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東の森と迷子の王子様


 イルナとの約束の日、イエルハルドは第三部隊と共に東の森の討伐に出かけた。

 彼女から渡された紙には薬草の特徴が描かれている。

 意外と絵が上手いんだな、と思ったのは内緒にして、イエルハルドは部下と共に東の森に出発した。


 ただ、何故かその時イルナに渡された魔石らしき石が引っ掛かる。

 これは何なのかと尋ねたが、イルナは曖昧に笑いながら



「困った時に投げてください」



 とだけしか言わなかった。

 魔石なら魔道具の動力として使うのが普通だが、投げろとはどういう事なのか。

 良く分からないまま受け取り、イエルハルドは腰に下げている物入にそれを仕舞った。


 そしてしばらく進むと魔物が現れる。

 第三部隊の兵士達は危なげなく魔物を討伐し、昼を過ぎる頃にはある程度森の奥まで入って来ていた。



「おっ、アレは…」



 ふと視界の端に入って来た植物に視線を向ける。

 イルナが言っていた薬草で間違いなさそうだ。



「おい、あの植物を数本根っこから採取してくれ」

「わかりました」



 部下に指示をし、薬草を手に入れる。

 これでイルナも納得してくれるだろうと、イエルハルドも安心する。


 するとその時、森の奥から魔物の咆哮と人の声が聞こえて来た。

 一瞬にしてその場に緊張が走る。



「急いで声がした方へ行くぞ!」

「はっ!!」



 イエルハルドが指示を出すと、兵士達が走り出す。

 声のした方向へ向かうと、そこには巨大な熊のような魔物と対峙する二人の青年の姿があった。



「あれは…ブラッドグリズリーか…!」



 こんな場所に大型の魔物が現れた事にイエルハルドが驚愕するが、対峙している二人の青年は勇敢にもブラッドグリズリーに挑んでいる。



「くそっ!ユリウス無事か!?」

「大丈夫ですよ!」



 青年二人はお互いの無事を確認すると、左右に分かれる。

 ユリウスと呼ばれた青年が先にしかけ、魔物の気を引く。そしてその隙にもう一人の青年がすかさず魔物の急所めがけて剣を繰り出した。


 

 ガツン!!



 硬い音がして剣が弾かれる。

 そのまま後方へと滑るように押しのけられ、バランスを崩しそうになった。



「いかん!」



 イエルハルドが声を上げると同時に魔物が青年に鋭い爪を振りかざす。

 危ないと思った瞬間、イエルハルドはとっさにイルナから渡された魔石を魔物に投げつけた。



「グオォォォ!!!!」



 魔石をぶつけた途端にカッと光り、魔物を巻き込むように竜巻が起こる。

 そのまま空高く舞い上げられたかと思うと、地面に強く叩きつけられた。



「ガアッ!!!!」

「今だ!ウィクトル!!」

「わかってる!!」



 ウィクトルと呼ばれた青年が魔物にとどめを刺す。

 そのまま断末魔をあげ、絶命した。

 そして魔物の体がジュウゥゥと音を立てて蒸発し、魔物の核が残る。それを青年が拾い上げた。



「危なかった…」

「ああ…」



 青年二人はヨロッとふらつき、その場に座り込む。そしてイエルハルドの方へ視線を向けると、力なく微笑んだ。



「助かった…礼を言う…」

「本当にありがとうございます…」

「い、いや…」



 この二人は何者かとか、体は大丈夫なのかとか、聞きたいことは色々とある。

 が、イエルハルドの頭の中は先程魔物に投げつけた魔石の事でいっぱいだった。



(アレは何だ…?イルナは何故あんなものを持ってたんだ?)



 混乱しそうな頭を必死で落ち着かす。すると部下の一人が慌ててイエルハルドに進言した。



「閣下!お二人が…」

「何?」



 見ると疲れ果てたのか、二人の青年がそのまま倒れるように眠っていたのだった。




 ※※※





 気を失った青年二人をコンラード軍の兵士達が馬に乗せ、邸に隣接する軍の駐屯地へと運び込んだ。

 ベッドに寝かせて様子を見ていたが、しばらくするとムクリと起き上がった。



「ここは…」

「コンラード領だ」



 二人が起きたとの知らせを受け、イエルハルドが顔を出す。

 どこかで見たことがあるな、と思いながらも、二人を観察するように眺めた。

 すると二人がベッドから降りて姿勢を正し、丁寧なお辞儀をする。



「これは失礼しました。僕はネストーレ王国第二騎士団に所属しております、ユリウス・ローグと申します」

「ローグ…、では貴公はローグ伯爵のご子息か」

「はい」



 ローグ伯爵は第二騎士団の騎士団長を務める、大変真面目で腕の立つ人物だ。

 イエルハルドはユリウスの隣に立っている青年に視線を向けた。すると青年は少し気まずそうに視線を彷徨わせたが、意を決したように自分の名前を告げた。



「俺…いや、私は…ウィクトル・カーン・ネストーレだ。お初にお目にかかる、コンラード辺境伯」



 名前を告げられイエルハルドが目を瞠る。



「まさか…第二王子のウィクトル殿下でいらっしゃいますか?」

「…そうだ」



 驚きすぎて声が出ない。

 確かに目の前の青年は見たことがある。ただ記憶にあるのはもう少し幼かった頃だったので、すぐには結びつかなかった。



「な、何故あのような場所にお二人でいらっしゃったのですか?」

「それは…」



 ウィクトルが口籠る。

 とても言いにくそうにするウィクトルを見て、イエルハルドがハッとなって慌てだした。



「わ、私の可愛いドロテアは殿下には差し上げませんぞ!!!!」



 思いっきり見当違いな言葉を投げつけられ、ウィクトルとユリウスはポカンとする。周りに待機していたイエルハルドの部下達も、あちゃーと頭を抱えているようだ。



「あの…少し落ち着いてください」

「はっ!まさかドロテアだけでなくイルナまで!?いかんいかん!どちらも可愛い私の娘だ!!嫁に等出さーん!!!!」


「いえ、その、違いますって」

「確かに二人は可愛いが…て、え、違うのですか?」


「「違います」」



 二人が見事にハモる。

 それを聞いてイエルハルドがようやく落ち着きを取り戻し、とりあえず場所を移す事になった。

 第二王子を軍の駐屯地でもてなすわけにもいかない。

 イエルハルドは二人を邸へ案内し、ギュンターには部屋の用意をするよう命じた。



「申し訳ない、突然世話になってしまって」

「いえ、私も取り乱してしまいお恥ずかしい」



 イエルハルドが恥ずかしそうに頭をかく。確かにさっきの取り乱し方は恥ずかしいなと、ウィクトルは心の中で同意した。

 王子とユリウスを来客用の応接間へ案内し、席につくよう促す。

 人払いを済ませると、ようやく話をしてくれる事になった。



「助けていただいたのに申し訳ありません。ただ、今回ウィクトル殿下と僕は極秘の事情がありましたので、むやみに人前でお話する事ができず…」

「いえ、第二王子が直々に人目を忍んで行動されていれば、訳ありだとわかります。だが、私に話しても大丈夫なので?」

「ああ、大丈夫だ。コンラード辺境伯には近々王都から知らせが来るはずだ」



 イエルハルドの問い掛けにウィクトルも頷き、イエルハルドもそれを聞いて納得する。それを見てユリウスがゆっくりと静かに説明しだした。



「ウィクトル殿下は閣下も知っての通り、ネストーレ王国の守護神であられる聖竜の守護者です」

「そういえば2年前に聖竜から守護者の名を受けられたのでしたな」

「ええ。そしてその聖竜様からのご命令により、各地の竜に関する調査を頼まれました」

「各地の竜…?守護竜達の事ですか?」

「はい」



 ネストーレ王国のあるこのアクセリナ大陸には、聖竜の他にも国を守護している竜が存在する。

 それは国であったり人を寄せ付けない場所であったり様々だが、守護竜が健在であれば国が栄え作物は育ち、平和が続くと言われている。


 隣国のエミール王国も、砂漠に囲まれる国であるのにも関わらず、守護竜である水竜のお陰で水に困る事はないらしい。



「どうやら各地の竜力が弱まってるらしいのだ」



 ウィクトルの言葉にイエルハルドの目が瞠る。

 各地の竜達の力が弱まると言う事は、天変地異の前触れだと言われている。

 予想不能な大災害に見舞われたり、大干ばつが襲ったり、疫病が発生したりするのだ。


 過去にそういった事象が実際にあり、記述にも残されている。



「だから私達がその事実を調査し、原因の究明の為に王都を出たのだが…」



 ウィクトルはそこで言葉を詰まらせる。とても言いにくそうな表情に、イエルハルドが思わず息をのんだ。

 


「仲間とはぐれて迷ってました」



 と、大層真面目な顔でユリウスが暴露したのだった。






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