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コンラード領の図書館へ


 その後、少し話をしていた二人だったが、時間も時間なのでイエルハルドの邸に戻って行った。

 イルナの家を出る時、イルナがウィクトルを呼び止めた。



「ウィル様」

「何だ?」



 服の裾をクイッと引っ張り引き留めると、ウィクトルが驚いて振り返る。

 ちょっとした意地悪心でイルナは寂しそうな顔をしてみせた。



「二人だけの秘密じゃなくなりましたね」

「…!」



 キルスティのハーブ園で彼女があっさりとユリウスの前でばらした時に、すでに二人の秘密ではなくなっていたのだけれど、ウィクトルの話だと西の森の探索中にもイルナの話をしていたようだし、それならウィクトルが喋ったと言ってもおかしくはない。こじつけだが。

 そういう意味でウィクトルに意地悪をするつもりでガッカリしているフリをしてみたのだが、ウィクトルの顔を見たイルナが逆に驚かされた。

 

 何故ならウィクトルが片手で両目を覆い、何故か上を向いていたからだ。

 思わず心配になってイルナが慌てる。



「あ、あの、冗談ですよ!その、全然気にしてませんから!」



 何となく罪悪感が湧いてしまい、イルナが慌てて弁解したがウィクトルはまだ目を覆ったままだ。

 そして落ち着かせるように大きく息を吐き、ようやくイルナの顔を見た。



「…大丈夫だ、ちょっと目が…心臓が…危なかっただけだ」

「え!?ご、ご病気なんですか!?」

「ある意味病気だよねぇ、ウィル?」

「うるさい、余計な事を言うな」



 堪えきれずに笑い出すユリウスの様子からして、病気という訳でもなさそうだ。

 ひとまず安心したイルナは、気を取り直して二人を送り出す。


 ウィクトルはイルナに「また来る」とだけ告げると、ユリウスと今度こそコンラード邸へ帰って行った。

 二人を見送っていたイルナは、何となく複雑な思いで二人の背中を見つめていたが、見えなくなった所で自分の家の中に戻った。


 夕食を終え、自室のベッドで休んでいると、さっきのユリウスの言っていた事が頭をよぎる。



(人の身体能力や魔法にも増幅魔法が使えるなんて、考えもしなかった)



 歴代の増幅術師アウキシリアも色んな事に巻き込まれたんだろうか。

 そんな事を考えていると段々とウトウトとしてくる。



(ああ、そうだわ。生命の木の場所を探さないと…。明日小父様に聞いてみよう…)



 そこまで考えて、イルナの意識が途切れる。

 連日の魔法の訓練で疲れているらしく、イルナは深い眠りについた。






 ※※※






 翌日、イルナは生命の木を調べる為に、まずはコンラード邸へ向かった。

 コンラード邸では門で引き留められる事もなく、当たり前のように玄関へ足を運ぶ。

 エントランスで侍女に指示を出していたギュンターを見つけると、イルナはギュンターに声をかけた。



「おはようございます、ギュンターさん。少しお尋ねしたい事があるんですが…」

「はい、おはようございます、イルナ様。私で分かる事でしたら」



 礼儀正しくお辞儀をされ、イルナも少しかしこまる。

 このギュンターという青年は、執事としても優秀だがその実何を考えているのか全く読めない。わかっている事といえば、イエルハルドを死ぬほど尊敬している事くらいだ。そしてその娘のドロテアの事もとても大事にしている、まさに執事の鑑のような人だ。



「あの、少し調べ物をしたいのですが、コンラード領に図書館とかありますか?」

「ええ、ございますが…お出かけなさると言う事でしょうか?」

「できればそうしたいのですが…」

「イエルハルド様の許可は?」

「…これからです」



 ふむ、と何かを考えるようにギュンターが顎に手を当てる。

 そして「しばらくお待ちください」とだけ伝えると、邸の奥へ姿を消してしまった。


 それから待つこと数分、再びギュンターが戻って来た。



「イエルハルド様の許可をいただきましたので、私が図書館へご一緒しましょう」

「…え?いいんですか?」

「ええ、それとイルナ様の侍女のアミンも同行させましょう。執事とはいえ男性と二人で街へ行くのは、あまり褒められた事ではありませんので」

「わ、わかりました!すぐにアミンを呼んできます!」

「ああ、イルナ様はこちらでお待ちください。私が呼んできますよ」



 そう言って軽く会釈をし、ギュンターはわざわざ自分でアミンを迎えに行った。

 誰か召使の人に呼んでもらえばいいのに、なんて思いながら待っていると、すぐにアミンとギュンターが現れる。


 3人はコンラード家の馬車に乗り、街へと向かった。



「イルナ様は何をお調べになりたいのですか?」

「えっ」



 馬車の外の景色を眺めていると、アミンに質問された。

 どうやらギュンターが呼びに来た時に、イルナが調べ物をする為に図書館に行きたいと言っていたのを聞いたらしい。



「…生命の木について調べたくて」

「生命の木…ですか?」



 アミンはよくわからないらしく、不思議そうに首を傾げている。

 正直イルナ自身も生命の木なんてものは聞いた事も見た事もない為、説明のしようがない。

 ただキルスティが、エリクサーを作る為に必要だと言うので調べるのだ。



「生命の木…聞いた事がありませんね。イルナ様はそれをお調べになってどうなさるんですか?」

「それは…秘密」



 秘密と言うとアミンが興味深そうにイルナを眺める。けれどそれ以上何も言いそうにないイルナを見て、アミンもそれ以上追及しようとはしなかった。


 街に到着し、ギュンターが馬車を預けて図書館に案内してくれた。

 予想していたよりも大きな建物に驚き、イルナの目が輝く。


 調べ物をするとは言っていたが、純粋に本を読むのは大好きなイルナは、とても興味深げに中に入って行った。



「すごいわ…」



 予想以上に沢山の本に、イルナは少し興奮する。

 ギュンターとアミンには入口に設けてあるカフェで待ってもらう事にし、イルナは中へと足を進めた。


 とりあえず植物に関する書物が置いてある棚を探す。

 探していた本は比較的手前の方に置いてあった。



「『世界の植物図鑑』…これに載ってないかしら」



 手にした図鑑をめくる。

 色んな植物の事が書いてあり、その生息地や性質まで細かく書かれていて、イルナは思わず見入ってしまった。



(でも、これには載っていないわ…)



 パタンと本を閉じる。

 そもそも「生命の木」なんて大それた名前の木なんて、普通の図鑑に載っているはずもない。

 イルナは視点を変えて探してみる事にした。



(エリクサーを作る為の材料なんだから、薬物の本とかそっちかしら。それとも童話とか神話とかに出てくるとか…)



 いくつか目ぼしい本を手に取り、椅子に座る。

 ゆっくりと一冊ずつ目を通してみたが、どの本にも「生命の木」についての記述はなかった。


 大きくため息をつく。

 さすがにコンラード領を馬鹿にする訳ではないが、王宮の図書館でもないのにそんな見た事も聞いた事もないような「生命の木」に関する本が見つかる訳がないか、とイルナは思った。



(…ん?王宮の図書館ならあるのかも…)



 よく考えれば王宮の図書館なら、ギュンターについて来てもらわなくても行けるではないか。

 キルスティにもらったあのオーブを使えば、一度行った場所に行けると言っていたし、実際に王都の自分の部屋には転移できた。



「…試してみようかしら」



 王宮の図書館に入るには、一応許可がいる。が、確か王都にいる時に許可証を作っておいたので、王都の自室に行けばそれはあるはずだ。

 そうと決まればもうここには用はない。イルナは図書館のカフェへと戻り、ギュンターとアミンの姿を探した。



(…あら?)



 二人の姿を見て声をかけようとしたが、思わず足を止める。

 何故かギュンターがアミンの手を握り、アミンは恥ずかしそうに頬を染めながら少し下を向いていた。



(あれって…)



 どう見てもギュンターがアミンを口説いているように見える。

 そう言えばこの二人、お互いに独身だったな。なんて事を考えながら、ぼーっと眺めていた。


 ギュンターは物静かで執事の鑑のような人物だが、男性として見るなら普通に整った顔をしている。ドロテアが何で未だに独身なんだろうと言っていたくらい、侍女にも密かに人気があるらしい。

 対してアミンは王都からイルナについて来てくれた侍女で、現在21歳のこちらも独身だ。明るくてちょっと力持ちだが、気立てのいい女性だ。地味に装っているが、普通に可愛らしい愛嬌のある顔をしている。

 ギュンターの年齢は30代前半と聞いていたから、一回りくらい違うのか、なんて考えていたら。



「イルナ様、もうよろしいのですか?」

「イルナ様!いつからいらしたのです!?」



 ギュンターとアミンに気付かれ、同時に声をかけられた。

 ギュンターは平然としているが、アミンはどことなく挙動不審だ。

 ここは気付かないふりをしてあげようと、イルナはニッコリと微笑んだ。



「ええ、特に見たい本がなかったので今日はもう帰ります。お二人ともありがとう」

「わかりました。では馬車へ」

「はい」



 結局その日は何の収穫もなく、家に戻る事になった。

 けれどどうしても黙っていられなくなり、自室でイルナの世話をしてくれているアミンに聞いてみる事にした。



「アミン、ギュンターさんに告白でもされたの?」



 ガチャン!とカップを落としたアミンが驚いた顔でイルナを凝視している。

 その顔はみるみる赤くなり、視線を彷徨わせだした。



「あの、そのっ…、いえ、…えと……」



 慌てふためくアミンが可愛くて思わずクスリと笑ってしまう。



「ギュンターさん、いい人だと思うわ。アミンがいいなら私応援する」

「……は、はい…」



 消え入りそうな声で返事をしたアミンは、恥ずかしそうに退室した。

 アミンとギュンターさんが恋人になるかは気になる所だが、あまり首を突っ込んで駄目にしたくはない。

 この話はアミンが言ってくれるまで、もう突っ込まない事にした。





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