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魔王になりたい男

 海の真ん中にポツリと存在する小さい島に、その男はいた。その島は魔物が多く棲んでおり、人間が住むには非常に危険な為、未開のまま放置されている場所で、別名が魔窟島と呼ばれていた。

 その島の奥深い場所に祠があり、そこから中に入ると壁一面に竜の壁画が描かれている空間がある。その奥に厳重に封印を施した扉があった。その封印はすでに解かれており、さらに奥にはかつて闇竜が封印されていた広い空間があった。


 その場所に一人の人間の男が竜と対面するように立っていた。魔術師ヴァルデマー・ヴィンセントだ。



「くそっ、ゲアトルース!一体いつになったら完全に復活するんだ!」

『まだだ。もっと力を集めろ。でないと完全に復活できん』

「お前に刺さっていた封魔の杖を抜き、他の守護竜達の力も奪った!聖竜と水竜は国が保護しているから近付けんが、呪術を使って少しずつ力を吸い取っている!お前は一体どれだけの力を欲するんだ!」

『仕方なかろう。かつての戦いで力を奪われ躰ごと封じられたのだ。杖を抜いたからと言ってすむ話ではない』



 平然と言ってのける闇竜にヴァルデマーもイラつきを隠せないらしく、不機嫌な顔をして舌打ちをしている。けれど目の前の竜を見れば完全に復活してるとは言えない。それは見ただけで分かる。こんな様子なら討伐隊が来れば勝てないだろう。

 何しろ今のゲアトルースの姿はかつての立派な闇竜ではなく、ミニドラゴン程の大きさしかないからだ。



『そもそもお主、勝手に集めた竜力を使っているであろう。儂が何も知らんと思うなよ』

「そ、それは…魔物達の教育の為だ!人間の言葉を教えたり、魔族の軍隊を作ったりしてると言っただろう!」

『ほう?聞いた所によればお主自分の事を()()と名乗っているそうだな。いつからお主が()()()()になったのだ?』

「いっ…いいだろう!私は魔王になるのが夢なんだっ!そのくらい名乗らせてくれたっていいじゃないか!ドケチかお前!!」



 肩で息をしながらヴァルデマーが訴える。それをつまらなさそうに眺めていたゲアトルースは、良い事を思いついたとでもいうように、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。



『よかろう。お主に魔王を名乗らせてやる。その代りやってもらいたい事がある』

「…え、いいのか!?…ゴホン、な、何だ、何をやらせるつもりだ?」



 思わず浮かれそうになったヴァルデマーは気を取り直して冷静なふりをするが、内心小躍りする程喜んでいた。何故なら真の魔王である闇竜ゲアトルースに、魔王と名乗る事を許可されたのだ。これが喜ばずにいられるか。

 魔王になれるのならどんな事でもしてやる。そう思いここまで来たのだ。今更ゲアトルースが何を言おうが、躊躇いは一切ない。



『ではお主に命じよう。ネストーレ王国にいるアウキシリアを殺せ』



 鋭い眼差しで命令されたヴァルデマーは、驚きの余り目を見開いていた。

 それは闇竜が初めて命じた、人を殺せというもの。恐る恐るゲアトルースに視線を返す。ゴクリと唾を飲み込み、慎重に口を開いた。



「アウキシリアって…何?」



 どうやらヴァルデマーは増幅術師アウキシリアを知らないらしい。





 ※※※





 ゲアトルースにアウキシリアを殺せと命じられてから数時間後、ヴァルデマーはワイバーンに乗ってネストーレ王国の国境付近まで来ていた。

 ゲアトルースに説明され、初めて増幅術師アウキシリアを知ったヴァルデマーは、知らなかった事に対して自分に腹を立てていた。



(くそっ、この私が知らない事があるとは…!)



 何でも知っているつもりだったせいで、余計に悔しいようだ。ワイバーンの背から地上の様子を伺う。上空を旋回しながらも、この国境の守備がどの程度なのか確認していた。

 するとその時、小さな地震が起きる。ここの所小規模な地震が頻繁に起こっていたので、すでに珍しい事ではなくなっていた。



「守護竜達が眠っているからだろうな。徐々に影響が出てきているか」



 ニンマリと笑いながら地上を眺める。そして封魔の杖を高く掲げ、魔力を集めた。



「慌てふためく姿を見せてくれよ! 『揺らげ大地(アース・クエイク)!!』」



 その瞬間、ドーン!!と轟音と共に周辺の地面が大きく揺れ、人々が逃げ惑う。地面に亀裂が走り、建物は崩れる。



「はははは!!さすがは守護竜達の力だ!やはり凄まじい!!」



 気分が高揚したヴァルデマーは高笑いをしながら地上を眺める。いきなりの大惨事に街の人々は悲鳴を上げ、街を守る兵士達は走り回っていた。



「ただの地震だと思われるのもつまらんな。だが姿を現すと後々厄介だし…」



 呑気にそんな事を考えていると、地上から何かがキラリと光り、あっという間にヴァルデマーの元へ飛んできた。ワイバーンが間一髪で避け、ヴァルデマーのすぐ横を巨大なランスが通り過ぎる。慌てて地上に目を向けると、どうやら国境の要塞となっている建物の見張り台から一人の男が投げたらしい。



「貴様ぁぁぁああああ!!何者だあああああ!!!?」

「っ!?」



 ブワッと上空まで恐ろしい程の威圧が飛んでくる。それに慄いたワイバーンが、一瞬混乱状態になった。



「おっと!落ち着け!!」



 慌てて宥めるがワイバーンは落ち着かない。こんな上空まで威圧を飛ばすとはどんな奴だと目を凝らしてよく見ると、ネストーレ王国一と謳われた男、イエルハルド・コンラードだった。



「コンラード辺境伯か!まずいな、ここはコンラード領だったか…!!」



 数ある国境の中でも最強と(自分達で)名高いコンラード領だったか。ヴァルデマーは内心舌打ちする。どうしたものかと考えながらもワイバーンが旋回していると、次々と攻撃が飛んできた。




「お前達、奴を撃ち落とせ!!」

「「「「「「「はっ!!!!」」」」」」」



 掛け声とともにランスや大砲、魔法と色んなバリエーションで攻撃が飛んでくる。


 ここに来てヴァルデマーVSイエルハルドの戦いの火ぶたが切って落とされた。





ヴァルデマー、ちょっと残念な男です( ´,_ゝ`)

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