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弟が会いに来ました


 次の日、何故かイエルハルドからイルナに邸に来るよう伝言をされ、不思議に思いつつもコンラード邸へ訪れた。

 ギュンターに案内され、応接室へ向かう。ノックをしてから入室すると、イエルハルドと向かい合わせに座る青年の後姿が目に入った。

 誰だろうと首を傾げると、青年が振り返る。ダークブラウンの髪にイルナと同じ琥珀色の瞳。懐かしいその顔に驚き、イルナは思わず声を上げた。



「ラルスじゃない!どうしたの、一体」

「久しぶり、姉さん」



 口の端でニッと笑い、ラルスがイルナを見る。この弟はどちらかと言えば無表情なので、この笑い方は随分好意的な笑顔だ。

 久しぶりの姉と弟の対面にイエルハルドも微笑ましそうに眺めていたが、とりあえずイルナにも席に着くよう勧めた。

 イルナが座ると、イエルハルドがラルスを見る。ラルスもイエルハルドの視線を受けて頷き、イルナに向き直った。



「姉さん、単刀直入に言うけど」

「何?」



 ラルスは回りくどい言い方は好まない。ここに来たのは間違いなく両親の使いだろう。そう思ったイルナは姿勢を正してラルスを見た。



「一度王都へ戻って来て欲しい。父さんと母さんが話があるんだって」

「え…」



 予想外の言葉に目を丸くすると、ラルスは溜息をつく。



「姉さんこの前家に帰って来ただろ?あれから父さんと母さんは大騒ぎなんだよ」

「あー…」



 エーテルを持って行った時の事だ。確かにアレは騒がれるだろう。

 心当たりがありすぎるイルナは乾いた笑みを浮かべていると、イエルハルドが驚いたようにラルスとイルナを見た。



「は?イルナが一度王都に戻ったのか?そんな馬鹿な。毎日家にいたじゃないか」

「あ、えっと…」



 確かに毎日家に帰っていたし、多分イエルハルドが派遣してくれてる侍従はそのように報告しているだろう。

 イルナの家にいる侍従はイエルハルドが手配した者だ。監視…と言っては聞こえが悪いが、イルナの安全の為に毎日イエルハルドにその日の報告をさせていたのだ。



「コンラード辺境伯、姉は何やら特別な魔道具を使って家に転移して来たらしいですよ。僕は見てませんが母が遭遇したらしいです」

「転移…?イルナが魔道具を使って?本当か、それは?」



 イエルハルドが信じられないような顔をしてイルナを凝視している。

 ここで嘘をつくのもおかしいので、イルナはただ無言でうなずく事にした。



「コンラード辺境伯が驚かれるのは無理もないですよ。何しろ僕だって信じられないんですから。でも、母は実際姉を家で目撃して、姉の手紙と姉が作ったらしいエーテルを貰ったと言ってました。勿論家の者達は誰一人姉の姿を見てもいませんし、手紙やエーテルも誰からも預かっていない。ならば母が言った通り姉が自分で届けたので間違いないでしょうね」


「ラ、ラルス…」



 改めて言われると自分はとんでもない事をしでかしたような気になってくる。よくよく考えればキルスティに巫女の仕事を教わり、母の手助けになるようにと考えなしにエーテルを届けたのも事実だ。見つかった時はヤバイとしか思わなかったが、騒ぎになるなんてあの時は全く頭になかった。



「イルナ、ちゃんと説明してくれるね?」

「…はい、小父様」



 観念したようにイルナが今までの事をイエルハルドとラルスに話し出した。


 ウィクトル達と街に行った時にハーブ園でエルフに出会った事。

 エルフが自分を増幅術師アウキシリアだと教えてくれた事。

 レッドハーブをあげる代わりにエリクサーを作って欲しいと言われた事。

 魔法の特訓をしてくれている事等。


 それらを話し終えた時は、二人は何とも言えない表情をしていた。



「そんな事になっていたとは…。それにしても我が領にエルフが店を出していたとは知らなかったな」

「キルスティは普段人間に見えるよう変装していますから…」

「それにしても姉さんって、ほんと話題に事欠かないよね」

「そ、そんな事ないわよ」



 ラルスに言われてイルナが少し膨れる。別に話題に上るような事は何もしていない。

 言われているとすれば、王都を追放された無能な令嬢、くらいだろう。

 そこまで考えて段々落ち込んでくる。それなのに今更王都に来いだなんて、恥をかきに来いと言っているようなものだ。

 そんな事を悶々と考えていると、ラルスが小さくため息をつく。



「姉さんが何考えてるか知らないけど、王都には絶対に連れて帰るよ。父さん達の話が終わればまたこっちに戻ればいいんだし、とにかく拒否権はないから」

「それなら私も一緒に行こう。戻る時にイルナだけだと心配だからな」

「え、小父様が?でもお仕事があるんじゃ…」

「そうですよ。コンラード領から王都まで往復したら2週間はかかります。そんなに突然穴を開けられないんじゃないですか?」

「しかしな…」



 イエルハルドがうーんと唸る。するとラルスが何かを思いついたようにイルナを見た。



「そう言えば姉さん、転移のオーブ持ってるんだろ?それで3人転移させられないの?」

「え?さ、さあ…。誰かと一緒に転移なんてした事ないからわからないわ」

「じゃあやってみようよ。今持ってる?」

「も、持ってるけど…」



 チラリとイエルハルドを見る。けれどイエルハルドは静かに目を閉じ、何かを考えているようだった。

 そして徐に目を開き、ラルスをじっと見る。ラルスも何を言われるのかと少し構え、黙ってイエルハルドを見据えた。するとイエルハルドはいたく真面目な顔で



「とりあえず昼食にしよう」




 と言ったのだった。







 ※※※







 急に話の腰を折るようにイエルハルドが昼食の用意をさせたのには、さすがにラルスも脱力する。言われるがままに場所を変え、椅子に座らされると、そこへドロテアがやってきた。



「あら、イルナも一緒に昼食?というかお父様も?珍しいですわね」



 晩餐でもないのに顔をそろえている事に驚いたドロテアが、今度はラルスを見て目を瞠る。

 ラルスもドロテアを見て僅かに目を瞠り、二人はお互いに見つめ合ったまま固まってしまっていた。



(な、何…?)



 不思議に思ってイルナがラルスとドロテアの顔を交互に見る。

 そこへイエルハルドがやってきて、ドロテアを見て声をかけた。



「ああ、ドロテア。彼はイルナの弟のラルス殿だ。ラルス、娘のドロテアだ」



 二人はイエルハルドの声にハッとなり、お互いに挨拶を交わす。



「ドロテア・コンラードです」

「ラルス・ルーメンです」



 そして再びポーっと見つめ合う二人。



「ん?どうした、二人とも。さあ、食べるぞ」



 二人の様子に全く気付いていないというか、全く見ていないイエルハルドはさっさと席に着く。

 イルナはハラハラしながら二人を見ていたが、二人もそっと席につき、昼食を取り出した。


 そして時々二人は視線を合わせ、頬を染める。



(ああ、これ確実に…)



 お互い一目惚れしてしまったらしい。




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