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第一話:誕生

 人の形をした生命体は液体の中に浮く感覚で意識を取り戻す。幾度となく感じてきた羊水の感覚。繰り返してきたこの感覚にもうすぐ生命体は新しく生まれるのだと直感していた。


 まだ目を開けられないまま、頭が壁に押しつぶされる。


 今の生命体には痛覚など一切無いが、それを生もうとしている母親には激痛がはしっていることだろう。そのことに申し訳なく思いながら生命体は身体が全て外に出るのを待っていた。


 身体が外に出たときの状況で世界の大体のことは分かる。魔法があるかないか、科学があるかないか。魔法があれば外に出たときに魔法使いが待っていて、母親の傷みを止めているし、科学があればそれなりの設備が整っている。つまりこの二つでなければ進歩した文明がまだ確立できていない頃であると推測できる。


 そんなことを考えていた生命体が感じるのは久しく感じる目蓋を通した光。今まで直接もらっていた酸素が自分の気管を通り、肺に入って血液に流れ込む。同時に、それは泣き出した。数万年を生きた生命体が何故泣くのかと不思議に感じるかもしれないが、それが当然なのだ。いくら記憶が年を取っていたとしても、精神年齢は肉体年齢に引っ張られやすい。


 泣いたままうっすらと開けた赤ん坊の目に映り込むのは天蓋付きのベッドとそこに横たわる母親だ。母親の近くには魔法使いらしき人がいて傷みを飛ばす魔法をかけている。


 この世界は魔法があると確定した瞬間である。しかしながら、魔法が存在することはいいのだが、赤ん坊には目に映るこの光景はいやなものを連想させていた。辺りを見回すことでそれはさら現実味を帯びてくる。


 確実に病院ではなく、一つの家の一室であろうことは間違いない。そこまでは今まで何回もあったことだ。けれど、その一室の広さが問題であった。広さ十五畳を超え、一般庶民の家では有り得ないほとの広さ。さらに、ベッドの周りに侍女や執事が控えていることからよほど金があることが分かり、建物の内装から見て時代背景が分かる。


 そう、紛れもなく貴族の家だ。


 赤ん坊の記憶に残るのは貴族に生まれた子どもは魔法の才能が無ければ生き残ることが難しいということ。良ければ家に隠され、一生ニート。悪ければ魔法の才能が無いと判明したその時に殺される。魔法の検査があるのはまず生まれてすぐ。次に五歳、十歳と行い、十五歳の検査で確定することになっている。だが、大抵の場合は生まれてすぐの検査で決まる。才能さえあれば技能を伸ばすことが出来るが、才能は年齢によって増えたり減ったりすることは滅多にないからだ。


 そのことを思い出し、赤ん坊は焦っていた。赤ん坊の記憶には魔法の才能があった例しがない。


 ただ、赤ん坊が焦ったところでどうにもならないことは明白。処刑台に連れて行かれる気分でへその緒が切られた赤ん坊は母親の元へと運ばれた。


「奥様、元気な男の子でございます」


「ええ、良かったわ。あなたの名前はカルディウス。カルディウス・マクルト・ディ・ヴェインヘルンよ」


 初めて来た死の宣告のように告げられた名前から貴族であると言うことが確定する。国や世界によって貴族に付けられる前置詞は違うが、名前が長く、ミドルネームがあることには変わりないからだ。


 言葉は理解できる。右も左もわからない初めて来る世界、国ではない。しかしその事実が告げるのは赤ん坊に残る記憶通りのことがこれから行われるという現実だけ。


 通常ならば言葉を理解できるはずのない赤ん坊に話しかけた母親はそのままカルディウスとなったそれを侍女に渡した。これから始まるのはカルディウスが心配している魔法の検査である。検査の内容は至って簡単で、各属性の人工疑似精霊が宿された属性を象徴するものを対象者の周りにおき、検査用の詠唱をするだけ。


 これはある一定の魔力波動を捉えた人工疑似精霊を核として、空気中に存在する精霊が媒介にされた物体の特性を持って視覚化する性質を利用している。例として火属性であれば蝋燭に火を灯し、風属性であれば風車を回す。


 どの物体も変化がなければ無属性ということになる。つまりは魔法の適正なし。貴族にとっては生きる価値なしと認定されることがほとんどだろう。


 ともかく、今から行われるのはカルディウスにとって生死を分ける検査だ。今までの転生の中では一つの属性にも適性が無かったカルディウスは、これが死刑執行だとすでに感じ取っていた。


 ないものをねだるのは無用。早く転生をして新しい良い人生を送るための心構えをし始めていた。


 けれど、いくら死んできたといってもやはり死ぬ感覚は慣れるようなものでない。


 そしてそのときはやってきた。


 それぞれの頂点に媒介にする物体が設置された星型正十角形の魔法陣の中心にカルディウスが置かれる。


 準備が整ったことを確認した魔法使いは検査の詠唱を唱え始めた。


「火・水・氷・雷・風・土・闇・光・黒・白、ここに集いし(とお)の精霊よ、このものがそなたらの心を動かすに足るものか、もし少しでも心動かされたのならば証を動かし、いざ印を残さん」


 魔法陣の辺が光り輝き、物体とカルディウスの間が繋がれる。


 すると物体に変化が起きた。


 蝋燭に火が灯り、氷が溶けて水になり、水が凍って氷になる、などそこにある全ての物体において変化は起きていた。


 今ここに来ての全属性適性。どれほどこれを望んでいたことか。転生と言えば能力を持たされて当たり前。適性を持っていなかった今までの人生全てが報われるだろう。と、カルディウスは理解しがたい光景に唖然としながら考えていた。


 対して、冷静でいられなかったのは担当していた魔法使いの方である。全ての属性に適性があるなど前代未聞。歴史に残る限りでは最高でも四属性まで。自分の目の前で有り得ないことが起こった為にどうすればいいのか分からなくなっていた。


 とりあえず、家主に報告すべきだろうと、残り少ない思考力で考えた魔法使いは一目散に家主の元へと走って行く。


 残されたカルディウスは先程起こったことを頭の中で再生する。全ての物体が動いた光景。一つも止っていなかった光景。その出来事を吟味して――。


(うぉおおっしゃーー!)


 口には出せないために心の中で絶叫した。欲しくても欲しくても与えられることのなかった才能。それを今ここで与えられたのだから嬉しいのは当然だろう。


 そんな風にカルディウスが喜んでいる頃、ヴェインヘルン家の執務室ではカルディウス家当主とベッドに横たわった夫人、専属魔法使いの三人が集まっていた。


「それは真なのか? それよりもまずあり得るのか?」


 当主が魔法使いに問いただす。聞いているのはもちろん、カルディウスの魔法適性のことである。


「私も信じがたいですが、実際にこの目で見た以上はあり得るとしかいえません。今までの歴史の中で一人もおりませんでしたが」


 いたという記録がないからと言って絶対にいなかった訳ではない。魔法の適性とはある意味では学力のようなもの。理数系が得意な人がいれば、文学系の人だっているし、両方得意な人もいるように火属性に適性がある人がいれば、水属性に適性がある人もいる。全ての属性に適性があってもおかしいわけではない。


 理論上はたとえどんなに低い確率であっても全属性に適性がある人は生まれると結論付けられていた。そのために一時期は非人道的な実験が行われていたほどである。しかし、結果は言うまでもなく、失敗であった。


 つまり、カルディウスこそ研究者が望んだ最高の実験体であると言えるだろう。


「このことはあまり口外しないようにしましょう。別に隠す必要はないけれど、自分たちからわざわざ芽を渡す必要も無いでしょうし」


「ええ、そうですね。そうするべきでしょう。本来なら隠すべきですが、ばれたときの反動が大きくなるでしょうから」


 気付かれたらその人にだけ教えることで、一気に話が広がってしまうことを防げるはずであると、考えたのだ。夫人にとってカルディウスは自身の腹を痛めてまで産んだ子どもであるため、何が何でも研究者に渡したくないのは当然だと言える。


 すると問題として残るのはカルディウス本人のことである。複数の属性に適性がある子どもの特徴として、魔法の制御が最初はうまく行えないことが多い。もちろん、大人になれば一つにしか適正の人よりもうまく魔法の能力は高くなり、制御もうまく出来るようになるが、魔法を習い始めたときは暴走させることが多いのだ。普通の人が一つのことに集中しているにもかかわらず、複数のことに集中しなければならないのだから当然だと言えば当然である。


 暴走は発現者本人には何の影響がなくとも、周りにいる人に怪我をさせる可能性が高い。


「では、少し早いですが、六才から魔法を教えることにしましょう。二年もあればある程度の制御は出来るようになるはずです」


 この国に生まれた子どもは八才になると近くの学校と呼ばれるところに入学することになる。学校は貴族・平民関係無く、公平に入学することが出来る。そこで常識や魔法をある程度覚えたら就職や学院に進学などそれぞれの進路に進むことになるのだ。


 魔法の制御はその八才から十二才の間に練習することになるのだが、複属性ほどの才能であれば二年で制御が出来るようになるだろうという判断である。


「では申し訳ないが、よろしくお願いする」


 当主が魔法使いに向かって頭を下げた。


「はい、お任せ下さい。必ずご子息を立派な魔法使いに成長させるとここに誓います」


 頭を下げられた魔法使いは片膝を付いて礼をする。


 こうして、本人を除いた話し合いが終わり、カルディウスの歴史が今一歩動き出した。

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