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第四話:入学

 王都ミストリア――カング王国における最重要都市でもっとも人が行き交う場所でもある。その中央に位置するのは永久氷岩に囲まれたヒュベリア城。透き通った氷の岩を一部に建築されたそれはミストリアの象徴とされている。夜の明かりが少ないときに、オドによって氷が僅かながらに発光する光景は見る者の口を閉ざすのに足ると評されるほどの絶景だ。


 そんなヒュベリア城より少し離れた場所に広大な敷地を持つのがこれからカルディウスの通うミストリア魔法学院である。


 一学年が二千人ほど、三学年合わせて六千人強が在学する魔法学院の学生の大半はカング王国各地出身で、王国外から留学生がくることもある。当然、それに対応できるレベルの設備が必要なのだから敷地が王都の十分の一を占めるのは必然であった。さらに、魔法学院には各教員の研究室もあるために広くなってしまうのだ。


 魔法使いを目指すなら人なら多くの人が望む道であるミストリア魔法学院はその分、受験倍率が高い。他の騎士学院などで問題になる裏口入学はなく、すべての学院生が学力試験を経て入学することになっている。


 勿論、カルディウスたちは試験に合格して入学資格を得ている。試験は各地で行われるため、試験時には学院へ行く必要がなく、最寄りの会場で受けることになり、ほとんどの学院生は入学式に初めて学院の広さを実感することになる。


 閑話休題、転移から一晩明けた朝、カルディウスたちは入学式に出るために、ミストリア魔法学院の校門――敷地が広ければ、校門も大きい――の前に来ていた。


 同じように今回入学する学院生たちがカルディウスたちの横を通り抜けていく。


 その身に纏うのは学院の制服だ。男子は白を基調とした、軍服のような制服にフードが付いた白のローブを羽織っている。


 対して女子は男子と対照的に黒を基調としてる。動きやすいようにスカートは膝上、赤のカッターシャツと黒いブレザーの上から黒のローブを着るのが女子の制服である。


 両方に共通しているのは学年を表すバッジを襟元につけていることと軍服のような見た目である点だ。


「やっぱり大きいな」


 目の前にそびえ立つ巨大な校舎を見て、カルスがぽつりと呟く。ヒュベリア城と比べれば見た目に豪華さはないものの、王都の中で目立つ建物の一つであるそれはこの上ない存在感を放っていた。


「道に迷わないようにしないと」

「そうですね。纏まって移動するようにしましょう」

「じゃあ、早く行こ。入学式まであと少しだし」

「確かに、初日から遅れるなんてまずいもんな」


 カルディウスたちは他の人の流れに沿って校門へ入っていく。


 校門に入るときに確認されるのは受験票だけであった。受験のシステム的には日本のそれとほとんど変わらず、受験票によって受験生が管理されている。ただ一点だけ違うのは受験票には特定の魔力が込められている為に偽装が出来ないということだけだろうか。


 入学式は構内にある講堂で行われる。入る人数が多ければ当然、講堂も広大で、その広さはサッカーコート九つ分以上ある。


 そこに並べられた椅子にはすでに半分以上の人が座っていた。席は受験番号順になっていてカルディウスたちは連続している。


 彼らが座ってから十分ほど経ち、入学式が始まった。


 開会の挨拶から始まった入学式はとうとう最後の学院長祝辞となった。


 ミストリア魔法学院長の顔は一般的に知られておらず、今ここにいる人のほとんどははじめで見ることになる。そんな正体も分からない学院長だが、一般に知られている情報が一つだけある。それは現在のカング王国において最強の魔法使いであるということだ。曰く、魔力量は国民平均の数千倍である、曰く、属性適性は事象属性のうち雷と光を除いた六属性である、など公式に公開したのか定かではないものの、そんな噂が世間では常識として知られていた。


 仮にも学院長であり、巷で最強の魔法使いであると謳われる人物であるために、新入生たちは年老いたおじいさんやおばあさんであるだろと想像していた。


 しかし、その予想は全くもってかすりさえもしていなかった。


「ヴェッ!?」


 驚きのあまり、カルディウスの口から蛙を引き潰したような、おかしい声が飛び出す。音には出していないが、他の人も驚きに満ちた顔をしている。


 見開いた全ての目が視線を伸ばす先にいるのはカルディウスたちと同年代、つまりこの場にいる新入生と変わらない体躯の人物であった。


 腰の辺りまで伸びた銀色の髪は瑞々しく艶やかに輝き、大きく開かれた目はたくさんの光を吸い込み赤色(せきしょく)の瞳を宝石のように煌めかせている。さらに顔が整っていることも相まって同じような大きさのカルディウスたちよりも一、二歳ほど幼いと思わせるほどであった。だが、小さな身体には大きすぎるトンガリ帽子が彼女のことをれっきとした魔法使い――魔女であると物語っている。


彼女は演台の前へと進み、会場を見渡してから話を始めた。


「本日はお日柄も良く、このような日に我がカング王国立ミストリア魔法学院の入学式が行うことが出来、大変嬉しく思います。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今日をもって皆さんは本学院の学院生となりました」


 その容姿からは想像できない、凛と透き通った声が講堂の中を響き渡った。彼女の容姿に驚いていた人はすでにおらず、皆彼女の声に聞き入っている。


「さて、この魔法学院ですが、皆様ご存じの通り、魔法について学び、研究をしていく学校でございます。必要なことを自分で選び、履修していくことが大事です。しかし、十代前半の皆さんには難しいでしょう。安心してください。初めのうちはほとんどが受講必須の授業になっています。その中で得意なこと、不得意なこと。好きなこと、苦手なこと。興味がわいたことを今後の方針にしていただければと思います。短くはありますが、学院長祝辞とさせていただきます。ミストリア魔法学院学院長、リーナ・マクルト・ディ・シューベルス」


 一歩後ろに下がり、礼をした彼女――リーナはそのまま舞台を降りていく。


「これで式の全てを終わります。このあと、組み分け試験があるので係員の指示に従って退場してください」


 リーナの声に半ば放心状態であった会場の人々は司会の声によって現実へと引き戻された。


 式が終わり、少し騒がしくなったところで係員から組み分け試験の会場が知らされる。


 会場は全てで四つあり、この学院にある四つの実技演習場を使うことになっていた。実技演習場には中級の魔法までなら外部に飛び出さないように展開された結界があり、もしも実技の途中に魔法が暴走しても外への影響が出ないようになっている。


 運良く、カルディウスたちが試験を受ける実技演習場は同じ場所であった。


「では、受験番号の若い順に得意な魔法を引数(ひきすう)を与えずに発現してください」


 係員の指示に従って十人ずつ魔法を発現していく。


 ここで魔法について軽く説明しておこう。


 通常、魔法というのは『ユーザー、名前。マジックリポジトリ、アクセス』と詠唱することで発現する為の準備を行うようになっている。マジックリポジトリとはこの世に存在する魔法の術式をため込んだもののことである。


 魔法の術式――アカシックコード、は容量が大きく、到底人の脳に保存できるものではない。その瞬間はできたとしても生活していくうちに忘れるのは必至。では、人がどうやって魔法を発現しているのか。それは他でもない、マジックリポジトリのおかげである。


 人の脳の演算領域の一部を魔法演算領域とし、そこに術式のリンクを置いておき、魔法を発現する度にリンクを経由してマジックリポジトリにアクセスすれば人が消費するのは演算領域だけで記憶領域は一切必要としないのだ。


 威力や範囲といったその場その場で決定するのものは引数として設定することで変更できる仕組みになっている。当然のことながら引数を与えることによって使用する魔力が変動する。


 今回の試験は引数を与えず、魔法本来の姿で発現することで、魔力保有量がどのくらいかを計測するものである。


 計測機器は水晶のような物体で、触れた人の魔力残量の割合に従って中に液体を満たすようになっている。引数を与えない魔法の使用魔力量は分かっているので、魔法を発現したときに消費した割合を計算することで全体の魔力保有量を推定するというものである。


 しかしながら、カルディウスにとってこの方法は大変な作業になる。それは単にカルディウスの魔力保有量が多いために現状発現出来る下級魔法を一つ発現したところで観測できるほどの割合で消費されないからだ。


 取れる方法はたった一つ。魔法を一度にたくさん発現すれば良い。


 係員に許可を取ったカルディウスは一人で魔法の発現を始める。


「ユーザー、カルディウス。マジックレポジトリ、アクセス」


 浮かび上がるのは数十、数百を超える魔法陣。術式は統一されており、ファイア・ボールのものである。それらの術式は一つのみを発現する時と寸分違わぬ時間で合計千個の魔法の構築が完成された。


「ファイア・ボール」


 一度に放出された火の球は一直線に用意された的へ収束していき――瞬間、爆ぜた。


 大量のファイア・ボールによって生み出された衝撃波は一つのときと比べるまでもなく、強力で実技演習場の結界を震わせた。結界が展開されていなければ今頃、この実技演習場は灰と化していたかもしれない。


 衝撃波による土煙がある程度収まった頃合いを見て係員が計測機器に近づいた。


 その目に入ったのは驚きの光景。減った割合はほんの一メモリ程度、ほぼ無尽蔵という証拠だった。

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