりもしたが、今は長期に国から離れる事が出来なくなった。


 そんなリオスにとって、光の来訪者は何者にも変え難い希望となり得るはずだ。


ーー陛下の為にも、来訪者を捕らえなければ。


 ルトリアは握り締めた拳にさらに力を込めた。




※※※




 政務そっちのけで苛立ちを周囲にぶつけまくっている緑竜のパスティエールは、飲みかけの酒の入ったグラスを力一杯壁に叩き付けた。

「レドリゴスめ‼︎」

 憎々し気に唸り、咆哮を上げる。

「陛下。どうぞ心をお鎮めください。ここ暫くこの執務室に酒の匂いが絶えた事がございません。どうか、いつもの陛下にお戻りになって……」

「竜種でないお前にはこの苛立ちは分かるまい。大人しく黙っておれ」

 ぴしゃりと言い放ち、パスティエールはドカドカと部屋の中を歩き回る。

 ゼノガは、諦めて窓を開けて室内の酒の匂いを逃がそうとした。

 その横を、いつの間にかミニマムサイズになったパスティエールがひょいと窓の外に躍り出た。

「パスティエール様‼︎」

『もう一度挑んでくる。あんなヒヨッコに負けるとは。どうも納得がいかん』

「そうおっしゃって、もう8回も退けられているではないですか。光の来訪者様の力がそれだけ強いと言う事なのでしょう。いい加減、違うアプローチを考えられた方が良いのでは」

『その様な事を悠長に考えられる状態では無いわ‼︎ あの気配が傍に無いと思うだけで気が狂いそうなのだ‼︎ 早く血の契約を結ばねば‼︎!』

 パタパタと飛んで行こうとするパスティエールを両手で捕まえて、ゼノガが言い募る。

「お待ち下さい。血の契約を結ばれるのであれば、せめて光の来訪者様が女性である事をご確認下さい。パスティエール様は未だ伴侶を迎えられていない身。もし光の来訪者様が男性であった場合、パスティエール様の伴侶は緑の竜種に限られる事になる恐れが。今、未婚で伴侶になり得る女竜が決して数多い訳ではない事を、ご存知無いわけではないでしょう?」

『レドリゴスが既に結んでいるのだ。女に決まっている』

「必ずしもそうとは分からないでしょう? 今のパスティエール様なら、光の来訪者様が男性でも血の契約を結んでしまいそうです。レドリゴス様もそうだった可能性が」

『ええい‼︎ うるさい‼︎!』

 パスティエールは緑の尾を振り下ろしてゼノガの手を振り払った。

『この焦燥感から逃れる為なら例え赤子とでも血の契約を結ぶわ‼︎ お前には絶対に分からぬ‼︎!』


 ひゅんっと、パスティエールが飛び去り、遠くの空で巨大化を図るのが見えた。

 本来の大きさになったパスティエールが空の彼方に消えるのは早かった。


ーーどうせまた追い返されて帰って来る。


 日が経つにつれて、パスティエールの苛立ちは酷くなっている。

 初めは何か策を練ろうと考えていたようだが、今ではあまり色々と考えられない程、心を乱されているらしい。


ーーあまり乱心する姿を見せるのは良くないのだが。


 それは、国民の不安を掻き立て、他国の興味をひいてしまう。

 既に、赤竜の竜種が今内部で荒れているらしいと各国に知られてしまっている。

 あれだけ派手に空中戦を繰り広げ、2日と空けずに闘いを披露していたら、それも当たり前の事だ。

 竜はとにかく大きく、それもその大きな竜種の中でも殊更強いレドリゴスとパスティエールが静かに寝静まる深夜に戦えば、大気が震え、ぶつかり合う音は大陸中に響き渡る程だ。

 事情を知らない国民は震え上がり、暫くは役所に戦争でも始まるのかと問い合わせが絶えなかった。

 漸く皆この状態にも慣れつつあるが。


ーー苛立ち紛れに放たれるパスティエール様の咆哮が……。


 戦う日は毎晩、国民の安眠を妨害していた。

 いくら説明しても、パスティエールには届かない。


ーーそれ程、光の来訪者様に惹かれていると言う事なのだろうが。


 パスティエールが実効性の高い方法を考えられない今、側近たる自分や将軍以下精鋭が、光の来訪者をこちらへ連れて来れる様に策を練る他無い。


 ゼノガは、取り敢えずはパスティエール抜きで策を練る事を決意し、信頼の置ける者達に連絡を取ることにした。

 パスティエールは事あるごとに「お前には分からない」というが。

「貴方こそ、連日政務を放り出され、安眠を妨害されている側近の心中は分からないでしょう」


 主君に落ち着いて仕事をさせる為なら、我々は何だって出来るのですよ。


 

 

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