新しい魔法
「う~ん」
大量のスプリームポーションを前に、イルナが何やら唸っていた。それを不思議そうにキルスティが観察していると、その視線にイルナも気付く。目が合うとキルスティはニッコリと微笑んだ。
「何を悩んでるの?」
「うん、このスプリームポーションだけど、こんな沢山持って帰れるかなって思って」
言われた通り100個制作したのはいいが、全部持って帰るのは重すぎる。何せ水モノは重さがある上量が多い。けれど貴重な薬ではあるので、是非とも持って帰りたいのだが。
「一度に持てるのは20個が限界かなぁ」
「運ぶくらい手伝うよ?」
当然のように言ってくれるキルスティに嬉しくなり、イルナも微笑み返す。
「ありがとう。だけどやっぱり100個は多いし、お世話になってるからカジミールさんにいくつか渡そうと思って」
「いいの?エリクサーも作ってもらうつもりだから、気にしなくていいのに」
「いや、でもまだ作れるかどうかも分からないし…」
スプリームポーションの100個作成ミッションは無事に終わったが、まだ生命の木の樹液を取りに行っていない。一応在庫で失敗せずに作れれば、とりあえずはいいらしいが、ただ守護竜様達を復活させる為にどのくらいいるのか分からないので、そこら辺は探り探りになるとか。
「それはそうと、イルナ。あれ、マスターしたの?」
あれと言われ、イルナが敏感に反応する。そしてちょっと複雑な表情ながらも、ゆっくりと頷いた。
「い、一応…」
遠慮がちに答えると、キルスティの目が輝く。ガシッとイルナの手を掴むと、ぐいぐい引っ張り出した。
「じゃあ早速見せて!」
「わわっ!キルスティ、引っ張らないで~っ!」
キルスティに強引に引っ張られ、ついにはいつも魔法の訓練をしている森の入り口までたどり着く。そしてキルスティは少し離れた場所にちょこんと座り、期待を込めた目でこちらを見ていた。
イルナはしょうがないな、なんて思いながら苦笑をしつつ、覚悟を決める。そして大きく深呼吸してから表情を引き締め、真っ直ぐに森の方向へ視線を向けた。
イルナの視線の先に、ひょっこりと顔を出したのは野生のウサギだ。距離はかなり遠いがギリギリ目視できる距離にいる。
イルナはウサギに向かってスッと人差し指を指した。
『魔法印』
呪文を唱えると同時にイルナの指先が光り、ウサギに向かって発射される。そしてウサギの体にぶつかると、ウサギの体に淡く光る印が浮かび上がった。ウサギは何事も無かったように跳び跳ねているが、続けざまにイルナは呪文を唱える。
『捕縛』
今度はウサギに向かってではなく呪文を唱えたが、魔法はウサギの動きに合わせてうねりながら走り、ウサギの動きを封じた。
「…ふぅ、どう?」
イルナが息をついて振り返ると、キルスティはキラッキラの笑顔で手を叩いていた。
「すごいよイルナ!」
捕縛の呪文はキルスティでもかなり近くにいるモノに対してでないと、上手くかけられない。それをあの距離でやってのけたのは、実にすごい事だった。
「フフ、ありがとう。攻撃魔法でやりたいけど、ウサギさんがかわいそうだしね」
「え、でも食べればいいから狩っちゃえば?」
「う…、それもそうか…」
確かにウサギ肉の料理は何度も出されて食べている。イルナは少し考えつつも、諦めたように『捕縛』の魔法を解除した。
『解除』
呪文を唱えるとウサギが慌てたように跳び跳ねる。けれどさっきの印はまだ消えておらず、イルナは次の呪文を唱えた。
『風の刃』
魔法を放つと今度も逃げ惑うウサギを追うように風の刃が飛ぶ。そしてついには追い付き、ウサギを仕留めた。
「やっぱ成功だね!」
「う、うん」
複雑な気持ちになりつつも、キルスティとウサギを拾いに行く。拾いに行きながら、キルスティに質問された。
「それよりさっきは何で風の魔法を使ったの?」
「だってまだ無属性の攻撃魔法はちゃんと使えないし、あのくらいの魔法なら学園で習ってたから」
「練習なんだからやってみればいいのに」
「あはは…」
イルナがさっき使った魔法『魔法印』は、例の本を見ながら考えた、新しい魔法だ。
簡単に言えば自分が標的にしたモノに対して魔力で目印を付ける魔法だ。なので単体で放っても、相手には全く害はない。けれど一度標的として印をすると、その後どんな方向に魔法を放っても、印を付けられた標的に向かって魔法が追いかけるのだ。
つまり、間違って見当違いの方向へ魔法を撃ってしまっても、ちゃんと攻撃相手の所へ軌道修正されるという、便利な魔法と言う訳だ。
イルナがこの魔法を作ったのは、単に彼女が魔法を放つのが苦手だからだ。誤爆なんてしてしまったらどうしようとか、思ってた方向へ放てなかったらどうしようとか、そういう心配が頭を過るせいで、魔法を使うのが苦手になっていた。
そういう理由で魔法が苦手と言い、学園の授業でも実技は全くダメだったイルナだったが、前にキルスティが言っていた「本当にすごい魔法使いは、標的以外にはダメージを与えない」という言葉を参考に、この『魔法印』を編み出したらしい。
「イルナってある意味天才だよねぇ」
「え、まさか」
「だって、凄腕の魔法使いになるのはまだまだ無理だからって理由で、こんな魔法作っちゃうんだもん。発想が面白いというか」
「いや、でもこれ、近くにいたら巻き添えはあるよ?ただ、必ず当てられるってだけだし」
「それだけでもすごいと思うけどねぇ」
そう言いながらキルスティがウサギを回収している。肩からかけていたバッグにウサギを入れ、立ち上がって服についた草を払っていた。
「まあ色々とまだまだ未熟だけど、スプリームポーションも沢山あるし、明日からエミール王国へ行ってもいいかな」
「え」
唐突にキルスティが告げる。エミール王国に行くと言う事は、生命の木の樹液を取りに行くという事だろう。
「確か在庫があるって言ってなかった?」
恐る恐る訪ねると、キルスティはニヤリと笑う。
「あるけど、イルナが帰るまで後10日程あるし、エミール王国なら転移のオルビスで行けるから、ちょっとだけ探索しようかなって。無理なら帰ってきて、在庫でエリクサー作ってもらうけど」
無理というか、エミール王国だって狭くない。どこに転移して、どこを探すつもりでいるのだろうか。普通に考えて無謀だ。しかもエミール王国の砂漠の果てと聞いていたし、砂漠越えの準備とかできるんだろうか?とか色々と不安すぎて仕方がないのだが。
「大丈夫だよ。ちゃんと仲間を連れて行くから、ある程度の場所まではすぐに行けるよ。誰かが行ったことあればオルビス使ったら一瞬だから!」
仲間と言われて一瞬ウィクトルの顔が浮かぶ。が、彼はここにいないし、呼ばないと決めている。慌てて首を振って頭から追い出す。
「わかったわ。どっちにしても、キルスティの言う通りにする」
「ありがとう、イルナ」
ふわりと嬉しそうに微笑まれ、イルナも苦笑を漏らす。
王都に帰るまで、まだ色々大変そうだ。




