表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/205

魔法車両で帰宅


「う…」

「あ、気がついた」



 うっすらと目を開けると、どこかの部屋のベッドだった。声が聞こえた気がして視線をずらすと、ユリウスの姿が目に入ってきた。



「えっ、ユリウス様!?」

「ああ、急に起き上がっちゃダメだよ。君、彼女に何か飲み物を持ってきてあげて」

「はい、畏まりました」



 側に控えていた侍女に告げると、侍女も丁寧にお辞儀をした。よく見るとユリウスはベッドの横に椅子を置き、腰をかけて本を読んでいたようだ。部屋の中には他にも侍女の姿があり、二人きりではないようだったが。



「あの…ちょっと、状況が飲み込めないんですが…」

「うん、イルナは訓練中に倒れてしまって、そこへ君に会いに行ったウィクトル殿下が居合わせたんだよ。血相変えてこの部屋に連れて来たんだけど、公務の合間に抜けてきたらしくって、僕が君を見ることになった」

「す、すみません!」

「謝らなくてもいいよ。おかげで僕もサボれたしね」



 カラカラと笑うユリウスを見てイルナもホッとする。そういえばユリウスに会うのは随分久しぶりだった事を思い出した。



「今さらですがお久しぶりです、ユリウス様」

「うん、久しぶりだね」



 ニッコリと爽やかに笑うユリウス様を見て、控えていた侍女の人達が何だか見惚れているように見える。そう言えばこの人、宮中で結構人気があるらしい。爽やかな好青年だとか。そんな事を考えていると、侍女の一人が紅茶をテーブルに用意してくれた。

 イルナはベッドから降りてソファに座り、侍女に礼を言う。すると侍女も少し驚いてはいたが、すぐにニッコリと微笑んでお辞儀をし、後ろに一歩下がった。



「そうだ。ウィクトル殿下がもうすぐこちらに来ると思うけど、待つ?」

「はい?」



 来てくれるのなら当然待つつもりだが、何故疑問系なのだろうか?不思議に思い首を傾げると、ユリウスが小さく吹き出した。



「いや、慌てて仕事終わらせて戻ってきたらイルナが帰った後だった、なんて笑えるじゃん。あいつのガッカリした顔とかめっちゃ見たい」

「ユリウス様…」



 そうだ、この人はそういう人だった。ウィクトルから聞いていたが、何気に人の事をからかうのが趣味だとかどうとか。けれどそんな意地の悪い趣味に合わせるつもりはないと言おうとしたその時、ドアを控えめにノックする音が聞こえた。その音を聞いてユリウスが小さく舌打ちしたのは聞き逃さなかったが、入ってきたのはウィクトルではなくてダフネだった。



「イルナ!もう大丈夫なんですか?」

「ダフネ様。すみません、訓練中に倒れるなんてご迷惑を…」

「いいえ!私が訓練内容を見謝ったせいですので、イルナは謝らないで」

「は、はい」



 ダフネは心底心配したらしく、倒れたと聞いた時には飛んできたらしい。その後眠っているイルナを王宮の侍女達に任せ、大急ぎで仕事を終わらせて来たとか。



「今日はもう帰りましょう。私の魔法車両でお送りします」

「えっ、いいんですか?」



 魔法車両に乗せてもらえると聞き、イルナが一瞬目を輝かせる。それを見逃さなかったユリウスは、ちょっと意地悪な顔で微笑んだ。



「いいなぁ、イルナ。魔法車両なんてそうそう乗れないもんね。じゃあ僕からウィクトル殿下にイルナが帰った事を伝えておいてあげるよ」

「あ」



 さっき見たいと言っていたウィクトルの悔しがる顔を思い浮かべているのだろうか。非常にわくわくした様子のユリウスにイルナも若干呆れた顔をする。けれどそんな二人の様子に気付かないダフネは、イルナを促すように手を取り立ち上がらせた。



「さあイルナ、行きましょう。ユリウスさん、後はよろしくお願いしますね」

「お任せください。イルナ、またね」

「う、うん」



 とてつもなくいい笑顔で見送るユリウスを横目に、スタスタと前を歩くダフネに付いていく。本音を言えば自分もウィクトルに会いたかったが、こんなに心配させてしまっているので、何となくダフネに言い出しにくくなっていた。

 そうこうしていると王宮の城門前まで来てしまい、結局ウィクトルの顔を見ることができなかったなと残念に思う。けれど視界に入ってきた魔法車両のお陰で、沈みかけた気分が一気に浮上した。



「さあ、乗りなさい」

「は、はいっ」



 おずおずと車に乗り込み、ふかふかの椅子に腰を下ろす。それを見てダフネは運転手に声をかけた。



「先にルーメン家へ向かってちょうだい」

「はい、奥様」



 運転手は頷くと、大きな魔石が嵌め込まれた取っ手のような物に手を置く。すると微かな振動と音と共に、魔法車両が動き出した。



「……!」



 流れる景色の早さに感動し、窓の外に釘付けになる。馬車のように車体が跳ねる事もなく、乗り心地もとてもいい。



「ふふっ、イルナは魔法車両に乗るのは初めてなのね」

「はいっ、一度乗ってみたかったので感激です!こんなに乗り心地がいいものなんですね」

「ええ。馬車と違って速度も運転手が調整しているから、これよりももっと早く移動する事ができますよ」

「そうなんですか!」



 これより早いだなんて、あの時乗ったドレイクのようだ。



「まるでドレイクに乗っているみたいです。とてもドキドキしますね」

「イルナはドレイクに乗った事があるのですか?」

「あ、はい。一度だけ」

「まあ…」



 どうやら魔法車両に乗る事よりも、ドレイクに乗った事がある方が驚きのようだった。

 それからあっという間に自宅につき、イルナはダフネに丁寧にお礼をし、家の中に入った。すると、執事のアダムがイルナに来客を告げた。



「来客?誰かしら」

「先日お嬢様とご一緒におられた、美しい方ですよ」

「あ、ひょっとしてキルスティ?」

「はい。応接室へ案内しておりますので、イルナお嬢様もそちらへどうぞ」

「ありがとう」



 キルスティが来ている。しばらく会えないとは伝えていたけど、どうしたんだろうか?連絡用にとコンチャを置いて行ってくれていたから、遠距離会話はできたのだけれど。

 そう思って応接室へ向かうと、そこには優雅にお茶を飲むキルスティと、何故か酷く不機嫌そうなウィクトルの姿があった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ